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DQ4TS 導く光の物語(旧題:混沌に導かれし者たち) 五章

作者:あさつき
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五章 導く光の物語
  5-34名を名乗る

 ライアンを迎え、ホイミンも合わせて九人になった一行は、ブライのルーラで港町ハバリアに戻る。

 マーニャが、怪訝な顔で、ブライに問う。

「ばあさん。今の、ルーラだけどよ」
「ふむ。気付いたか。流石じゃの」
「いや、なんか違ったのはわかったが、なにかまではわからねえ」
「十分じゃ。普通ならば、知らずに気付けるようなものでは無い」
「で、結局なんなんだ?」
「なんの、話?」

 少女も疑問符を浮かべ、ブライが答える。

「うむ。今のルーラで、トルネコ殿の船も、移動させたのじゃ。この町付近の海岸の、しかるべき場所に、停まっておるはずじゃて」
「な……!んなことが、できるのか!?」
「誰にでもとは、行かぬが。マーニャ殿であれば、問題無かろう」
「おし!次のルーラは、オレが使うぜ!」
「珍しく、やる気だね」
「オレは面白えことは、好きだ」
「……ブライさん。そんなに簡単に、できるようなものなのですか?」
「簡単にとは、行かぬが。元々、呪文の効果として、付随するものじゃ。そこまで制御出来る者が少ない故に、知られておらぬだけでの。今ので感覚が掴めたマーニャ殿であれば、全く問題無かろう」
「それなら、良かった。兄さんは、やると言ったら、少しくらい問題があっても強行するので」
「……おばあちゃん。わたしも、できるように、なったほうが、いい?」
「わかってしまえば難しいことは無いが、わかるまでが難しいものじゃからの。他に優先してすべきことがあるしの、わしとマーニャ殿が出来れば、十分じゃ。無理をしなくとも、良かろうて」
「そう。わかった」

 ほっとして、頷く少女。

「まあ、まあ!それは、便利ですわね!いちいち、船を取りに戻らなくても、いいだなんて!」
「魔法の使い手の多い我がサントハイムでも、そこまでの使い手は、多くは無いのです。マーニャさんは、本当に素晴らしい才能をお持ちなのですね」

 喜ぶトルネコ、賞賛するクリフト。

「……これで、性格さえ。もう少し、真面目だったら……」
「……お察ししますわ」

 遠い目で呟くミネアを、気遣うクリフト。

「ふむ。そんなことが出来るのなら、国に戻るのも、船を置き去りにすること無く、瞬時に出来ますな。私が使えれば、すぐにもホイミンを、安全に送り届け、そのまま旅を続けることも出来たのですが。キメラの翼では、難しいでしょうか」

 ライアンの問いに、ブライが答える。

「効果が付随している点は同じじゃが、制御が難しい点も同じじゃ。ライアン殿が用いて、効果を為すことは、出来まいの」
「そうですか。そうでしょうな」

 落胆することも無く、当然とばかりに頷くライアン。
 別れの時が近付くのを感じ、目を伏せるホイミン。

「キメラの翼で、わしかマーニャ殿が共に赴き、戻って再度ルーラで向かうのであれば、可能じゃが。そう、急ぐこともあるまい。なんにしろ、詳しい話は落ち着いてからじゃの」
「そうですわね。時間はかなり早いですけれど、いろいろとお話も、ありますし。まずは、宿を取ってしまいましょう。」



 宿を取り、大人数で話し合うために確保した大部屋に集まる。

「キングレオの城で、私たちのことだけでは済まない、重要な情報を得たのですが。ライアンさんもおられることですし、まずは自己紹介からということで、いいでしょうか」
「うむ。そうじゃの」

 ミネアの問いかけにブライが応じ、他の面々も、頷く。
 ライアンが、口を開く。

「それでは。私はバトランドの王宮戦士、ライアンと申す者。我が国で起きた事件を切欠に、勇者殿の存在を知り。職を辞する覚悟で、勇者殿を探し、見付け出して守る旅に出ることを、我が王に願い出ましたが。許しを得て、身分を保持したまま、旅を続けておりました。ホイミンとは件の事件の調査の折りに知り合い、以来同行しております。自分は一介の戦士故、戦うことしか、能が有りませぬが。どうぞ宜しく、お頼み申す」

