少年は魔人になるようです
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第64話 少年達は戻って来るようです
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Side ネギ
ドサドサドサッ
「っハァ!はぁ、はぁ、はぁ、はぁ………。」
「なん、なのよ、一体………。」
「知りませんよ、僕も………。」
命からがら逃げのびた僕達だったけれど、どこに行くかも、何をすればいいかも分からない。
つまり、今すべきなのは情報収集だ。
「朝倉さん、カモ君。外の状況を調べて来てください。ですが、細心の注意を払ってください。
長瀬さんと古さんは朝倉さん達について行ってください。」
「あいよ!」
「りょーかい、パパラッチの面目躍如だね!人いないけど!」
「……それは酷い冗談でござるな。」
「千雨さんは家の中を探して、ネットから情報を集めてくだ……ますか?」
「…………ハァ。ここは命令していい場面だぜ、先生。少なくとも50万人の命がかかってんだろ?」
「そうですね。残っている人でパソコンが使える人は、千雨さんについて行ってください。」
「あいあい!まっかせなさい!」
「残った三人は、僕について来てください。」
第一・二陣と別れて僕は明日菜さん・のどかさん・夕映さんとログハウスへ戻る。
入ってから10分も経っていないけれど、戦闘は終わっていた。
森は見渡す限り木が無くなって焼け焦げ、クレーターが出来ていた。
「………出ても大丈夫、なの?」
「出る必要は無いぞ、この家は核シェルターより安全だ。」
「「「ひゃぁっ!?」」」
「で、今更なんだ、っつつ~~………あ゛ー、クソッ!信長め!!呪いなんぞかけやがって。」
扉に手をかけると、二階から頭を押さえた愁磨さんが降りて来た。
顔の半分と、押さえてる右手が黒く染まっている。信長って言ったけど・・・まぁ、違うよね。
「状況が分からないので、教えてくれませんか?それに、『今更』って一体……?」
「そうか、そうだったな………ああ、そう言う事か。一回目と言う認識でいいのか?」
「え、ええ。そうです。」
「ちょっと、何の話よ?」
そう言えばカシオペアの事は、明日菜さん達知らないんだっけ。
説明すると長くなるから、また後でと言う事にして、愁磨さんの話を優先する。
「では、簡潔に言おう。旧世界人――と言っても通じないか。地球人は全員死んだ。
消えた、と言った方が感覚的には正しい。」
「ぜん、いん………?全員と言うと、60億人全員と言う事ですか!?」
「そうだ。そして、これが全容だ。見たら、どうするか考えると良い。」
指で弾かれたCDを慌てて受け取る。顔を上げると、既に愁磨さんの姿は無かった。
キツネに化かされた気分だけど・・・今は、これが唯一の手掛かりだ。
………
……
…
「ごめんね、ネギ君。私達は収穫なし……。そもそも人っ子一人見当たらなかった。」
「あたしらも殆ど無しってくらいだけど……。ネットの情報が、ある時点で完全に止まってた。」
一時間後、朝倉さん達と千雨さん達が合流して、報告を皆で聞く。
朝倉さんの捜査能力と、長瀬さんの気配探知で見つけられなかったなら、本当に人が居なくなってると
考えるべき、かな・・・。
「それと、今の正しい日時も分かった。今は学園祭二日目じゃない、振り替え休日の二日目だ。」
「そうですか………ありがとうございました。僕達は、愁磨さんからこれを渡されました。」
「CD……いや、DVDアルか?」
「ノートパソコン持って来て正解だったな。ほら、貸せ。」
千雨さんのパソコンにセットして再生すると、無駄なメニュー画面のある動画データだった。
タイトルからすると、学園祭三日目の最終イベント・・・らしい。
「でも、計画されていた物と違いますね……。」
「なんだこりゃ………大規模シューティングゲームか?」
