DQ4TS 導く光の物語(旧題:混沌に導かれし者たち) 五章
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五章 導く光の物語
5-35勇者と王子
「本来、キングレオにいると考えていた、私たちの仇の、バルザックですが。それが今は、……サントハイムのお城に、いるというのです」
「……何」
「そんな!」
「どういうことじゃ!」
ミネアの言葉に、低く呟くアリーナ、悲鳴を上げるように小さく叫ぶクリフト、声を荒げるブライ。
アリーナが、ふたりを諌める。
「ふたりとも、落ち着け。ミネアを責めても、どうにもならないだろう」
「しかし!……いや、その通りですの、失礼した、ミネア殿」
「アリーナ様……。申し訳ありません、家臣の私たちが、先に取り乱してしまうとは」
「いや、いい。ミネア、続けてくれるか」
ミネアが頷き、話を続ける。
「城の兵士には操られていた者が多く、情報はほとんど得られなかったのですが。自分の意志で魔物に従い、記憶を保っていた者が、少数ながら、いまして。その中のひとり、大臣の話によれば、進化の秘法をもたらした功績により、……新たに、サントハイムの城を与えられ、そこの守りを命じられたと」
「我等が城を……魔物が、魔物に、与えた、じゃと……!?」
「ブライ」
「……面目無い。暫し、黙りましょう」
アリーナに短く咎められ、眉間に深く皺を刻み、ブライが口を閉ざす。
アリーナが、問う。
「……目的は?そのバルザックとやらは、サントハイムで、何をしているんだ?」
「そこまでは。ただ、いるとしか」
「わかった。ならば、次の目的地は、サントハイムでいいだろうか」
「そうですね。問題があるとすれば」
ミネアが、ホイミンに視線をやる。
ホイミンが俯き、ライアンが口を開く。
「ホイミンを送り届けるついでに、ユウ殿や皆さんに、我が王にお会い頂きたいと思っておりましたが。そのような場合では、ありませんな。一先ず、ホイミンだけを送り届けて、後日改めてご検討頂くとしましょう。ホイミン、いいな」
「……はい、ライアンさん」
沈むホイミンに、少女が声をかける。
「ごめんね、ホイミン。でも、あぶないから」
「……うん、わかってる。ごめんね、ユウちゃん。わかってたから、大丈夫だから」
「では、行くか、ホイミン」
「はい、ライアンさん」
早速、席を立つふたりを、トルネコが止める。
「まあ、まあ。せっかく会えたところなんですし、今日は大きな戦いも、あったことだし。そう、急がなくても、いいのじゃないかしら。今すぐアリーナさんたちのお国に向かうというわけには、いかないでしょうから。」
「しかし。備えるなら、早いに越したことは」
「うん。ぼくは、大丈夫だから。トルネコおばちゃん、ありがとう」
「いや、待ってくれ。ふたりとも」
アリーナが、口を開く。
「城を奪われたと言っても、元々無人だったものだ。急いだところで、どうなるものでも無い。今日くらいは共に過ごして、明日にでも送り届ければいいだろう。サントハイムには、ブライのルーラで、すぐにも行けるからな。ブライ、クリフト。いいな」
有無を言わせないアリーナの調子に、ブライとクリフトが頷き、応じる。
「承知しました」
「アリーナ様が、それで宜しいなら」
ふたりに頷き返し、今度はマーニャとミネアに向き直る。
「マーニャとミネアも、それでいいか?ふたりの、仇のことだが」
「構わねえよ。今さら一日二日、どうってこたあねえ」
「もちろんです。居場所ははっきりしたのですから、無暗に急ぐよりも、しっかりと備えることが必要でしょう」
「じゃあ、明日。ライアンさんが、ホイミンを、ライアンさんの国の、バトランドに、送って。帰ってきたら、アリーナの国の、サントハイムに、行くのね?」
少女が流れを確認するように話をまとめるのに、全員が頷く。
