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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
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役者は踊る
  第三六幕 「遙か遠い過去からの」

 
前書き
2/28 ミスを修正 

 
前回のあらすじ:楽しい宴会でしたね・・・


「本当にすまなんだ!!弟に代わってこの俺が世界一美しい土下座を見せるから許してやってくれ!この通りだッッ!!」
「おお・・・おお!これが本場の土下座・・・!地へ堕とす気位(プライド)、霧散する地位(ステイタス)、そして浮かび上がるのは支えの決意・・・!!唯の謝罪とは背中から溢れる祈念のオーラが違う!」
「いや何言ってるか全然分からんぞボーデヴィッヒ!?確かにジョウさんの土下座は一種の神秘的な力を感じるが・・・ってボーデヴィッヒ!?なぜおまえも土下座している!?」
「これは感謝の土下座・・・今、この瞬間に対する圧倒的感謝の・・・!」

ユウがラウラを突如はっ倒し手から数分後。意識を取り戻したラウラに何故かジョウが謝り、それに何やら感銘を受けたラウラが土下座で返す。この圧倒的なボケを捌くには箒では役者不足だったようだ。(ちなみに役者不足は造語であり正しい日本語ではなかったりする)
ちなみに真っ先に謝るはずだったユウはというと・・・

「うわぁぁぁぁぁ!止めるな一夏、鈴!俺は・・・俺はあの二人にツッコミを入れなきゃいけないんだ!!」
「どうしてだユウ!何がお前をそこまで駆り立てる!?」
「酢豚!酢豚作ってあげるから落ち着いて、ね!?」
「何で酢豚やねぇぇぇぇぇん!!」
すぱーん!

暴走していた。



~しばらくお待ちください~



「なるほど、言われてみれば確かにあれでは説明不足だな・・・」
「漸くここに、問題意識の共有が、為された・・・」
「ここにこぎ着けるまで長かったね・・・」

しみじみと語る面々。こんな簡単なことを伝えるのに、どうして人はこれほどの時間を掛けねばいけないのか。さり気にドイツの代表候補選をはっ倒したというのは国際問題につながる可能性もあったりするが、突っ込まれたラウラ本人が気にしていないようなので何とか免れた。

「まず施設というのは・・・あれだ。国が運営する少ども兵を育成する施設だと思ってくれ」
「はい終わりー!!お話終了ーーー!!!」
「早い!?まだ話し始めたばかりだぞ!?父の影すら出てきていないぞ!?」
「お前はもう少しお国の事情を察してから喋ってくれ!内容が限りなくアウトなんだよ!」

国際条約違反(具体的に言うと『ジュネーブ諸条約』とか『子供の権利条約』とかそういうの)の匂いがプンプンするためジョウがすぐさま話を打ち切った。彼の記憶が正しければドイツはその両方に批准していたはずである。

もしそんな施設が実際に存在したらどう考えても国際社会の非難を受けるだろう。で、それがないという事は彼女の言う施設は国と軍が組んで秘匿している可能性が高い。ぶっちゃけ隠している時点で「違法なことしてます」と言っているも同然である。というかそもそもラウラが15歳で少佐という時点で限りなくアウト。万が一この辺りの事情が周囲に洩れればリアル国際問題発展の危険性があるレベルの発言だった。
IS委員会が幅を利かせている今でも国際連合は一応機能している。ドイツ軍人にして国を代表すると言ってもいい存在である彼女の発言がうっかり正式に議会で上がれば・・・さしもの委員会も隠蔽は不可能となる。

「待ってくれ、もっと喋らせてくれ!実はだな、そこでは遺伝子を弄ってより強い人間を作る実験が・・・」
「もっとアウトだよ!!え?何?君ひょっとして母国を貶めようとしてるの!?」

まさかの事態悪化に突き進もうとするラウラに流石のジョウもちょっと焦る。ユウ以外で彼を焦らせるなど並大抵の人間では不可能だろう。実際ラウラはとんでもなかった。主に発言が。

「ドイツ軍が混乱すれば恐らく私はスケープゴートとして責任を押し付けられ軍籍を剥奪される!合法的にフリーになれば立場を気にせず存分に父に甘えられるのだ!」
「思いっきり肯定してるよこの子ーーー!?!?」
「愛国心は投げ捨てるもの!」
「まぁそういうの、嫌いじゃありませんわ。私も母国に誇りは持ってませんし」
「いや煽っちゃダメでしょセッシー!?」
「らぶあんどぴーすだよセッシ~」
「せ、セッシーって何ですの?」

