世界の片隅で生きるために
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天空闘技場編
念能力開発2
メイク道具の中から、眉カット用のカミソリを取り出す。
残念なことに、私は指先や爪で切り傷を作ることが出来るほど器用ではないし、噛みきって血を出すなどという行為もしたくない。
だから、カミソリで切らないといけないのだが……
指先をちょっと切ろうとして現在躊躇してます。
(ちなみに、この状態で10分くらい経過中)
……自傷行為なんて、メンヘラでもないのでやったことがないから、地味に怖い。
さすが、私。小心者過ぎて笑う。
更に10分くらい葛藤して、指先は化粧する際に細かい作業が出来なくなると思うし、結局バスルームに移動して左腕にカミソリを当てて切った。
右手は利き腕だし、何かあると困るし。
鋭い痛みの後に、腕からぽたぽたと血が流れ出た。
還すのを忘れていた龍は、私が血を流していることが不安なのか、所在無げにくるくると私の周りを飛んでいた。
……時々思うのだが、この龍はどうやって飛んでいるのだろう。念には不条理なものが多いから気にしてはいけないが空を飛べるような姿はしていないのに本当に不思議だ。
用意しておいた小分け用の化粧水の小瓶にその血を混ぜいれる。
血というものは時間とともに流れ出さずに固まって止まってしまうものだけど、私は止まらなくすることが出来る。
これは、師匠との修行の時に発見したことなんだけど、怪我をしたあとに「絶をした直後に流をする」と、私の血は止まらなくなる。それを発見したときには血が止まらないから大慌てだったが、血を止めるためには普通に全身に纏をすれば止血速度は普通に戻った。
怪我をした際に纏によって怪我の治りが早くなる。これは、普通の認識。私の場合は必ず全身に均一に纏をしなければいけない。
自分の推測では、 念能力は生命力、つまり生命オーラが源だ。
ここに生まれついた人は誰しもが、その能力の一片を持っている。
そして、私はこの世界に生まれついたわけではなく、異世界からの彷徨い人である。
異世界の住人が、念能力を持つというのは、この世界の住人よりも支払っている代償(オーラ)が大きいのかもしれない。(その割には、現状では私に負担はほとんどないのはどう説明するべきなのかとも思うけれど)
だから、絶でオーラの流れを止めることで、支払うオーラの排出が狭くなり、流をすることで傷口を排出口として生命力としての象徴とも言える血が止まらなくなるという現象が起きるのではないかと愚考する。
自分でもよくわからない理論だけど、それ以外に説明がつかないのが悲しいところだ。 ……ちなみに、これ、私の弱点でもあるんだよね。
例えば大怪我をして、止血せずに血を流したままで「絶で気配を消す」→「流で足を強化して移動」なんて、ハンター試験とかで使えそうな良くあるパターンを使うと、血が流れっぱなしになって出血多量で死ねます。
だから、止血は大事。そして、回復できる念能力か、信頼できる仲間がほしい。
いずれにせよ、そこまでヤバイ状況なら大人しく死んだ方がいいんじゃないかとは思う。それに、余程のことがない限り、自分から危険の中に踏み込むってことはないし。
無色透明だった化粧水が、赤くなる。
静脈の血だから下手にどす黒いとか、放置した血液のような黒緑がかった赤になっても気持ちが悪いので私が困るのだが。
とりあえず、血の配合量を変えた化粧水を3つ作った。
配合量で、効果が変わるかもしれないし。
念をこめる方法は、水見式を参考にして化粧水に混じった血に向かって練をする。
一つ目は、目にも鮮やかな赤。
透明感がある赤で、わかりやすく表現するなら、ハイビスカスティーやイチゴシロップのような色。
化粧水からは、きちんとオーラを感じることができる。
二つ目は、赤黒いというか黒紫というか……。
ちょっと気持ち悪い気がするが、一つ目よりも化粧水にオーラを感じる。
これも色をわかりやすく表現するなら、年代モノのワインとか濃い目のグレープジュースの色。
三つ目は、赤色が消えて無色透明。
混ぜた当初はピンクに近い色だったのだが、念を込めたら色が消えた。
匂い、色、見た目だけなら元の化粧水とほとんど変わらない。
しかも驚くことに、一つ目よりもオーラ量は少ないが、この化粧水からもオーラを感じることができた。
配合は上から、化粧水の20%、50%、5%くらいという差だ。
血液量が多ければ多いほど、内蔵されるオーラ量は増えるようである。
とりあえず、化粧水作成はここまでにしておこう。
実際に使用するまでは、どれが使用に一番適しているかわからないのだし。
今度は具現化を試す番だ。
血が止まってしまったので、再度、左腕に傷を作る。
「これ傷痕が残ったら、ショックどころではないんだけど……」
見せる相手もいないし作る気も無いが、やはり傷痕っていうのはあまり良くない。
実際の腕の痛みとは別に、心の傷になりそうである。
そんなことを考えつつ、傷口から流れる血に集中する。
暖かい赤い血を見つめて、アイシャドウと口紅を思う。
アイシャドウは、ホワイトパールは必須として少なくとも4色以上は欲しい。
口紅はベージュ系とピンク系かなあ。そんなコンパクトとリップスティック。
手の中に現れるように強く心に思い描いた。
◇
数瞬後……私の手の中に、黒地に金色の龍と簡略化した赤い花の模様のワンポイントが入ったコンパクトが出現した。
コンパクトを開けると、それは小さめのメイクパレットになっていた。
アイシャドウは、パープル系の組み合わせでホワイトパールとあわせて5色入り。
口紅は、愛用してるナチュラルっぽく見えるベージュピンクとコーラルピンク。
グロスでぼかし気味にするときれいに仕上がるはず。
どちらも色は、思った通りのものだ。
小さめではあるけれど、リップブラシとアイシャドウチップも一緒にある。
それにしても……どこの特注品ですか?