 ホイミンがホイミスライムであったこと、旅の目的は人間になるためであったことは、再会の場に居合わせなかったマーニャとミネアも含め、既に全員が知っている。

「バトランドは、戦士の国として有名だからな。ライアン殿の強さを見れば、それも納得だが。是非、手合わせを願いたいものだ」
「光栄です、殿下」
「アリーナと呼んでくれ。皆にもそうして貰っている。仲間だからな」
「は。しかし。自分は、王宮戦士でありますれば。他国の王子殿下を、呼び捨てとは」
「そう、固いことを言うな」
「王子。無理強いをするものではありませんぞ」
「そうですわ。呼び捨てが難しいなら、アリーナ殿とお呼び頂くのではどうでしょうか」
「それもそうだな。ライアン殿、どうだろうか」
「は。それなら、何とか」
「……あ!あの!」

 ホイミンが、口を挟む。

「どうした?ホイミン」
「あのね!ライアンさんはね!ちょっと、……かなり、……すごく。人の名前を覚えるのが、苦手でね?みんなの名前、すぐ、覚えるのは……ちょっと。難しいかも、しれない」

 言葉を選びながら、言うホイミン。

「なんだ、そんなことか。覚えるまで名乗ればいいだけだ、問題無い」
「嬢ちゃんの名前は、すぐ呼んでたよな?」

 事も無げに言うアリーナ、疑問を呈するマーニャ。

「ユウちゃんは、……覚えやすいから。ぼくとおんなじで、覚えやすい、名前だから。それと、ライアンさんがずっと探してた、大事な勇者さまだから」
「そういうことか。なら、キャラを立たせて、覚えやすいようにしてやりゃ、いいんだな?」
「うーん?……うん、そう、なのかも」
「聞いた限り、特別に長い名前の方は、居られぬようでしたから。そう、時間がかかることも、無いと思いますが」
「嬢ちゃん以外で誰か、覚えたのか?王子様くらいは」
「……」

 マーニャの問いに、沈黙で答えるライアン。

「……覚えてねえのかよ」

 振っておきながら、驚くマーニャ。

「重症だな、こりゃ。期待しねえで、長期戦でいこうぜ」
「名前以外なら、問題ないんですよね?肩書きのようなものなら」
「はい。それは、勿論」
「それなら、当面はそれで呼んでもらえば、不都合はないですね。アリーナは、不本意でしょうが」
「事情が事情だからな。精々、早く覚えてもらえるよう、頑張るとしよう」
「……面目ありません」

 表情に変化は無いながら、沈み込んだ雰囲気を発するライアンを、クリフトが励ます。

「誰でも、得手不得手はあるものですわ。どうぞ、お気になさいませんように」

 顔を上げ、感謝を込めてクリフトに微笑みかける、ライアン。

「お気遣い、(かたじけ)ない」
「……!!」

 目を見開き、一気に顔を赤くするクリフト。

「い、いえ!!当然の、ことですわ!!」

 挙動不審になりながらも、なんとか返答する、クリフト。

「あらあら。まあまあ」

 少し赤らんだ頬に、手を当てるトルネコ。

「ふむ。眼福じゃの」

 動じず、呟くブライ。

「……そういうタイプか」
「……本当に、色んな意味で、アリーナと……」

 微妙な顔で眺める、マーニャとミネア。

「俺が、どうかしたか?クリフト、どうした?」
「い、いえ!何でも、無いのです!何でも!!」

 目の前のライアンと隣のアリーナの間で激しく視線を彷徨わせ、さらに動揺を増すクリフト。

「……クリフト?……大丈夫?」

 クリフトに歩み寄り、心配そうに顔を覗き込む、少女。
 間近に寄られて、思わず少女を見つめ返す、クリフト。

「…………はい。ありがとうございます、ユウさん。本当に、ありがとうございます」

 少女のまっすぐな瞳を見つめるうちに、落ち着きを取り戻したクリフトは、少女に礼を繰り返す。

「……?なにか、わからないけど。大丈夫、なのね?」
「はい!ユウさんの、お蔭です!ありがとうございます!」
「そうなの。よかった」

 微笑む少女に、クリフトも心底安心したように、微笑み返す。

「……嬢ちゃんは、すげえな」
「ほんとだね」

 気を取り直して、トルネコが仕切る。

「さあ、さあ。素敵な戦士さまをお迎えして、盛り上がるのは、仕方ないけれど。お話しすることはたくさんあるし、ライアンさんだけに名乗らせて、いつまでも名乗らないのではね。あたしたちも、早く済ませてしまいましょう!」
「どうせ覚えらんねえだろうから、今日のとこは気張らねえでもいいな。オレは、マーニャだ。芸人だが、呼び名に向いた肩書きでも、ねえからな。覚えられなけりゃ、踊り手とでも呼んでくれ」
「踊り手殿、だな。承知した」
「……ライアンさん!」

