ニュルンベルグのマイスタージンガー
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第三幕その二
第三幕その二
「親方何かおかしいぞ。今日は」
「ダーヴィット」
首を傾げる彼にまた言うザックスだった。
「それでだ」
「あっ、はい」
「言えるか?」
今度はこんなことをダーヴィットに尋ねてきたのだった。
「御前の宣言の句を。どうだ」
「宣言の句ですか」
「そうだ」
こう彼に言うのである。
「それだ。どうだ?」
「はい、それでしたら」
だーヴィットは気持を切り替えてすぐに歌いはじめた。
「ヨルダンの岸辺に聖ヨハネは立たれ」
「むっ!?」
ここでダーヴィットはついついベックメッサーの昨夜の歌を思い出しその旋律で歌ってきたのだった。ザックスはそれを聞いてすぐに目を顰めさせたのだ。
「何だ今のは」
「あっ、すいません」
歌ったダーヴィットもここで気付いた。
「混乱していました。昨夜の騒ぎがまだ頭に残っていまして」
「ではすぐにそんなものは落とすのだ」
「はい、それでは」
姿勢を正してそのうえで最初から歌いはじめた。
「ヨルダンの岸辺に聖ヨハネは立たれ世の全ての人に洗礼を行う」
「そうだ」
ザックスも今の彼の歌に頷く。
「遠き国より一人の女がニュルンベルグより歩み寄り」
だーヴィットはとうとうと歌を続ける。
「男の子を抱いて岸辺に至り彼の洗礼と命名を受ける」
こう歌うのだ。
「そして彼女が子と共に故郷に戻りやがてドイツの国にありてはヨルダンの岸辺でヨハネと名付けし者をペグニッツの丘でこう呼んだ」
そしてその名前がだった。
「ハンス?そう、ハンスです」
歌いながら気付いたのだった。
「親方、そうなんですよ」
「何だ?」
「今日は貴方の命名の日ですよ」
このことに気付いて彼に声をかけるのだった。
「今日なんですよ、今気付きました」
「そういえばそうだったかな」
ザックス自身も今気付いたのだった。口に手を当てて考える顔になっていた。
「今日か」
「それじゃあです」
早速まだ手に持っていたその花とリボンを差し出すのだった。どちらも同じ籠に入っているので手渡すのは実に楽に済むのだった。
「これを。どうぞ」
「花とリボンをか」
「それだけじゃありません。レーネから貰った」
「うん」
「お菓子とソーセージも」
自分がかなり食べてしまったのは内緒だった。
「ありますよ」
「有り難う」
まず弟子に対して礼を述べた。
「しかしだ」
「何ですか?」
「全部御前が取っておくことだ」
「全部ですか」
「そう、全部だ」
こう彼に言うのである。
「そしてだ。今日のことだが」
「はい」
話がここで動いた。
「私と共に牧場に行くぞ」
「そのお祭が行われる牧場ですよね」
「そうだ。そこでその花やリボンで飾って」
ダーヴィットが飾れということだった。
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