トルネコが、気分を引き立てるように、明るく言う。
「それじゃあ、今夜は、マーニャさんとの約束通り。いろいろと、奮発しないとね!短い間だけれど、一緒にいたホイミンちゃんを、送り出すのだし。運命のお仲間の、ライアンさんをお迎えしたし。今日は大きな問題をひとつ解決して、明日はいよいよ仇を討って、大事なお城も、取り返すんだから!しっかり食べて、力を付けないとね!」
マーニャが、話に乗る。
「おお、景気がいいな!暗くなったって仕方ねえしな、盛り上げて、気合い入れてこうぜ!オレらはようやく野郎を倒せるし、ついでにアリーナの城も、掃除できるんだからな」
アリーナも、応じる。
「そうだな。重く考えても、仕方が無い。居座る者がいるなら、倒せばいいだけだ。マーニャとミネアの本懐も遂げられるし、情報も聞けるかもしれない。手間が省けたな」
「……そうですね!私たちは、魔物から、情報を得なければならないのですから。情報を得る機会と、前向きに捉えるべきですね」
「うむ。よりにもよって、我等が城に居座るとは、図々しいことこの上無いが。身の程を知らねばどのようなことになるか、思い知らせてやりましょうぞ」
雰囲気が明るくなったのを見届けて、トルネコが席を立つ。
「それじゃあ、あたしは夕食の手配を、してきますわね。夕食までは、それぞれ自由に過ごしてもらうということで、いいわね。」
「そうですね。トルネコさん、よろしくお願いします」
「まかせてちょうだいな!」
張り切って部屋を出て行く、トルネコ。
ライアンが、ホイミンに言う。
「さて、ホイミン。預ける先は当てがあるが、身一つで行く訳にも行かぬだろう。少し、買い物にでも行こうか」
「……はい!ライアンさん!」
少し表情を明るくして、ホイミンが応じる。
ブライの、目が光る。
「む!ホイミンちゃんに買うならば、わしも行きたいところじゃが。邪魔になるかの」
「邪魔等と、とんでもない。武骨な戦士故、見立てるのも難しいと思っておったところです。来て頂けるなら、有り難い」
「うん!ぼくも、ブライおばあちゃんとも、一緒に行きたい!」
「おう、おう。そう言うてくれるか。ならば、トルネコ殿も、お誘いするとするかの。ユウちゃんも、来るかの?」
「わたし?わたしは……」
アリーナに、視線をやる少女。
「ううん。今日は、やめておく。いってらっしゃい」
少女の視線の意味を汲み取り、頷くブライ。
「……そうかの。では、トルネコ殿を拾って、向かうとするかの。クリフト、ゆくぞ」
「ええっ!?私は、その」
ライアンに視線をやり、焦るクリフト。
「良いから、行くぞよ。これも、慣れじゃて」
「そんな、ユウさんが……、いえ、わかりました。参りましょうか」
少女とブライの意図に気付き、観念したように抵抗をやめるクリフト。
「ごめんね、クリフト」
「……いいのです。ありがとうございます、ユウさん。宜しくお願いいたします」
「うん」
ライアン、ホイミン、ブライ、クリフトの女性陣は、連れ立って部屋を出て行く。
「稼ぎに出るような、時間でもねえな。オレらは、休んでるか」
「そうだね。それじゃ、アリーナ、ユウ。またあとで」
「ああ」
「うん。あとでね」
兄弟も部屋を出て、割り当てられた部屋に戻る。
しばしの間を置き、アリーナが口を開く。
「……ユウは、行かなくて良かったのか」
「うん。クリフトたちがいれば、お買い物は、大丈夫だから」
「そうか。……済まないな」
「ううん。大丈夫」
「……少し、付き合ってくれるか?体を、動かしたい」
「うん。行こう」
「悪いな。疲れているだろうに」
「大丈夫。いつもなら、まだ戦ってる時間だし。村では、もっとたくさん、動いてた」
「そうか」
アリーナと少女は、連れ立って宿を出る。
町外れの開けた場所で、それぞれ構えを取り、手合わせを開始する。
普段なら声をかける場面でも黙ったまま、淡々と手合わせを続けるアリーナ、同じく静かに応じる少女。