 ホイミンが閃いたように、顔を明るくして呼びかける。

「どうした、ホイミン」
「踊りは、舞って、いうんだよね?マーニャさんは、踊りをする人だから!舞を、する人だから!」

 ライアンも、はっとした顔になって応じる。

「……そうか!舞を舞うから、マーニャ殿だな!よし!覚えた、マーニャ殿」
「……今ので、覚えたのかよ。それはそれで、どうなんだ……」

 若干嫌そうに、呟くマーニャ。

「ま、まあ、兄さん。覚えられたなら、よかったじゃないか。次は、私ですね。占い師の、ミネアです。これはそのままで、問題ないですよね」
「そうだな。宜しく頼む、占い師殿」
「……ライアンさん!」

 また呼びかけるホイミンに、ミネアが肩をびくりと震わせる。

「どうした、ホイミン」
「占い師さんは、未来とか、運勢とか!いろんなことを、見る人なんだよね!いろんなものが見えるから、ミネアさん!」
「……なるほど!占い師の、未来を見る、ミネア殿だな!よし、覚えた」
「……よかったじゃねえか、ミネア」
「……そうだね、兄さん……」

 半笑いになるマーニャ、肩を落とすミネア。

「あらあら、なんだか、楽しくなってきたわね。それじゃ、あたしも。武器屋の妻で、主婦のトルネコですわ。あたし自身も、昔は武器商人を、していたのですけれど。あとは、そうねえ。ふつうに、おばちゃんで、いいんだけれど。ライアンさんが呼ぶなら、そういう感じではないし。どうしようかしら。」
「ふむ。奥方か、ご婦人といったところですが。御主人と面識も無いのに奥方では不自然ですし、ご婦人では(いささ)か他人行儀ですな」
「そうねえ。それでは、ちょっと寂しいわねえ。なんとかならないかしら、ホイミンちゃん。」
「はい!はい!トルネコおばちゃん!」

 意見を求められ、嬉しそうにホイミンが応じる。

「トルネコおばちゃんは、武器屋さんの奥さんで、武器屋さんだったことも、あるんだよね?武器を持つことを、武器を取るって、いうんだよね!だから、武器を取るから、トルネコおばちゃん!」
「あらあら、すごいわ!ホイミンちゃん!」
「トルネコ殿ですな!覚えました」

 完全に沈黙して成り行きを見つめる、マーニャとミネア。

「では、次は、わしかの。これは、ホイミンちゃんでも、難しいかも知れぬが。サントハイムの王室顧問にして、元宮廷魔術師。魔法使いの、ブライじゃ。あとは、そうじゃのう……観光と、食べ歩きが趣味じゃ」

 冒険者一行の自己紹介として特に必要の無い情報まで引っ張り出してきたブライに、重い口を開く兄弟。

「……趣旨、変わってねえか……?」
「……必要なことでは、あるんだよ……きっと……」

 全く気付かず、明るく手を上げるホイミン。

「はい!はい!」
「おお、あるのかの?ホイミンちゃん」
「うん!ブライおばあちゃんの好きな、観光とか、食べ歩きとか!ぶらぶらするって、いうことも、あるよね!ぶらぶらするのが好きな、ブライおばあちゃん!」
「ブライ殿!覚えました」
「ふむ。やるの、ホイミンちゃん」

 何と言うこともなく、少女の近くに寄って行く、マーニャとミネア。

「どうしたの?」
「いや……気にすんな……」
「ちょっと、疲れた、だけなんです……気にしないで……いや、ただ、そこに、居てください……」
「そうなの。うん、わかった。元気、出してね?……ホイミ、する?」
「いいんです……居て、くれるだけで……」
「ああ、そうだな……」
「うん。わかった」

