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ニュルンベルグのマイスタージンガー

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第三幕その十八


第三幕その十八

「皆が集まり」
「皆が」
「そして一人の子供がここに生まれるのだから」
「子供!?」
 ダーヴィットは子供と聞いて首を捻った。
「今度は何に例えておられるんだろう」
「マイスタージンガーの歌が作られた時は」
 首を傾げるダーヴィットをよそに話を続けるザックスだった。
「こうするのが師匠の慣わしです」
「師匠の?」
「そうです」
 今はヴァルターに顔を向けて微笑んで説明していた。
「師匠として。よい名をつけてやるのです」
「名前をですか」
「その通り。その名前ですが」
「はい」
「できるだけ覚えやすい名前をです」
 こうヴァルターに説明するのだった。
「今騎士殿は詩を作り歌を作りました」
「今のこの歌ですね」
「そうだよ」
 エヴァに対しても優しく語る。
「この新曲の生みの親は私とエヴァを名付け親として招きました」
「はい」
 エヴァも頷いてこのことを認める。
「その通りです。今」
「我々は今その歌を充分に聴いた」
 ザックスはまた言った。
「ですから今洗礼の為にここでいるのです」
「洗礼というと」
 ヴァルターはここでようやくわかったのだった。誰の為の洗礼か。
「そうか。それでは」
「この儀式には証人が必要なのでレーネとダーヴィットにも来てもらいました」
「ああ、それでか」
「それで私も」
 二人もまたここでわかったのだった。
「僕達もここに」
「呼んでもらったのね」
「しかし」
 ザックスはここでまた言うのだった。
「徒弟では証人になれません」
「そうなのか?」
「はい、そうなんですよ」
 ダーヴィットはヴァルターの問いに答えるのだった。
「実はそうなんですよ。責任ある立場じゃないですから」
「そうか。それでか」
「ですから」
 ザックスの言葉は続く。
「彼は先程宣言の歌を見事に歌ったので」
「ああ、さっきの歌ですよね」
「そうだ。だからこそ御前は職人になる」
 このことを彼に告げた。
「今ここでな。職人になる」
「はい、有り難うございます」
 ザックスの前に片膝をつく。ザックスは右手で彼のその頬を叩く。これで決まりであった。
「これで御前は職人になった」
「はい」
 またザックスの言葉に頷く。
「では今は」
「そうだ。証人になってくれ」
 このことをあらためて彼に告げた。
「いいな」
「わかりました。それでは」
「私の幸福は太陽みたいに笑っているわ」
 エヴァがうっとりとして話してきた。
「喜びに満ちた朝が私の為に目覚めるのね」
「そう、今ここで」
 ザックスもそれに頷いてみせる。
「至高の恵みの夢が天上の如き朝の輝きが」
「優しく美しき乙女の前で」
 ザックスも言う。
 
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