ニュルンベルグのマイスタージンガー
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第三幕その七
第三幕その七
「貴方が仰って下さったことをここに書き取りましょう」
「それはいいのですが」
こう言われても難しい顔を見せるヴァルターだった。
「私にはわからないのです」
「どのようにしてはじめたらですか」
「そうです。マイスタージンガーのことは」
その難しい顔でまた語るのだった。
「何しろ昨日も失敗していますし」
「何、難しいことを考えられることはありません」
しかしザックスはこう彼に話す。
「貴方が御覧になられた朝の夢を物語って下されば」
「貴方達の規則の立派な御言葉を伺い」
またヴァルターは難しい顔で言うのだった。
「私の夢は消えてしまったようです」
「そういう今こそです」
そんなヴァルターを励ますのだった。
「詩を作るべきなのです」
「その時にですか」
「そう、その時にです」
ザックスの言葉が強くなる。
「それによって失われた多くのものも見出されてくるでしょう」
「それは夢ではなく詩の為の作りごとになるのではないですか?」
「そうです」
そのヴァルターの言葉に頷くのだった。
「この二つの仲のいい友達は互いに助け合うのです」
「それでは」
話を聞いたうえでまた話すヴァルターだった。
「規則に従うとすればどうやってはじめるのですか?」
「貴方が御自身で規則を作られ」
このことも説明するザックスだった。
「それに従うのです」
「私が作った規則にですか」
「そうです」
語るザックスだった。
「朝に御覧になられた楽しい夢を思い出して下さい」
「その夢をですか」
「そうです、他のことはこのハンス=ザックスが心配しましょう」
「それではです」
ヴァルターもそれを受けてはじめようとする。
「はじめさせて頂いて宜しいですか?」
「どうぞ」
「はい、それでは」
ザックスの言葉を受けてはじめようとする。ザックスはまた椅子に座りペンを手に取りそのうえで書き止めようとする。そのうえでヴァルターは歌いはじめるのだった。
「大気は花の香りに膨れえも知らぬ快さに満たされて庭は私を誘い引き寄せる」
「それは一つのシュトルレンでした」
「これがですか」
「そうです」
ザックスの教え方は丁寧で親切であった。
「それではその次にです」
「次には」
「これと同じ形の節が来るようにです」
「同じ形の節がですか」
「はい、そのように」
「何故ですか?」
ヴァルターはその理由を問うのだった。
「同じでなければならないのは」
「貴方が貴方と同じ様なことをです」
「私が?」
「そうです。人々に花嫁を得ようとしていることをわかってもらう為にです」
「では」
ザックスのその言葉を受けてまた歌うのだった。
「幸ある園に生生とそびえ黄金為す実を豊かに実らせ」
「そう、そうしてです」
「風に快き枝を生やし人を誘う大樹あり」
「同じ音で終わっていませんでした」
ザックスの指摘は少し厳しい。
「マイスタージンガー達はそれを嫌うのです」
「そのようですね」
これは昨日のことで少しわかってはいた。
「ですがハンス=ザックスは教えられます」
「音のことをですね」
「春にはそうあってよいのでしょう」
こう語るのだ。
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