 兄弟が癒しを求める間も、自己紹介は続く。

「では、私も。サントハイムの城付き神官、クリフトです。ええと、その、……あとは……」

 眉間に皺を寄せ、腕を組んで唸るホイミンをちらりと見遣り、自身も懸命に考えるクリフト。

「うーーん……」
「ええと……、その……」
「ううーーん……」
「……も、申し訳ありません!何も、思い付かなくて!」
「え?ええ??」

 居たたまれず頭を下げるクリフト、突然謝られて困惑するホイミン。

「神官殿。済まない。私が、至らないばかりに」
「ええ!?」

 沈痛な面持ちのライアンに、憂いを含んだ眼差しでじっと見つめられ、また動揺するクリフト。

「だ、大丈夫ですから!!お許しください!!ユウさーーん!!」

 真っ赤な顔をライアンから背け、少女に向かって走り出す、クリフト。

「あ、兄さん。仲間が増えたね」
「おお。そうみてえだな」
「大丈夫?クリフト」
「ユウさんがいれば、大丈夫です!」
「そうなの。じゃあ、一緒にいるね」
「ありがとうございます!!」

 少女を囲む仲間はひとり増え、アリーナが口を開く。

「今さら肩書きまで、改めて言うのもどうかとは思うが。サントハイムの王子、アリーナだ。他に何か、言ったほうがいいか?」
「うーーん……」
「……と言っても、特に言うべきことも、無いな」
「ううーーん……」
「まあ、そのうち、覚えてくれればいい」
「全く、面目ありません」
「気にするな。手合わせでもしていれば、そのうち覚えるだろう。ユウもいるしな」
「そうですね。呼ばれて居られる場に何度も居合わせれば、或いは」
「……あっ!ライアンさん、アリーナさん!」
「どうした、ホイミン」
「あるのか?」
「あのね!手合わせって、戦いの練習のことだよね!ライアンさんとアリーナさんは、これから毎日、一緒に、練習するんだよね!ライアンさんと、アリーナさん!一緒にすると、名前、続いてるみたいだよね!」
「それで、大丈夫なのか?」
「それは……しかし……!一介の戦士である私の名の後に、恐れ多くも王子殿下の御名を、続ける等とは……!」
「問題無い。仲間になったんだ。まとめて名を呼ぶ機会など、いくらもあるだろう。それで覚えられると言うのなら、遠慮する必要など無い」
「……アリーナ殿……!……(かたじけ)ない」
「よし、覚えたな」

 少女を囲む仲間たちは、それぞれ呟く。

「なんで、ちょっといい話みてえになってんだ」
「いい話なんだよ、きっと」
「ライアンさんと、アリーナ様が……一緒に……ですか……。……はっ!わ、私はもう、アリーナ様の鍛練を、正視できないのでは……!?」
「クリフト。大丈夫?」
「……はっ!いえ、そうですね、ユウさんが、居られるのですから!大丈夫でした!」
「そう。よかった」

 トルネコが、仕切る。

「それなら、クリフトさん以外は、覚えられましたのね?あとひとりなら、すぐですわね!できるだけ、近くにいていただければ!」

 三度、動揺するクリフト。

「ええっ!?わ、私は、神官で、十分ですから!!」
「いや。ひとりだけ覚えないのでは、失礼に当たりましょう。不愉快かも知れませんが、側に置いて頂きたい」
「ええっ!?不愉快などと、そんな!でも、側に……!?」
「クリフトさん。慣れよ。そのうち、慣れるわ。」
「トルネコさん……!そんな、殺生な……!」

 諭すトルネコに涙目になるクリフトを、少女が励ます。

「クリフト。わたしも、一緒にいるから」
「ユウさん……。……わかりました、努力します」

 兄弟が、呟く。

「嬢ちゃんは、絶対にわかってねえな」
「なのに、核心を突くね」

 また、トルネコが仕切る。

「それじゃあ、自己紹介は、この辺でいいとして。お話を、進めましょう!キングレオのお城で、情報があったんでしたかしら?」

 話を振られ、ミネアが癒しの世界から現実に戻る。

「そうですね。私たちの(かたき)のバルザックの、行方のことですが。その行き先が、かなり問題で。みなさん、落ち着いて、聞いてくださいね」 
 

 
後書き
 名乗りから始まる、新たな絆。
 迷える若者を、導く光。

 次回、『5-35勇者と王子』。
 9/21(土)午前5:00更新。 
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