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ニュルンベルグのマイスタージンガー

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第三幕その十七


第三幕その十七

「終わりには結局酷い目に遭ってののしられるのがおちだ。だが」
「だが」
「あいつは可哀想だな」
 ここでふと上を見て呟いた。
「徒弟のあいつはな」
「ダーヴィット君のことか」
「あの人のことね」
 ヴァルターにもエヴァにもすぐにわかった。
「そうだな」
「その通りね」
「皆から馬鹿にされるのだからな。レーネまでもが食べ物の残りを夜に食べさせる始末だ。それにしてもあいつはまだ帰っては来ないのか?」
「親方」
 エヴァはいたたまれなくなって遂にザックスに声をかけてきた。
「私は貴方の御心にどう報いたらいいのですか?」
「私のかい」
「そう。どのようにしたら」
 こう彼に問うのだった。
「若し貴方の愛がなく貴方がいなかったら私はどうなっていたか」
「わからないというのかい?」
「はい」
 返事が切実なものになっていた。
「子供だった私の心を目覚めさせてくれて人が褒め称えてくれることを教えてもくれたし本当の心というものも貴方のおかげで思うようになり」
「極端なことを言う」
「極端ではなく」
 そうではないとさえ答えた。
「気高く大胆に考えることも教えてくれて」
「それもなのかい?」
「そう。それだけでなく」
 エヴァの言葉は続く。
「私を花咲かせてくれて。正しい道に導いてくれて」
「選んだのはエヴァちゃんだよ」
「私だけではとても」
 こう答えて首を横に振る。
「若し私に選択の余地があれば」
「あれば?」
「貴方が」
 じっと彼を見上げる。
「私の冠は今日は」
「エヴァちゃん・・・・・・」
「私は選んでいたわ」
「こんな話を知ってるかな」
 ザックスはそのエヴァの熱い視線に対してまた言ってきた。
「トリスタンとイゾルデの話を」
「確かそれは」
「あの二人は」
 エヴァだけでなくヴァルターもその話を耳にして呟いた。二人も又知っているのだった。
「私はマルケ王じゃないんだ。ハンス=ザックスなんだ」
「ハンス=ザックス・・・・・・」
「私はトリスタンではないけれどいい騎士殿を見つけた」
 ヴァルターを見ての言葉であった。
「私はマルケ王ではないのだよ」
「では親方は」
「貴方は」
「さあ、あいつが戻ってきた」
 二人はザックスに対して何か言おうとするが彼はここでもまたそれを先んじて制するようにして声をあげた。そうして盛装したダーヴィットとマグダレーネも部屋に入って来たのだった。
「遅れました、すいません」
「私が無理を言いまして」
「いや、いいんだ」
 微笑んで二人の謝罪をよしとするのだった。
「それよりだ」
「それより?」
「皆来たところで言おう」
 彼の話が変わってきた。
「洗礼を行う」
「洗礼!?」
「ここでですか」
「そう、ここでだ」
 こう一同に告げるのだった。
 
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