ニュルンベルグのマイスタージンガー
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第一幕その十五
第一幕その十五
「そんなことだと思ったよ、全く」
「騎士殿が!?」
「マイスターに!?」
他のマイスター達もこれには驚きの顔になってそれぞれ見合う。
「それはまた」
「喜ぶべきことかはたまた警戒するものか」
「どうなるのか」
「それだとしてもです」
コートナーは真面目な顔でポーグナーに対して顔を向けてきた。
「騎士殿を迎える為には色々と御聞きしたいことがあります」
「はい」
ポーグナーも正面から彼の今の言葉を受けた。
「私は騎士殿の成功を望みますが規則を無視することはありません」
「では騎士殿」
「はい」
ここでヴァルターはマイスター達の前に出て来た。それまで聖堂の隅で控えていたが遂に彼等の前に出て来たのである。
「御聞きしたいのですが」
「まず何をでしょうか」
「お生まれは。自由で正統なものでしょうか」
「フランケンのシュトルツィング家の者です」
ヴァルターは静かにその問いに答えた。
「城を後にしてこのニュルンベルグに参り市民になりたいと考えています」
「成程」
「御身分は確かですな」
マイスター達にもそれは伝わった。
「貴族なんてな」
その中でベックメッサーは一人愚痴っていた。
「貴族や農民というのは問題ではありません」
ここでまたザックスが言った。
「それは前から我々の中で決め手いたのでは?」
「それはそうですがね」
ベックメッサーもそれは認める。
「マイスタージンガーになろうとする者は」
「芸術によって決まる」
ベックメッサーも続く。
「その通りですな」
「そうです」
彼等の今の話はこれで終わった。コートナーはその間にさらにヴァルターに対して尋ねてきていた。
「それで御師匠はどなたですか?」
「冬の日の静かなろばたで家も屋根も雪に埋もれる時」
ヴァルターはコートナーの問いに対してまずはこう述べた。
「春が優しく微笑んだことを、その春がまた間も無く目覚めることを知りました」
「その御師匠にですか」
「はい。祖先から伝わる古い書物で幾度も読みました」
「古い書物!?」
「どういうことですかな?」
「ヴァルター=フォン=フォーゲルヴァイデ」
かつてのミンネジンガーの一人であった。
「彼が私の師匠でした」
「あの伝説のミンネジンガー」
ザックスは彼の言葉を聞いて感嘆を込めて呟いた。
「いい師匠を持たれていたのですね」
「しかしですぞ」
ベックメッサーはその横で口を尖らせていた。
「もう遥か前の人ではないですか。どの様にして規則を学ばれたのか」
「そしてです」
コートナーはさらに彼に問うた。
「どのようなところで学ばれたのですか?」
「野や畑に露が消え」
またこうしたところから話すのだった。
「再び夏が訪れる時」
「はい」
「かつて長い冬の夜に古い書物から学んだものです」
またそこからなのだった。
「美しい森に響き渡り高らかな歌声を聞きフォーゲルヴァイデ、そう小鳥の棲む原で私は歌ったのです」
「そうだったのですか」
「そうです」
穏やかな声で述べるのだった。
「そこで私は学んだのです」
「つまり鳥から学んだ!?」
ベックメッサーはまた口を尖らせた。
「何ですか、それは」
「いけませんか」
「人から学んではいないではないですか」
ベックメッサーはヴァルターに対してそこを言うのだった。
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