ドラクエⅤ主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?
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一部:超絶美少女幼年期
五十二話:とても苛酷な奴隷労働の現場で
「なにを、のろのろしている!さっさと、働け!働かないか!」
ピシィッ!と鋭くムチが唸る。
「ああっ、すみません。今、やりますから」
ムチに怯え、哀れっぽく作業を再開する美少女、ていうか私。
「だらだらするな!」
「さぼるんじゃない!」
あちこちで飛び交う怒号、小さな悲鳴。
ああ、なんて苛酷な奴隷労働の現場……!
と、人間ぽいヤツ(魔物)の一匹が、走り寄ってきます。
「ドーラ様。あそこの作業の進め方ですが」
「ちょっと。演技はどうした」
「はっ!すみません!」
「声がでかい!せめて小声で!(小声)」
「はっ!申し訳ありません!少し、お時間いただけないでしょうか!(小声)」
「わかった(小声)……ああっ、すみません。すぐに、行きますから。ぶたないで、ください!」
「最初から、素直にそうすればいいんだ!」
用があるなら、高圧的に
「お前は別の作業だ!逆らわず、今すぐ着いてこい!」
くらい言ってほしいもんですが。
まあ最初だからね、アドリブきかないのも、仕方ないね。
人間ぽいヤツ(魔物)に着いてって、演技と小声を交えて作業の指示を済ませ、再び作業に戻ります。
戻る道すがら、みなさんの様子を観察しますが。
「きゃー、やめてー(棒)」
「うわーっ!許してくれーっ!(ノリノリ)」
棒読みにも程があるお姉様に、ノリノリ過ぎてコントみたいになってるおじちゃんに。
まだまだ、改善の余地がありますね!
今日の作業が終わったら、反省会をしないと!
そんな、それぞれに拙いながらも頑張って演技してくれてるみなさんの中、淡々と作業を続けるだけの輩が、一人。
「ちょっと、ヘンリー。真面目にやってよ」
「……やってるだろ」
「そういうのは、真面目とは言わないの。この場合」
「……本当に、必要なのか?あれ」
「必要でしょ!いつ、別の魔物が来ないとも限らないんだから!バレたら奴隷監督総入れ替えで、私の力が効かない強くて賢いのばっかり揃えられて、本当に苛酷な労働環境になっちゃうでしょ!」
「……わかったよ」
ヘンリーも渋々納得したらしいところで、近くにいた人間ぽいヤツ(魔物)に目配せします。
私の意図を察して、ヘンリーに向かいピシリとムチを振るう、人間ぽいヤツ(魔物)。
「働け!働かないか!」
「……」
なんか口を開いたり、閉じたりしてるヘンリー。
反応が無いことに少々狼狽えながらも、果敢に再挑戦する人間ぽいヤツ(魔物)。
「おい!聞いてるのか!」
ピシィッ!
「……」
なんか頑張って言おうとしてる感はありありと感じるものの、言葉が出てこないヘンリー。
……頑張れ!諦めんな!
超焦って、闇雲にムチを振るう、人間ぽいヤツ(魔物)。
「おい!こら!おいったら!聞いてるのか!聞いてたら、返事をしろ!!」
ピシ!ビシ!ピシィッ!
「……」
頑張れ!諦めんな!
どうしてそこでやめるんだ!
できるできる、絶対できる!
気持ちの問題だ、頑張れ、そこだ!
