世界の片隅で生きるために
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天空闘技場編
念能力開発1
「……おいで」
ホテルの部屋に戻ってから、そう呟く。
私が今持っている念能力は、必死に精孔を御した際に目覚めた能力だ。
すぐに目の前の虚空に額に真紅の宝石がはまった、1メートルほどの大きさの金色の龍が現れた。
『黄金郷の宝石龍(エルドラド・ジュエルドラゴン)』
いわゆる西洋のドラゴンではなく、東洋の龍だ。
龍珠は持っていないことと、その大きさ以外は龍そのものの造形をした、念でできた生物だ。
この能力が、どんなものかというと一言で言えば、対価と交換に除念するというもの。
対価は宝石や貴石、稀少金属に分類される類の物。
この龍が、それらを食べてから放つ光を浴びることで念を無効化して除念する。
強い念能力ならば、より価値の高いものを必要とする……が、そこまで高価なものを食べさせたことも、面倒な除念をしたこともないけれど。
除念が強力な反面、それしかできない念獣だ。
戦闘に参加なんてできないし、ダメージをちょっとでも受けると消える。
まあ、消えても私の気力が続く限り、再度呼べば出てくるんだけど。
何故、こんな能力になったのか……。
思い当たるのはヤンの置き土産の痛みが続く呪いのような念のせいだろう。
お使いで取りに行ったはずの宝飾品はコイツが食べた。おかげで除念には成功したものの、しばらく師匠からは冗談交じりに文句を言われる羽目になった。
「何か開発するしかないかなあ」
新能力か。
どんなのにしよう?
とりあえず寝心地の良いベッドにボフッとダイブ。
出しっぱなしの龍も一緒についてくる。そして、金色の龍は私の周りをくるくると飛び、嬉しそうに腕や足に巻き付いてじゃれ付いてきた。
この通り行動は愛玩動物。とても念獣とは思えない。
「うーん……」
私の系統の特質系って、元は別系統から突然変異みたいになるって話だから……あんまり、系統で考えなくていいのかな。
何がしたいか? で考えるべきか。
ぐるぐると考えごとの渦にまた飲み込まれそうになった時、ベッドサイドボードに置いた自分のメイク道具が入ったバニティが目に入った。
メイク…………化粧……
「これだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
私がいきなりガバっと起き上がって叫んだから、龍はビクゥッとして動きを止めたけど今はそんなことは構っている場合じゃない。
そうだよ、これだよ。
元の世界にいた時も、ここでも変わらず自分のそばにあるもの。
常に身近にあって、なおかつ師匠のおかげで念による化粧品の効能も知っていて、片時も手を放さない。
私は、元の世界に居た時は本当に普通の平凡顔だったんだ。
日本人らしい、のっぺり顔(でも一重ではなくて二重だったのは不幸中の幸いだったかもしれない)。素顔の段階じゃ、美人に負ける。
だから、メイクを覚えた。もちろん、素顔ないしナチュラルメイクに見える手の込んだメイクをね。
素顔とか、薄化粧がいいとかいってるやつ!
ナチュラルに見える化粧は、本気で手がかかるんだ。
生まれながらの美人でもない限り、素顔がキレイとかありえません。
肌がきれいとかは普通にあると思うけどね。
素顔をみて「そんな顔だったんだな……」とかって幻滅とかしないように。
決して、私がそれで振られたことがあるからいってるわけではない。
決して。
……あれ、なんか話がずれた。
っていうか、誰かに話してるわけでもないのに何で、こんな不毛なこと……
まあ、それはともかく。
念で、幽白の化粧使いの技を再現してみたらいいんじゃなかろうか。
制約と誓約がかなり面倒になりそうだけど、そこは根性で乗り切ろう。
良い思いつきに思わず笑みを浮かべた。
ただ、再現するにあたって問題がある。
オリジナルの化粧使い画魔の化粧は、歌舞伎の隈取かシャーマンの刺青のようだ。
化粧の発祥を振り返るとシャーマニズムは切り離せない。だから、全身に刺青のように書き込む歌舞伎の隈取のような複雑な文様の理由だってわかる。
でも、あれをそのままやるのは絶対に嫌。
あれは私の目指すキレイと程遠いし、あんな化粧をしたゴスロリ少女なんて見たくはない。人前に出ても問題ない、自分の美的センスで許す落としどころを考えねば。
そして、使用する化粧水(あれを化粧水と呼ぶのは、私の中では疑問が残る。どう見ても絵の具か染料と呼ぶべきだと思う)は自分の血が元になっている。
自分の血を元にすること自体は特に問題はない。
それが制約にも誓約にもなるし、自分以外には使えなくなるし。
ただ、どうやって血を媒体にするのかが問題だ。
普段使っている化粧品にほんの少量の自分の血を混ぜて、それを媒介にして念を込めるようにする?
私の持っているもので混ぜられそうなものというと……化粧水、乳液、下地クリーム、リキッドファンデとアイライナー、マスカラ、それとグロス。
全部、液体かクリーム状の物だ。固形やパウダー状のものだと、固まるし混ぜるのが大変。
この場合は、ほんの少量とはいえ血を塗ることに自分に抵抗が出ないかということと、念がこもっているとはいえ異物を混ぜるから化粧品の保存性に問題か。
それなら、血を媒体にして化粧品を「具現化」する?
血をキーとして具現化か……。
悪くないけれど、私の念の許容量オーバーしないだろうか。
何せ、私は努力と思い込みと師匠のおかげで、多少は生きていく力がついた、運が良かっただけの一般人にすぎない。
その運と思い込み力がチートなんだよ! と言われたら反論のしようもないけれど、少なくとも現時点の段階でキメラアントや原作キャラからの死亡フラグが立ったら、回避はきっと無理だと思ってる。
そういえば、原作が載ってた雑誌で、化粧して変身する女の子のマンガがあったっけ。
確か魔法のアイシャドウを塗ることで、内気な女の子が大胆な怪盗になる設定だった。
そういう設定だから、少年読者には受けが悪かったからか、すぐに連載が終わってしまったけど、キレイなイラストと女の子がかわいくてセクシーだったから、私は好きだった。
とりあえず思いついたことを取りとめもなく私はメモにしていく。
このメモは、私は日本語で記入している。
ハンター世界の文字も違和感なく読み書きできるようにはなったけれど、思考は日本語でしているから。
まあ、前にも言ったとおり、あの文字は活字として読むのは疲れる。
最近は、パンフレット程度は読むようにはなったけれども。
「……まあ、こんなものかな?」
色々考えた結果、メモに丸印を書き込みつつ、とりあえず妥協点を決めた。
・血を混ぜるのは化粧水。ただし、保存性を考えて混ぜたものはすぐに使い切る。
・血を媒体にして、アイシャドウと口紅を具現化する。
・それらを使って、まずは戦闘の粧を実現してみよう。
・それ以外については、別途また考える。
あまり、考えがまとまってない気がするけれど、これでも数時間はずっと考えた。
下手な考え休むに似たりという、言葉もあるしこの辺で思考はいったん止めておいた方がいいと思う。
次は実践だ。
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