「だけどこれって魔法、ですよねー?ちょっと教えて貰っただけですけれど、私にもわかりますー。」
映像は、一般生徒が魔法具を使ってロボット軍と戦ってる様子だった。
初めは人型・多脚戦車型。中盤からは巨人型や飛行型、多腕・長腕と言った異形。
「それにしても……悪趣味の一言です。ロボットの攻撃、服を脱がしてますです。」
「攻撃で怪我をしていない、と言う点では幸いと取るべきでござるよ。
それにしても、SFアクション映画でも見ている気分でござる。」
「映画、ってよりは…………出来の悪ぃアニメだぜ、これ。」
終盤に出て来たのは、六体の巨大なロボット。
そして空中に浮かぶ衛星兵器型の機械。でも、機械と言うにはあまりに大きすぎる。
これらが出て来た途端、それまで何とか耐えていた学園側が、あっという間に守っていた広場を
占領されて行った。そして、最後の広場を占領される、ほんの数瞬前。
『どうやラ………戦いは私達の勝ちの様だネ、旧世界人諸君。
君達に恨みは無いが―――未来の為に、消えてくれたまえ。』
超さんが言うと、映像が真っ白な光でつつまれ・・・・
次に見えた時には、溢れ返っていた人が全て消えていた。
「これはまた、分かりやすい構図を作ってくれたものアル。」
「え、ええ、そうですね。とにかく、戻ってやる事が決まりました。」
「先程から先生は、時間遡行でも出来るような口ぶりですが……何か、方法があるですか?」
「はい。実は学園祭中も、これを使って回っていたんです。」
カシオペアを出して、経緯を話す。移動して五分ほど時間を巻き戻し、僕が二人になる事を実演する。
密かに、安全性も確認出来て一石二鳥だ。
「ですが、僕の魔力では戻れて二日が限界です。皆さんの力があれば、何とか二日目に戻れる
と思います!」
「任せなさい!って、何すればいいかは分かんないけどね。」
「それじゃあ、皆で手を繋いでください。―――行きます!」
バシュッ!
カシオペアを発動させて、時間を遡行する。
初めての長距離遡行だったからどうなるか分からなかったけれど―――
「思ったよりも何とかなる物ですねー。」
ゴォオオォォォォオォオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォオオオオオオオ――――
「そうねー。って、言ってる場合じゃないでしょう!?落ちてる、落ちてるのよおおぉぉぉぉぉ!!」
オオオオオオオオォォォオッォォォォオオォォォオォォォォォオオ!!
「ふざけんなぁぁぁああああ!!どうにかしろよこれ!?」
飛行船より高い位置に出てしまって、パラシュート無しで絶賛降下中。風と基礎魔法が得意で良かった。
「高すぎてもダメだったので!『風精よ 我らを運べ!』」
ゴゥッ―――
「うわっ!?った、助かったぁ~~~~~………。」
「わぁー、空を飛んでますー。」
「落ち着け、落ちつけ私……。今更空を飛ぶくらいなんてこたぁねー。
むしろ魔法使いとしちゃ普通―――って何言ってんだろうなー。アハハハハハハハハハハハ!!」
「千雨ちゃん、千雨ちゃん!?しっかりしてー!」
若干無理をしていた千雨さんがとうとう壊れたけど・・この際、一回ぶっ壊れちゃった方がいいのかもしれない。
うん、そう言う事にしておこう。
「朝倉さんとカモ君と何人かは、学園長先生にこの事を伝えて来てください。」
「りょうかーい!行くよ、図書館組!」
「はいです、ハルナ隊長。」
「他の皆さんは………好きな様にしててください。」
「そりゃ助かる。不思議系スーパーアドベンチャーばっかりだったから、
あたしの現実が崩れかけてた所だ。」
仲良くワイワイ駆けて行った五人に対して、千雨さんは静かに去って行った。
図らずも、残ったのは武闘派(まき絵さんは微妙だけど)の四人。好きな様にって言ったけれど・・・
計画変更だ。
「すみません、皆さん。やっぱり手伝ってくれますか?」
「お、何アルか?キナ臭い事なら大歓迎アルよ!!」
