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世界の片隅で生きるために

作者:桜里
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天空闘技場編
  天空闘技場1

 最悪の出会いから四日。
 途中、食材や燃料の補給に別の街に寄港したりしつつ、ようやく天空闘技場についた。
 またカストロに会うのも嫌だったので、個室でヒッキーになっていたのは秘密。

 せめて、一度くらい大浴場や展望ラウンジにも行きたかった……。
 それもこれも、アイツが悪い。

 飛行船のターミナルが闘技場と直通になっているので、そのままトランクを引いて受付のロビーに向かう。
 天空闘技場は251階、高さ991mの世界第4位の建物。格闘のメッカとも呼ばれる闘いの場所。闘いは全てギャンブルの対象になるから、観光客も多い。
 観戦受付ではなく、選手受付の方のフロアに向かうと、かなり混雑していた。その中でも人が少なめの列に並んだ。
 周囲を見回すと、本当にむさ苦しい男ばかりでちょっと辟易する。
 私のような少女が選手登録用の受付に並んでいるのがよほど珍しいのか、あちこちからザワザワと何か言われてるのが聞こえるが気にしないでおこう。実際、見た感じ女の人いないしね……
 ようやく自分の番が来た時には、あまりの居心地の悪さに不機嫌になっていたけれど。

「天空闘技場へようこそ。必要事項をこちらにお書き下さい。
 裏面にも要項がございますので、そちらもお読みの上でサイン下さい」

 手渡された用紙の空いてる欄を埋めていく。
 えーと。
 名前……名字まで書かなくていいか。スミキだけでいいや。
 年齢……実年齢書いても信用されないしなあ。とりあえず、16歳にしとこ。
 出身地……どうしよう、私ここの世界の人間じゃないし。空欄で出しちゃえ。
 格闘技経験……師匠についてからだから、3年くらい?
 万が一死亡した際の連絡先……多分そんなことはないとは思うけど、師匠の所でいいか。

 裏面には、要約するとここで負った大怪我や死んだ場合に闘技場及び、対戦相手に損害賠償責任を求めないという誓約書。
 ああ、まあそうだよね。
 毎日のように対戦があるのにそれで責任とか求められてたら、いくらお金があっても足りないし。
 納得しつつ、一番下の「意義を申し立てません」という欄に丸をつけて、名前を書く。

「難しい条件は一切ございません。
 手段を問わず、相手を倒した方が勝ちとなります」

 記入した書類と引換にハガキサイズほどの番号の書かれた紙を渡された。
 番号は1976番。

「そちらの番号がアナウンスにて呼ばれましたら、リングに上がって下さい。
 こちらに当施設の案内と選手規約がまとめてございますので、お待ちいただいている間にお読み下さいませ」

 手帳サイズほどのパンフレットを渡された。
 パラパラと軽く開いてみると、細かい文字がぎっしり書かれている。

 ……これは、面倒くさそうだ。絶対、読まない人のほうが多い気がする。

 それに失礼だとは思うが、ここに多そうな脳筋タイプは絶対読まずにゴミ箱行きだ。
 その証拠にさっきゴミ箱の可燃物の方に、このパンフレットが山と入っていたことは記憶に新しい。
 そういえば、カストロも受付済ませたのかな。
 顔を合わせなくて、ちょっとほっとするけれど。

 そのまま歩いて観戦席の方に移動した。選手控室にいてもいいのだけど、殆どの人は観戦席に来てる人のほうが多いみたい。
 トランクを引いているから、人が少なかった最後列の端の方に座った。
 リングの数が1、2、3……16個? 3分の闘いとはいえ、これは時間かかりそう……。

 待ってる間に、折角だからパンフレットを読むことにした。
 初めは一階から闘い50階以上は一勝ごとに10階ずつ上がって、負けると10階下がる。
 100階以上で個室が貰えて、200階以上で武器の使用が認められる。もらえる賞金も、上層階に行くほど高くなる。100階以上でもらえる個室には、ルームサービスもあること。あとは、200階以上の待遇の素晴らしさとか。
 続いて書いてあるのは、闘技場自体に低価格の選手用のホテルがあること。そして、観光客用のホテルは闘技場の外にあること。
 一番驚いたのは、選手用の規約。闘技場のリング以外の場所での私闘は禁じられているんだね。
 原作の方では、サダソとキルアがそれっぽいことしてたけど、いいのか、アレ……。ヒソカとかは、そんな規約すら気にしてなさそうだけど。

 隣の席に誰かが座った気配がした。まあ、空いてたし別にいいけど。

「やっと、見つけた。探したよ」

 は?