おかしいな、私の中では黒無地のシンプルなコンパクトとリップスティック状の物を想像してたんだけど……。
両方セットでパレットになってくるだと……?
血で具現化させたから、この赤い花のような模様がついたのだろうか。
この金色の龍って、今私の周りを飛んでるこの龍がモチーフ?
疑問は尽きないが、外観が無駄に派手すぎてちょっと引き気味なのは秘密だ。
それにしても、常に化粧品とともにあったから、具現化も簡単だったのかな?
血化粧水を作ろうとしたときよりも、こんな簡単にできるとは……拍子抜けにも程がある。
とりあえず、先に作った化粧水と一緒に試してみよう。
最初に、化粧水を手にとった。
結論から言えば、化粧水は血液5%配合が一番使いやすかった。
何せ、無色透明だし、使う際に変に意識しないですむ。
ただし、それはあくまでも「使い易さだけ見る」ならばだ。
能力の増幅をさせるというのであれば、20%配合が一番効率が良さそうである。
赤い色がちょっと毒々しいが、手に取った感じはさらりとしているし、手全体に伸ばしてみると意外にもよく馴染む。
懸念した匂い……も特にないし。
これなら、顔につけてもいいかな?
50%のものは、籠められたオーラ量的にも、もっと強化できそうだが、如何せん色が……。
なので、これはなにかの時の切り札的扱いで。
次にアイシャドウと口紅を手の甲にとって、発色具合を試してみることにした。
「あれ…………?」
何か残念な感じというか……。
「イメージ力が足りない? メモリ不足? どれだろう?」
自分のアイシャドウや口紅と比べると、チープなのだ。
具現化してないほうは、それこそフィット感と仕上がり、そして長時間化粧崩れしないという観点で選んでいるので、師匠の評価やネットの口コミや雑誌を参考にしたものを買っている。
一方、具現化したほうは、100ジェニーショップに並んでるような……。
ああ、この世界にも100円ショップがあるんだ。
それが100ジェニーショップ。
品揃え自体は、元の世界の100円ショップと変わらない。
別に100円ショップの化粧品をバカにしてるわけじゃない。
コストパフォーマンス抜群だし、化粧を覚えたばかりのころは色々冒険してみたくてよく買っていた。
けど、どうしても付け心地が悪いというか、全体的に他のものも含めて伸びが悪い。
その辺りが残念な感じになるのだ。
なかには、これが100円!? なんて素晴らしいものもあるにはあるんだけどね。
ま、興味ない人からしたら「化粧品なんて、値段が違うだけでどれも同じじゃねぇの?」とかいわれそうだけど、誰にでも何がしか拘りがあるようにこっちにも肌につける化粧品には拘りがあるのだ。
とはいえ、突貫で作ったものとしては、かなりいいものが作れたと思う。
メイクの仕上がり具合と化粧の持ちが、普段よりはたぶん落ちる(自己分析)が、使用するには問題はないはずだし。
それじゃあ、これらも一緒に使って化粧をしてみよう。
いったん今の化粧を落として、再度メイクをする。
ベースメイクは、実は手抜き。
肌が若いからあまり手を加えなくてもいいのが嬉しい。
そして、アイシャドウをつけた段階では特に変化はなかったが、口紅をつけてグロスをのせたあとにそれは起きた。
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