「キナ臭い事はキナ臭いですけれど……。これから、件の人達に話をしに行こうかと思いまして。」
「はぁぁぁ!?何考えてんのあんた。」
「ネギ坊主。拙者も、それは少々納得出来かねる。」
四人に話をすると、明日菜さんには呆れられ、長瀬さんには否定される。
古さんとまき絵さんは、頭の上にはてなが付いている。
「超さんは危険っぽいけど、先生達は大丈夫じゃ無い?」
「織原先生達ははぐらかされそうアルが、超は大丈夫アルよ。」
「「ん?」」
「えーっと………どうするのよ、ネギ。」
はてなをつけていた二人が同時に言い、今度は皆がはてなを付ける。
と言っても、この場合の選択肢は決まっているようなものだ。
「それじゃあ皆さんは、超さんの方へ行ってください。僕は愁磨さん達と話をしてきます。」
「却下!あんた一人で行かせる訳無いでしょ。」
「なら、明日菜が一緒に行けば問題ないでござるな。では、拙者らは行くでござる!」
長瀬さんに合わせて、三人は颯爽と屋上から飛び降りる。
・・・体操部って、皆あんな風にリボンを使えるのかな?考えると日が暮れるだろうから置いておこう。
「一応聞きますけれど……あの人達、今どこに居るか知ってますか?」
「愁磨先生は分かんないけど、ノワールさんとアリカさんは今家に居る筈よ。」
今度は僕が頭にはてなを出す番となり、先に行った明日菜さんについて行く。
そう言えば明日菜さん、時々アリカさんと一緒に居たっけ。仲良くなったのかな?
ピンポーン
「こんにちはー、明日菜ですー。」
「おお、入ってよいぞー。」
明日菜さんは、結構慣れた様子で家の中へ入って行く。・・・ちょっとだけ羨ましいな。
「待っとったぞ、明日菜。今日は………珍しいのと一緒じゃな。組み合わせ自体は珍しくないがの。」
「こ、こんにちは。愁磨さんはいますか?」
「休むと言っておったから、別宅の方におるじゃろう。明日菜もついて参れ。今日の分を済ませよう。」
以前ぶち込まれ――もとい、案内されたダイオラマ球かと思ったけれど、その部屋から更に地下に
案内される。『気を付けて』と言い残し、アリカさんは上へ戻って行った。
激しく不安にかられながら中に入ると、そこには街が広がっていた。
出たのは、街と海を一望できる高い丘の上の家。周りには寝転んだら気持ちよさそうな芝生。
気配に気付き家のデッキに行くと、そこには何故かベッドが。
「こんな所に出してたら、雨とか風で……って、無いのか。」
真っ黒な布団なんて珍しいな・・・・と思い見てみると、布団と間逆の色、羽の様に広がる髪と
小さく見える細い体が目に入った。丸まって寝ているせいで、髪の毛に包まれているようだ。
「あら、同性の寝顔を見て欲情するなんて。殺していいかしら?」
「し、してませんよ!何を言い出すんですか!?」
「それと、静かになさい。ようやく寝たんだから。」
何時から居たのか、ノワールさんが後ろから現れ、冗談と脅迫と叱責と忠告をして来る。
割と全部本気で。・・・いや、見惚れてたのは確かと言えば確かなんだけど。
「あの、話をしようと、思って、来たんですけれど………。」
「起こせと言うの?言わないわよね?言う訳がないわ。」
「はい、その通りです………。」
三段活用(?)で拒否と否定を食らい、しくしくと涙を流す。それでもおめおめと帰る事も出来ず、
座って地平線を見る。暫くの間、髪を梳く音と寝息と波音だけが聞こえてくる。
穏やかな雰囲気に眠気を一瞬だけ覚えた所で、ノワールさんがぽつりと言う。
「全く………本当に、しょうがないわね。」
それは独り言だったのか、愁磨さんに当てたものなのか。
はたまた僕に当てたものかは分からなかった。けれど、多分話の内容からして、全部だったのだと思う。
「シュウね、いつからか寝なくなったのよ。」
「え、と。偶に、寝ている所に出くわしたと思うんですけど。現在進行形。」
「ええ、そうね。寝てはいるのよ。」
「はい……?」
話が見えず、ぽかーんとする。しかも、そこでまた喋らなくなってしまう。