最終的には休み時間が残り少なくなったことで自然に解散する流れになり、藪の蛇は何とか元の場所に押し返すことが出来た。結局ラウラの父の正体は分からなかった。
・・・が、それがその日のうちに正体が判明することとなるとは、その時は誰も思っていなかったのである。

まぁ佐藤さんは薄々感づいているし、一夏やユウは「千冬は多分知ってるだろう」と答えを得られる人物に心当たりがあったのだが。



 = = =



その日の午後、リハビリによる疲労を心配された先生により早退扱い(しかも保険医曰くいつの間にか脱水症状を起こしていたらしい。次からは横に飲み物を置こう)とされたベルーナの下にイタリア政府から届け物があった。
それはベルーナがISに乗る覚悟をしたことを知った政府が、あらかじめ用意していたそれを渡しただけの事。

イタリアの主流ISは『テンペスタシリーズ』であることは知らされていたから、ベルーナはてっきり同系統のISが来るのかと思っていた。だがISと共に渡された機体データによると、実際には全く違う設計思想で作られた試作ISらしい。

待機形態では蝶形の髪留めであるそのISの名は、「モナルカ」。第3世代兵器のテストベッド機であり、機動力が低い代わりに防御性能は非常に高いそうだ。正に身を守るにはもってこいかもしれない、とベルーナは思った。

モナルカはイタリア語で“君主”という意味であると同時に、“モナルカ蝶”という渡り鳥のように大群で「渡り」をすることで有名な蝶の名でもある。成虫は鮮やかなオレンジ色の羽を持っており、その渡り先を見るためのツアーが存在するほどに美しいらしい。とはいってもイタリアには生息してもいなければ渡って来ることもないのだが。
髪留めの蝶のデザインはそのモナルカ蝶を模しており、おそらく名前を掛けた作成者のちょっとしたジョークなのだろう。

「モナルカ蝶、か・・・」

モナルカ蝶は身を守るために体内にアルカロイドという“毒”をため込んでいるそうだ。羽が目立つ色なのも相手を遠ざける警戒色なのだとか。まるで自ら嫌われ者になりたいみたいで、ほんの少しだけオリムラとノンネに初めて会った時の自分と重ねた。自分が思っていた以上にそれが後を引いていることに顔を顰めたが、すぐに無表情に戻る。

ふと、彼らは何を思ってそんなに長い旅路へと向かうのだろうかと思う。
先祖がそうしていたから?
より良い場所を求めているから?
そう動くよう神様に定められたから?
もし3つ目だとしたら、それは悲しい事だ。決められた役割にただ淡々と従うためだけに子孫を残し、多くの同胞と分かれ、別れ、いつ終わるともしれない繰り返しの大河の一滴として生きてゆく。それにどれほどの意味があるのだろう。神は何故、そんな永遠の苦行を彼らに与えるのか。


それとももしかして、彼らには見えているのかもしれない。
誰にも邪魔されず、誰とも関わらなくていい。世界という名の輪廻から解放される場所(どこか)が。

「・・・もしそうなら、僕も連れて行ってもらおう」

そこはきっといいところだ。誰にも迷惑を掛けずに済む。誰にも煙たがられずに済む。
誰に何を求められることもない、“あの事件”を思い出さなくていい、悪夢を見なくてもいい、ただ静寂だけが広がる安らぎのゆりかご。そこならば、もう逃げる必要も向き合う必要もなくなるだろう。

「行ってみたいな・・・そこへ。・・・ああ、でも。そこへ行くともう皆には会えないのかな?」

それは、少し寂しいなぁ。
でも、案外アングロ達やオリムラ達ならそこまで上がりこんで来るかもしれないなぁ。
ミノリなんかは何食わぬ顔で「朝だよ~」って起こしにくるような気がするなぁ。
伯父さんに手を差し伸べられたら、断れる自信がないなぁ。

「・・・その時はもう一度ゆりかごから出て、今度こそ向き合えばいいか」

例えそれが何の実も結ばぬ定められた繰り返しだったとしても、きっとそれを乗りこえられる可能性を、僕は捨てきれないから。
 
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