クラディールに憑依しました
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尊い犠牲になりました
予想以上にモンスターが多い。これは部屋に入ったプレイヤーのレベルに合わせて敵が強くなるトラップだったか。
俺とアスナ、リズにキリト、シリカも含めればトンでもない数が量産された筈だ。
「てりゃああああッ!!」
アスナの周辺に居た雑魚モンスターが一瞬にして葬られた、リズの周りもスッキリ片付けられている。
しかしリポップするモンスターの数も多い――――宝箱が警戒音を出し続けて敵を呼び続けてる。
「あーもうッ!! 何よこいつらッ! 倒しても倒しても沸いてくるじゃないッ!!」
「リズ、宝箱だ、ぶっ潰して黙らせろッ!!」
「――――――あれかッ! 了解っ!!」
リズが全体重を乗せるように、フルスイングでメイスを振り下ろした。宝箱は三分の一まで潰れて消滅した。
「敵のリポップが止まったわ!」
「よし。掃討するぞッ!!」
敵のリポップが止まったからなのか、集中力が切れたのか――――――。
「サチさんッ!? 危ないッ!!」
サチの背後に迫ったゴーレムの一撃を――――シリカが飛び込んでソードスキルで相殺したまでは良かった。
シリカの短剣は弾き飛ばされ、短剣を拾う間もなく二撃目がシリカを襲った。
「かはッ!?」
吹き飛ばされたシリカが、モンスターの群れに突っ込んだ。
「シリカちゃんッ!?」
「シリカっ!?」
次々とシリカに攻撃が加えられ、HPゲージがあっと言う間に減って行く。
「…………いやッ! いやあああああ!?」
シリカは自分の死を悟り、恐怖の悲鳴を喚き散らす。
それに呼応する様に、アスナとリズ、そして俺がシリカの周りに居たモンスターを全て吹き飛ばし、消滅させた。
「シリカちゃん無事!? 大丈夫!? 生きてるよね!?」
「――――ッ。あたしは…………大丈夫、です――――――でもピナがッ!!」
アスナが助け起こしたシリカの周りにはピナの羽が飛び散っている――――シリカのHPゲージはギリギリ残っていた。
「…………最後に、あたしにブレスを――――ピナが……あたしを――あたしのせいで、ピナが……」
「悲しむのは後にしろ、戦えないなら邪魔にならない所でじっとしてろ」
「あんたはッ! こんな時ぐらい優しい言葉の一つでも掛けてあげなさいよッ!」
「時間が無い。掃討が先だ」
それから暫くして、全てのモンスターは倒され、俺以外全員が座り込んでいた。
「さて、宝箱からは何が出た?」
「………………あんたこんな時にアイテムの話? ……あたしのアイテムストレージにトラップ破壊のドロップがあったわ。
結構上位のインゴットね、相場は最低でも十五万以上かしら……」
「リズから見ても価値があるか?」
「ええ、コレで武器を作ったら当分は最前線で活躍できるわね」
「――――さて、インゴットの交渉と行きたいが、今回の責任を問い質さねばならんな」
「せ、責任って何ですか? 俺がトレジャーボックスを開けたから…………とか?」
「細かい責任を問えばそうなるだろうが――――根本的に今回の事故、いや事件を防げた人物が居る」
「防げた……? 何を言ってるんですか、そもそも、こんなトラップ、予想できる訳が無いッ!」
「それが居るのだよ、一度この迷宮区をクリアし、トラップの危険性を充分把握していた人間が」
「――――それって、まさか?」
全員の視線がキリトに集まる。そして、ダッカーがキリトに話しかけた。
「まさか、だろ? 知ってたのかよ!? キリト!?」
「………………あぁ」
「――――知ってたら、知ってたら何で止めなかったんだよッ!?」
「……止めたさ……何度も、反対しただろ……」
「でも、ハッキリ言ってくれれば――――――こんな事にはならなかった筈だろ!?」
静寂の中、感情と声を押し殺して嗚咽するシリカの小さな声が聞こえてくる。
「それは――…………すまない。俺のせいだ……」
「元々、この迷宮区にはデストラップが多く、シリカにはこの迷宮区には近付かないように言って置いた筈だ、何故入った?」
「…………ごめんなさい。あたしが悪いんです――――みんなを止められなかったから、キリトさんだけのせいじゃ、ないんです」
「謝罪を求めている訳じゃない、何故お前達はこんな所に来た? 危険だと解っていながら」
「みんなで、家具を買うお金を稼ごうって…………それで……」
「――――そうか…………大体判った、だが今回アスナ様が来ていなければ、今のトラップで全員死んでいた筈だ。
貴様以外な――――黒の剣士キリト」
「………………黒の剣士?」
「そう、こいつは攻略組だ、ソロで最前線に挑み、上位プレイヤーの三本指に入る最強プレイヤーだよ。
βテストの情報を独り占めして、はじまりの街に取り残されたプレイヤー達を見捨てた――――ビーターだ」
「――――嘘だろ!? ……嘘、ですよね……!? ……キリトが、そんな……ビーター」
「攻略組でそいつの顔を知らない奴は居ない。本当のレベルも偽って月夜の黒猫団に入ったのだろう。
そいつは此処に居る誰よりもレベルが高い、こんなトラップなんて一人でも生き残れるほどな。
――――今レベルがいくつか言ってみろ」
「……………………五十二だ」
――――――思っていた以上に低い。
毎晩サチと添い寝を続けていた結果だ。キリトは黒猫団と同じ時間しか狩が出来ず、最前線の安全マージンまで僅かに届いていない。
「――嘘だッ!! 嘘だぁああッ!? ――――なあキリト!? 嘘だって言ってくれよ!? 全部解ってたのか!?
俺達が此処で死ぬ事も、全部っ!? 今までずっと一緒だったじゃないかッ!? 弱い俺達を見てずっと笑ってたのか!?」
「違いますッ! キリトさんはそんな人じゃありませんッ!! あたしも、あたしもいけないんです……。
――――キリトさんの事、知ってて……黙ってたんです」
「……なあキリト、シリカちゃんに此処まで言わせて、何で何も言わないんだよッ!? 何で言ってくれないんだよッ!?」
キリトに殴り掛かるダッカーを、テツオとササマルが止め、ケイタがキリトの前に立った。
「キリトが凄い奴じゃないかってのは、会った時からそう思ってた。でも、こうなったからには、もうギルドには置いておけない。
――――ビーターのお前が、俺達に関わる資格なんて無かったんだ――――月夜の黒猫団から除名する」
キリトのHPカーソルから、月夜の黒猫団のギルドエンブレムが消失した。
「さて、コレで終わりと行きたい所だが――――残念ながらシリカには休暇が必要だ、その穴を埋める人材が欲しい」
「…………戦闘要員が必要なら、俺がやる」
「――――確かに、戦闘要員も必要だが――――こちらが求めているのは事務員だ、シリカの仕事をやって貰う」
「あの、それなら私がやります。ピナが死んじゃったのも私のせいだし…………」
「待ってくれッ! サチは悪くないんだ、全部俺のが悪いんだ――――だからサチは」
「大丈夫だよ、キリト、私、事務のお仕事は少しだけど手伝ったことがあるから」
「――――決定で構わないな? アスナ様から血盟騎士団の加入要請を受けてくれ――――それと、リズ」
「…………何よ?」
「月夜の黒猫団をあそこに案内してくれ」
「……あそこって、アレよね? ――――解ったわ」
「さて、黒の剣士様にはお仕事が残っている――――付き合って貰おうか?」
「――――わかった」
こうして、月夜の黒猫団は全滅を回避し、ピナだけが犠牲となった。
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