さっきと同じように三つの音だけが聞こえるけれど、話の途中だから、居心地が悪くなる。
こちらから何か言おうかと思った所で、ぽつりぽつりと話しだす。
「私はね、明るくなり始める時間に星を見るのが日課なの。儚く消えて行く星が見たくて。
屈折してるでしょ?」
「い、いえ、そんな事は。早起き、なんですね。」
「……フフ、相変わらずずれてるわねぇ。……それでね。ほんの十分くらい見た後、また寝るの。
そうすると、居間のソファにシュウが座ってるの。毎日。」
相変わらず仲が良いんだなー、と思ったけれど、多分違うんだろう。
思えばこの人達は、毎日一緒に寝る人が違うって言ってた。
違う部屋で寝てる時も、必ず起きだして来る―――愁磨さんならあるかもしれないけど・・・。
「エヴァはね、今でも………悪い夢を見るの。不定期にね。
その時外を散歩したり、まぁ、色々して帰って来ると、シュウが居間に居るんだって。」
「………すごい、ですね。」
「アリアもね?ふと起きた時とか、絶対頭を撫でてくれてるって言ってたわ。」
そんな話を、全員分聞かされる。夢見が悪い時だけじゃなく、物を割った時、小競り合いしている時、
驚いて悲鳴を上げた時、何となく一緒に居て欲しい時。数え切れない、何気ないちょっとした危機
・・・と言うほども無い事に、寝ていようが駆けつけて来る、と。そう言うことだった。
「本当に眠ってるとね?家の中の事ですら、私でも気付けないのよ。それなのに、ね………。」
「今は、その…………ちゃんと、寝てるんですか?」
「………ここはね、外との時間差を五千倍にしてあるの。」
ノワールさんは僕の質問を無視して、さっきと同じように言う。
五千倍って言うと・・・外の一時間がここで半年以上って事?なんでそんな事を――――
「ここで眠ってる八時間……でなくとも、四時間くらいでも。あっちでたった六秒くらい、
ちゃんと眠ってて欲しいわ。」
「……………そう、ですね。」
ふと、寝ている愁磨さんを見る。普段は何かとやり過ぎ――もといはっちゃけ――いや、元気なこの人。
今はとても静かで、儚げですらある。目を離した瞬間に、消えてしまいそうなほど。
「(この人が人類滅亡とか、考える訳ないよね……。)って、あれ?」
「もう、また………しょうがないんだから。」
自分の馬鹿な考えが嫌になって、溜息をつく。
その一瞬目を離すと、布団の上の愁磨さんは奇しくも思った通りに居なくなっていた。
・・・また、と言う事は、さっきも抜けだしたんだろう。
「……仕方ない人ですね。」
「ええ、全く。……………ねぇ、ネギ。」
「はっ、え、ひゃい!?」
「男の子が情けない声出さないの。」
・・・・ノワールさんに名前を呼ばれた事なんて無かったから、変な声を出してしまった。
い、一体なんだろう?
「シュウはね、凄く大きい事をしようとしてるの。果てしない、と言うかお馬鹿なくらいの。」
「え、は、はい。」
「そのせいでね。友達とか仲間とか呼べる人にも、嘘ついたり隠し事しなくちゃいけなくなってるの。
嫌いになられそうでも、どうしようもなくて、もう止まれないの。」
「……はい。」
「だからね。あなただけはあの人を見失わないで欲しいの。味方になるとしても、敵になるとしても。
フフフ、勝手なことばっかりごめんなさいね。」
『あげるわ』と言って、ダイオラマ球を投げて渡される。
愁磨さんほどではないけれど、瞬きの内にノワールさんも居なくなってしまう。
僕はそんな事は出来ないので、魔法陣に向かう。
・・・ノワールさんに言われた事は、学園祭での事だと思った。だから、是が非でも止めようと心に誓った。
――――その真実は、数週間後に知る事になるのだった。
Side out
後書き
何だかんだ、この人達は信頼し合っている。そういう設定です。
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