「おい!おい!返事をしろ!してください!お願いします!!」
人間ぽいヤツ(魔物)、半泣き。
「……」
かなり気まずそうになりながらも、やっぱり言葉の出ないヘンリー。
……うん、悪かった。
「……ごめん、ふたりとも。もう、いいから。なんか、別の。考えよう」
「……力が足りず、申し訳ありません……」
項垂れる、人間ぽいヤツ(魔物)。
いや、君は、頑張ったよ。
無茶振りした、私が悪かった。
「……すまん」
かなりバツが悪そうに、謝るヘンリー。
「そんなに抵抗あると思わなかったから。私も、悪かったよ」
良識派お坊っちゃまの恥じらいを甘く見てた、私が悪かった、ような気がします。
城では王子様キャラ作ってたし、いけるかと思ったんだけど。
素を晒したあとってなると、やっぱり違うんだろうか。
「うん、仕方ないよね……。できないものは、できないよね……」
ずっと一緒に旅する仲間なら、あんまりできないできないでも困るけど。
最終的には城に戻ってもらうつもりだし、下手に応用力高くならないでいられたほうが、いいと言えばいいのか。
「……待て。やる。やっぱり、やる」
「え?いや、無理でしょ。かなり頑張ってるの、見てたし。それで、ダメだったんだから」
やっぱり、向き不向きってあるよね。
「大丈夫だから。やる。絶対、やる」
「いいって、無理しなくて。なんか別のキャラ、考えるし」
怒鳴られても何されても歯を食い縛って淡々と働く、無口キャラとかそんなの。
と、折角設定を練り直してる私を置いて、ヘンリーが人間ぽいヤツ(魔物)に声をかけます。
「すまん。もう一回、頼む」
「え……?」
戸惑う人間ぽいヤツ(魔物)。
うん、散々頑張ってくれたもんね、もうイヤだよね。
「いいから、ホントに。無理しなくて」
「いや!本当に、頼む!」
私の顔色を窺いながらも、ヘンリーの熱意に押されて、再びムチを振るう人間ぽいヤツ(魔物)。
「は、働け!働かないか!」
ピシィッ!
「……す、すみません!今、やります!」
あれ。
なんで、あっさり吹っ切れてるの?
「のろのろするな!さっさと、しろ!」
「はい!すぐに、すぐにやりますから!」
しかも、何気に演技力が高いんですけど。
……演技歴は長いだろうから、思い切れさえすればできるというのは納得できるんだけど。
なんで、いきなり開眼してるの?
なにが切欠だったの??
そんな私の困惑を他所に、迫真の演技を続ける男たち。
演技を通して、通じ合ってる感すらあります。
……かなり、置いてきぼり感がありますが。
きっと、彼(魔物)の懸命な姿に、絆されたんだね!
熱い、男の友情か!
うん、なかなかいいものだね!
「ありがとう!お蔭で、演り切れた!」
「いい、演技でした!」
「お前もな!」
ひと通り演じ終えて、固く握手を交わし合う男たち。
おい、演技はどうした。
と言いたいところだが、折角ヘンリーが演技派に目覚めたところだからね、ちょっとくらい、いいか。
「頑張って、くださいね!」
「ありがとう!頑張るよ!」
何故か人間ぽいヤツ(魔物)に励まされ、普通に応じてるヘンリー。
全くわからんが、なんか通じ合ってるらしいね。
うん、よかった、よかった。
「ドーラ!俺は、できるからな!」
「うん?そうだね。すごいね、よかったね」
見てたので、できたのは知ってますけど。
なんだ、そのドヤ顔は。
「ドーラ。負けねえからな!」
えっ、勝負だったの?今の。
抵抗無く始めてた時点で、私の圧勝だった気がするけど。
まあ、とにかく。
「私だって、負けませんけど?」
なんだか知らんが、宿敵に負けるわけにはいきませんよ!
イケメン美女としてモテモテライフを送るには、やはりある程度の演技力は、必要だからね!
演技だって、負けないよ!!
後書き
誰かに指摘されるまで、延々奴隷ライフを書き続けよう!という酷い構って思考の元、散々ぐだっておりましたが、めでたくご指摘頂いたので、次回は十年後です。
なにしろ十年なので、その気になれば広げ放題ですからね!
とは言え、精神的に少々苦しくなってきたところだったので、いいところでご指摘頂いて良かったです。
本当にありがとうございます。
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