 思わず顔を上げて、絶句した。
 笑みを浮かべたカストロがそこにいた。

「……よく見つけましたね。こんな超人数の中で」

 ほんと、どうやって見つけたんだろう。
 こんなに人がいっぱいの中で。

「割と簡単だったよ? 目立つ格好だし、女性自体少ないからね」

 あー、はい。そうですか。
 もう、コレで対戦相手がカストロとか出来過ぎた状況でも、私は仕方ないと思える。
 フラグを叩き壊そうとしたから?
 さすがにそれはないだろうけれど。

「観光は嘘だったんだね。こちらの席に座っているということは、選手登録だろう。
 どうして嘘を?」

 私の手元の紙を見つつ、カストロが言う。
 ……めんどうだなあ。
 私はどう説明するか困って、彼を見上げていた。

「……そうですねえ? 正直に話したら、私のことほうっておいてくれますか?」

 ここまで興味持たれるとは思ってなかったし。

「それは無理かな。私としては、キミのことをもっと知りたい」

 イケメンのさわやかな笑顔と、この言葉はある意味破壊的なんだろうけれど……
 私には通用しない。というか、相手がカストロなので余計に。むしろ、イラッ☆とさせられる。
 こういうフラグイベントというものは普通、主要のイケメンキャラとかと発生するものであって、一応分類としてはイケメンではあるものの、残念極まりない「捨てキャラ」と発生するとか私どれだけ不運。

「たかだか、飛行船内で出会っただけですよ? そんな探しまわったり、嘘をついていたのはなぜか? なんて聞いたりする必要性なんて無いと思いますが」

 軽くため息をつきながら、パンフレットを閉じてカバンにしまう。

「私は君に興味があるんだよ。今まで、そんな態度を取られたことがないからね」

「それは、自分自身に絶対的自信を持ってて、なびかないのは居ないとか思ってるからでしょう? 私みたいな変わり者は少なからず居ますよ。
 それよりも、ここへ来たということは、貴方は格闘家として腕を上げて名を残すためでしょ?
 私みたいなのに声をかける暇があるならその時間を鍛錬に使うべきだと思うんです」

 とりあえず、話題をすり替え。
 正直に話したところで、根掘り葉掘り聞かれそうだし。

「そして、私は貴方みたいなタイプは大嫌いです」

「…………」

 あー。プライドが高そうだから、逆にやばかったかな。
 こういう態度取られるとか珍しいんだろうねえ。言い寄る方が多そうだし。
 でも、はっきり言わないとグダグタと長引きそうだし……

「……ハハハハハ!!」

 あ、壊れた……?
 いきなり大笑いしはじめたカストロに周囲の視線がこちらに集まってしまう。
 ちょ、これはかなり恥ずかしい!

「ふう……。はっきり言ってくれるね、スミキ。君は本当に面白いね」

「面白いですか? 普通だと思ってますけど」

「ああ。私は本当に君に興味を持っただけ……だったんだ。
 私が扉を開けたとき――つまり君が通路を歩いているとき――気配を全く感じなかった。
 それはどういうことなんだろうってね」

 え、どういうこと?

 ……あれ、恋愛フラグじゃなかったの?
 まさか、私の自意識過剰による自爆ですか?

 うあ……なんというイタイ行動だよ、私。
 勘違いもはなはだしい。ああ、穴があったら入りたい。
 いや、この場から走ってでも逃げたい!


 そう瞬時に理解して私の顔から血の気が引き、その後に恥ずかしさの余り真っ赤になった。

「とはいえ……それとは別に君自身のことが知りたくなった。
 それで、嘘をついた理由は私が嫌いだからでいいのかな?」

「え。ええ……」

「うん。マイナス印象からのスタートか。それならそれ以下になることはないわけだ。
 これからはプラスになるように頑張るとしよう」

「いや、え……えぇぇぇ?」

 カストロってこんな奴だったっけ。
 ポジティブシンキング、プラス思考どころの騒ぎじゃない。
 元はといえば、私の自意識過剰での勘違いだったのにドMすぎだ。
 もう残念ドMと彼を心の中では呼ぼう。

 プライドが高くてそれなりの強さを持っていたわりに雑魚っぽい印象しかなかったんだけど。
 しかも、元の世界で昔やってた旧アニメではヒソカ戦はいろいろ放送コードに引っかかっちゃったせいでサックリ削られ、新アニメでは彼自身の配色がどう見ても戦隊物のイエローな上にヒソカの当て馬になっている。
 そういえば、彼は新アニメと旧アニメを足して割ったような感じだ。
 色素が薄い蒼灰色の髪の色は光のあたり方によっては白く見える新アニメ版だけど、瞳の色は紫色で旧アニメ版。身に着けているマントは旧アニメ版の落ち着いた薄紫色で、新アニメ版のあの残念なドギツイ黄色ではない。でも中に着ている服は白で新アニメ版。そして、声は旧アニメ版。

 ……やっぱり、平面のマンガやアニメで見るよりも実際の人物とは違うということなんだろうか。

 それにしても、原作関係者と関わらないで生きるはずだったのにっ
 たった一度の前方不注意でこんなことになるなんて。
 後悔してもしきれない。


「1890番、1976番の方Jのリングまでどうぞ。1890番、1976番の方Jのリングまで……」


 丁度良くアナウンスが流れた。
 自分の番号が入っていたのは天の助けと思いたい。
 この残念ドMは放っておこう。
 そして、今後は自意識過剰による恥ずかしい出来事を起こさないように気をつけなくては……!
 私は慌てて荷物をまとめると、中央の闘技場フロアへの階段を走り降りた。 
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