アリーナが二本を取り、三本目に入る。
普段なら見逃さない少女の動きをアリーナが見誤り、三本目を少女が取る。
「……アリーナ」
「……少し、休むか」
「うん」
路傍の石に、それぞれ腰掛ける。
「……情け無いな。ふたりには偉そうなことを言っておいて、自分がこの様だ。明日には、乗り込むというのにな」
「……お城は。アリーナの、大事な、場所なのよね?」
「ああ。生まれてから、旅に出るまで。ずっと、あそこで育ってきた。良いことばかりでは無かったとは言え、行方不明の父上や、亡くなった母上や。皆との思い出のある、大切な場所だ」
「それなら。仕方ないと、思う。わたしも、村が、無くなって。平気じゃ、なかった」
「そうだな。ユウの村は、もう無いのにな。存在しているだけ、余程マシだと言うのに。本当に、情け無い」
「アリーナ……」
沈黙が、訪れる。
少女が、静かに沈黙を破る。
「……わたしは、大丈夫だから。みんなも、いるから。アリーナがだめなら、わたしたちが。アリーナの、大切な、お城を。取り返すから」
アリーナが顔を上げ、少女を見る。
少女は、正面から見つめ返す。
「アリーナは、王子様だから。しっかりしないと、いけないのかも、しれないけど。わたしが、勇者なのに。わたしだけに、させようとしないで。みんなが、助けてくれるみたいに。わたしも、アリーナを、助ける」
アリーナは黙って、少女を見つめる。
少女は、視線を逸らさない。
「大丈夫。絶対に、取り返せる。みんなで、頑張ろう」
長い沈黙を、少女はアリーナを見つめたまま、待つ。
アリーナが、口を開く。
「……そうだな。強くなって、どんな強敵も、倒して来て。少し、勘違いしていたようだ。いくら強くなろうとも、俺は、所詮、ひとりの人間だった。ひとりで出来ることなど、たかが知れている」
アリーナが、少女に笑いかける。
「ユウ。助けて、くれるか」
「うん。わたしは、アリーナよりも、弱いけど。ひとりじゃだめでも、一緒なら、きっと。大丈夫だから。一緒に、頑張ろう」
「ああ。宜しく頼む」
アリーナが、立ち上がる。
少女は見上げて、問いかける。
「もう。大丈夫、なのね?」
「ああ。もう、大丈夫だ。戻ろうか」
「うん。みんなが、待ってるね」
アリーナに手を引かれて少女も立ち上がり、ふたりは宿に戻る。
女性陣が買い物から戻ったところに出会し、表情の晴れたアリーナを見て、ブライとクリフトが顔を見合わせる。
「王子」
「……アリーナ様」
「大丈夫だ。心配かけたな」
「ふむ。まだまだお若いのですからな、あまりご無理は、なさいませぬように」
「ああ」
「……お元気に、なられて。良かったですわ」
「ああ。ユウと、お前たちのお蔭だ」
「私など。ユウさん、ありがとうございます」
僅かに憂いを滲ませて、クリフトが少女に微笑みかける。
「……クリフト?」
「家臣である私たちでは、どうにもならないことが、ありますから。ユウさんがいてくださって、良かったですわ」
「……そう。……大丈夫?」
「はい。勿論です」
今度は憂いも含まずに、優しく微笑むクリフト。
「それでは、アリーナ様。また、後程」
「ああ。ユウも、後でな」
アリーナと別れ、女性陣は割り当てられた大部屋に戻る。
「……クリフト。大丈夫?」
「……はい。勿論、です。……でも、……一緒に、いてくださいね?ユウさん」
「うん。大丈夫」
隣のベッドに腰掛け、ホイミンと共に購入した衣類を確認するライアンから必死に目を逸らし、少女を見つめて気を紛らわせるクリフト。
クリフトの様子には気付かず、話をするライアンとホイミン。
「ライアンさん。ぼく、どこに行くの?」
「王宮で、私の上司に会ったのを覚えているか?」
「うん!小隊長さんだね!」
