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世界の片隅で生きるために

作者:桜里
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天空闘技場編
  天空闘技場2

 闘技場フロアに入り、入り口の係員に荷物を預ける。
 1階は、レベル判断のためだから荷物を持ったまま来る人も多いので、こういうサービスがある。
 他の階では預ける場所がないので、手荷物は持ち込めないらしい。
 電光掲示板の表示を頼りに、Jのリングに向かう。

「両者、リングヘ」

 審判の声にリングの中央へと足を進めた。
 対戦相手は、自分の二倍くらい縦と横の幅がありそうな巨漢。

「おい、見ろよ。かわいいお嬢ちゃんだぜ?」

「きゃー、戦えませーんなんて、黄色い声出すんじゃねーぞ」

「でかいの、相手が良かったな!!」

「楽勝だろう」

 外野のヤジうぜー……

「むしろ泣かせたいだろ。いい声で泣きそうだぜ?」

「ベッドで啼かせたいの間違いだろ。ははは」

 ……セクハラ混じりのヤジきたこれ。
 この辺は定番なのか。

「ここ一階のリングでは入場者のレベルを判断します。
 制限時間3分以内に自らの力を発揮してください」

「3分? 3秒だな」

 あら、どっかで聞いたセリフ。
 原作でも、ゴンが言われてた気がする。

「それでは……はじめ!!」

 審判の開始の合図と共に、相手は両手を広げてこちらに走ってくる。
 恐らく、リング外へ押し出すつもりなのだろう。
 殴ろうとしてこない所に少しだけ? 好感を持てる。

 十分に引きつけてから捕まる寸前にそれを避け、背後に回りこんだ。
 虚をつかれた相手がこちらを認識する前に、軽く跳んで首筋に手刀を当てた。

 手加減しているから、骨折したりはしないはずだけどショックで気絶はするはず。
 力加減は間違ってないはずだ。

 予想通り、対戦相手はそのまま倒れこんで動かなくなった。
 軽い罪悪感が自分を支配する。

「……ごめんね」

 聞こえては居ないと思うけれど、なんとなくつぶやく。

「うぉぉぉぉぉ」

「一発で倒しちまいやがった……」

「なんだあの嬢ちゃん!? 」

「やべえ、俺殺される……とんでもないこと言った……」

 外野のヤジが歓声に変わってる。
 他にも色々聞こえるけど、多分、殺される発言はセクハラやじを飛ばしてきた奴だろう。
 声が聞こえた方に、にっこり笑ってあげよう。

「……コホン。せ、1976。キミは50階。がんばって下さい」

 放心していた審判が、ようやく気をとりなおして手元の機械を操作して、バーコードのような模様の入ったチケットを渡された。
 それを受け取ってリングを降りる。
 この分なら、200階前後くらいまではトントン拍子で行けそう。
 このチケットを50階の選手受付に持って行けばいいのかな。
 でも、そうすると次の試合が組まれちゃうよね。
 パンフレットにはなんて書いてあったっけ?

 荷物を返却してもらって、トランクを引きながら私は考えた。

 それにしても、残念ドM……もとい、カストロがああいう性格だとは思わなかった。
 プライド高そうでナルシーそうではあるとは思っていたけど……ねえ。
 念のため出口を確認したが、彼は居なかった。
 多分、別のリングで戦っているのだろう。……私の勘違いでなければ。

 確か逆算して、カストロが200階に到達して初戦でヒソカと戦うのって、年表的に考えると来年の2月か3月辺りだっけ。
 それまでには、私も大会出て優勝しないと……どっちともかち合う可能性が出てくるじゃないか。
 とりあえず、50階の受付行くのは宿確保してからかな。

 闘技場の外に出ると、そこは石畳の広場になっていた。
 中央には天空闘士をモデルにしたらしい、筋肉質の半裸の像がありその周りには噴水がある。
 その噴水を囲むようにして、宿泊ホテルの相談所やグルメガイドブックを並べた店、いわゆるジャンクフード的なものを売る露店が並んでいる。
 足元に風で飛んできた紙を拾い上げると、闘技場の有名選手のインタビューや見どころのある新人等を紹介する新聞のようなフリーペーパーで、本当に街全体がこの闘技場があって成り立っているんだなあと感心する。

 宿泊ホテルの相談所でパンフレットを貰い、香ばしい匂いで食欲をそそられた何かの肉の串焼きを露店で買った。
 ……なんの肉だろうとちょっと考えるけれど、この美味しそうな匂いにはかなわない。
 流石に立ちながら・読みながら・食べながらの三ながらはどうかと思うので、噴水の縁のレンガに座って串焼きを頬張る。

