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ニュルンベルグのマイスタージンガー

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第一幕その十四


第一幕その十四

「そのうえで民衆に向かって行く。これなら決して悔いることはないでしょう」
「ううむ」
「そういうものでしょうか」
 マイスター達の中には今の彼の言葉に頷きかけようとしている者も出て来ていた。
「そうです。皆さんも民衆を満足させようと為さるのですから」
「それがいいと」
「民衆が楽しめたかどうか言ってもらうことがようのではないのでしょうか?」
 さながら使徒達に囲まれた主のようになっていた。
「人民と芸術が共に栄えることを貴方達も望まれている、私はそう思います」
「もっともなのはその通りですが」
 フォーゲルザングは全面的に賛成しなかった。
「賛成できませんな」
「それなら私は黙ります」
 コートナーとナハティガルは明確に反対だった。
「芸術が民衆の好みに従うと衰退と屈辱に脅かされます」
「その通りです」
「ザックスさんも最近」
 ベックメッサーはとりわけ難しい顔をして腕を組んで述べてきた。
「民衆に迎合されていませんか?それはどうかと思うのですが」
「ザックスさん」
 ポーグナーも彼に言うのだった。
「私の言うことが既に新しいことです」
「はい」
「一度にあまり進んだことを言ってもよくはないと思いますが」
 こう彼に告げたうえで他のマイスター達に対しても言ってきた、
「贈り物と規則はそれでいいでしょうか」
「はい、それで」
「いいと思います」
「私もです」
 ベックメッサーもここでは賛成するのだった。満場一致であった。
「花嫁が最後の決定をするというのなら」
 ザックスも言う。
「私はそれで」
「仕方がないな」
 ベックメッサーはそれでも本心は別だった。
「ここは」
「それでです」
 またコートナーが口を開いてきた、
「誰が求婚者に?独身でなければなりませんが」
「だったら」
「やっぱり」
 ここで徒弟達はまたザックスを見るのだった。
「だよな、この人しか」
「そうだよな」
「如何ですか」
 ベックメッサーは少しシニカルな声でザックスに問うてきた。
「貴方は。もう長い間御一人ではないですか」
「いえ、私は」
 しかしザックスは右手を前に出して制止する動作でそれを拒むのだった。
「エヴァさんが求婚者に賞を与えるというのなら」
「それならば?」
「その人は私や貴方より若くはないと」
「私より若いと」
 ベックメッサーは今のザックスの言葉に顔を顰めさせた。実は彼も結構長い間一人でいるのだ。妻は今は亡くなってしまっているのだ。
「それはどうかと思いますがね」
「まあまあ」
「それはいいとしまして」
 他のマイスター達がベックメッサーを宥める。それが整ってからポーグナーがまた口を開くのだった。
「今日の試験ですが」
「はい」
「それですね」
 一息置いてから話しはじめた。
「この試験に若い騎士殿を推薦したいのです」
「騎士殿ですか」
「そうです。今日マイスタージンガーに選ばれたいと仰っています」
 こう一同に説明する。
「ヴァルター=フォン=シュトルツィング殿です」
「やっぱりな」
 ベックメッサーは彼の今の言葉を聞いてまたしても苦い顔になった。
 
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