「あの人は、私が王宮に上がったばかりの頃から、公私に渡って世話になっていてな。奥方とも、親しくさせて貰っている。奥方は、なかなか子宝に恵まれないのを寂しがっておられたから、私が旅に出ている間くらいならば、喜んで面倒を見てくださるだろう」
「そうなんだ!……でも、いいのかな?」
「頼んでみなければ、分からないが。他にも当てが無い訳では無い、何も心配するな」
「……うん!」
トルネコが、残念そうに言う。
「あたしが旅に出ているのじゃなかったら、あたしが引き取りたいところだけれど。当てがあるのなら、そうはいかないわねえ。あたしが家に帰るときは、ライアンさんがお国に帰るときでも、あるし。」
ブライも、同意する。
「わしも独り身じゃての、行く当てが無いのならば、いずれは養女にでもどうかと、思うたが。ライアン殿と共に暮らす予定ならば、割り込むことも、出来まいの」
「残念ですわねえ。」
「本当にのう」
少しの警戒を示し、ライアンにくっつくホイミンを見やり、溜め息を吐くトルネコとブライ。
「まあ、先のことは、わからぬでな。ユウちゃんも、おるしの」
「そうですわね!ユウちゃんが、いますものね!」
「え?……わたしが、どうかした?」
急に名前を挙げられ、きょとんとして問いかける少女。
「何でも無いのじゃ。先の、話じゃての」
「そうよ。ユウちゃんも、なにも、心配しなくて、いいのよ。」
「……うん?」
ホイミンが、呟く。
「そっか。ユウちゃんも……。……ユウちゃん!」
「なあに?ホイミン」
「あのね!ユウちゃんの旅が、終わったらね!ユウちゃんも、一緒に暮らさない?……あ、ライアンさんが、いいって言ったらだけど!」
ブライとトルネコが、驚愕を顕にする。
「なんと……!!」
「そう、くるのね……!!」
ライアンが微笑み、口を開く。
「それは、いいな。ユウ殿。どうでしょう」
「え?ライアンさんと、ホイミンと、一緒に?」
「どうぞ、ライアンと。他のお仲間と同じように、お呼びください」
「わかった。ライアン。……ライアンは、呼び捨てに、しないの?」
「ユウ殿が、望まれるのであれば」
「えっと。ライアンが、呼びやすいので、いい」
「では、このままで」
「……すぐには、わからない。考えたこと、なかったから」
「勿論、すぐに決められる必要は、ありません。選択肢のひとつとして、考えて頂ければ」
「……うん。わかった。ありがとう、ライアン。考えてみるね」
「はい」
微笑み合う少女とライアン、にこにこと見守るホイミン。
また赤面するクリフト。
和やかな空気を破り、ブライとトルネコが口を挟む。
「ユウちゃん!ならば、その選択肢に!わしのところに来ることも、入れてくれぬかの!サントハイムも、我が家も、なかなか良いところじゃての!」
「ユウちゃん!エンドールは、いいところよ!遊び相手にポポロもいるし、うちも悪くないと、思うわよ!」
「……うん?……えっと……?」
戸惑う少女の様子に、クリフトが我に返る。
「ブライ様もトルネコさんも、落ち着いてください。ユウさんが、困っておいでですわ」
「そうだよ!ユウちゃんは、ぼくとライアンさんと、一緒に暮らすんだから!」
「ホイミンさんも。ユウさんが、お決めになることですから。あまり、急かすようなことは」
「あっ、そっか、ごめんなさい!ごめんね、ユウちゃん!」
「……ううん。みんな、ありがとう」
微笑み、仲間たちを見回す少女。
「ふむ。勝負はこれからじゃの。負けぬぞよ、トルネコ殿」
「あら、あたしだって!」
「ライアンさん、頑張ってね!」
「む?頑張るとは、何だ」
「ですから、皆さん……」
呆れ顔のクリフトがまた仲間たちを諌め、一行は準備の整った食堂に移動する。
後書き
小さな光は寄り集まって、大きな力となる。
旅路の果てに探し当てた、守るべきもの。
次回、『5-36守るべきもの』。
9/25(水)午前5:00更新。
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