「うん……美味しい」

 タレが元の世界で言う焼き鳥のタレみたいな。
 肉自体も鳥のササミみたいで癖がなくて美味しい。
 ちょっと気を付けないとタレがこぼれて服に落ちそうになるのが難点だけど。

 今日泊まる場所を決めなくてはならないから、お腹も落ち着いたところでパンフレットを開いた。

 この近くだと、エルモンドホテルって所が良さそう。
 何とかっていう賞のホテルサービス部門の3つ星らしい。
 こっちにもこういう格付けはやっぱりあるんだね。ハンターにも格付けあるくらいだし。
 チェンマホテルってところは、ゴルトー料理が美味しいのか。ゴルトーって……韓国とか北朝鮮みたいなところだっけ?
 辛い唐辛子系の料理なのかな?

 師匠と出かけるときは、師匠が何でも決めていたし、改めて一人で出かけると新たな発見が多くて嬉しい。
 そう言えば、パンフレットを読んでると何かのトラブルに巻き込まれてる気がする。
 また何かあると困るから程々にしておこう。

 パンフレットを閉じて、最初に気になったエルモンドホテルに向かった。







 ……フカフカのベッドに思わずダイブして、師匠のありがたみをかみしめています。

 案内された部屋はジュニアスイートのダブルルーム。
 一泊、9万ジェニーなり。

 だって、他の部屋空いてなかったんだよ!

 スタンダード(それでも一泊5万ジェニー)が希望だったんだけど生憎と予約で埋まっていて、ウォークイン……まあ、要するに当日客だった私は即金で支払えるならという条件で泊まれることになった。
 悔しいから部屋代は5泊分前払いしてあるけど、これで貰ったお金は、ほぼ使い果たしたことになる。
 元の世界でもそうだけど、ウォークインはホテルには結構嫌われる。予約を前日でもいいから入れたほうがいい。
 旅行が趣味だった私は、その辺にはかなり気を使っていたんだけど、すっかり頭から抜けてたんだよね。
 いつも出かける時には師匠があらかじめに予約の電話をしてたことに気が付きそうなのに。

 まあ、いい。次は気をつけよう。
 宿も確保したし、闘技場に戻って50階で受付しないと。







「……まで10階単位でクラス分けされております。
 つまり、50階クラスの選手が一勝すれば60階クラスに上がり……」

 パンフレットをちゃんと読めば、この説明はいらないんだけどなあ……と説明してくれるエレベーター嬢を見ながら思う。

「……お分かりいただけましたでしょうか?」

「はい。ちゃんと、パンフレットも読みましたから」

「あ、でしたら、説明はいりませんでしたか? 申し訳ありません。ほぼすべての方がお読みにならないので……」

 ああ、やっぱりなー。

 説明をこうやって聞かせるってことはそれだけアレを読まない人が多いってことか。
 元の世界では、コスト削減でいなくなってしまっているエレベーター嬢だけど、きちんと読む人が増えない限りここでは現役のままだろう。

「毎回説明してるんですか? 大変ですね」

 他に誰も乗っていないので、つい思ったことを口にした。

「皆さんが、ちゃんと目を通して下されば一番いいんですけれど、これも仕事ですから。 と……50階です。がんばってくださいね」

 苦笑を浮かべたエレベーター嬢に見送られて、私は降りる。
 そのまま通路を通り、選手受付で1階で渡されたバーコード付きのチケットを渡した。
「はい、1976番ですね。こちらになります」

 バーコードリーダー?に通してから、封筒を手渡された。
 軽く振ってみるとチャリチャリと小銭の音がする。

「今すぐ試合登録もなされますか? それとも、明日にいたしますか?」

 なんだ、対戦日程は明日も選べたのか……

「今すぐでお願いします」

「かしこまりました。では、このまま選手控え室でお待ち下さい。
 お名前をアナウンスしますので、それからリングまでお願いいたします」

 何か飲みながら待とうかな。

 封筒を逆さにすると、152ジェニー出てきた。
 ここの自動販売機の缶ジュースの値段が150ジェニーだから、確かに缶ジュース1本分。 原作通りだなあと納得しながら、冷たいミルクティーを買う。

「選手控え室……ねえ……」

 一応、扉の前まではきたものの、なんとなく入りたくない。
 放送自体は、この通路にも聞こえるので、結局外で待つことにした私だった。 
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