フィガロの結婚
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5部分:第一幕その五
第一幕その五
「それでだ」
「それで?」
「そなたもな」
これに好色なものがさらに宿った。
「どうじゃ。それで」
「私は間も無くフィガロの妻となりますが」
「だからじゃ」
それを理由とするのだった。
「私はそなたにのう。色々と目をかけておるしじゃ」
「さて、伯爵様はどちらに?」
ここでまた部屋の外から声がかかってきた。
「どちらにおられますかな」
「むっ?バジーリオの声か」
伯爵はその声に顔を向けて言った。
「でこれはまずいか」
「どうされますか?」
「ここに隠れるとしよう」
椅子を見ていうのだった。
「そこにはそこはいけません」
「何故じゃ?」
椅子に隠れようとすると止めてきたスザンナに首を傾げる。
「ここに隠れても別にいいじゃろう」
「いえ、それが駄目なのです」
伯爵にはわからない話であった。
「それは」
「何故じゃ、話がわからんぞ」
わからなくて当然であった。
「何もないじゃろうに」
「あっ」
早速その椅子の裏に大きな身体を隠す伯爵だった。スザンナはとりあえずそこにまたその上着をかける。とりあえずケルビーノまで隠れているように配慮はした。何とか隠し終えるとそこにそのバジーリオが入って来た。もじゃもじゃの白髪の顔の細長い男で青い上着とズボンにはちゃんと刺繍と袖や襟のフリルがある。やはり彼も貴族であった。
「バジーリオさん」
「おお、スザンナ」
とりあえず挨拶をする二人だった。
「ごきげんよう」
「はい、こんにちは」
「ところでじゃ」
バジーリオは顔を上げるとまたスザンナに対して言ってきた。
「伯爵様はどちらに?」
「さて」
その問いに首を傾げて隠す。
「私にもわかりません」
「そうか。フィガロが探しておるのじゃがな」
「フィガロが?」
スザンナはフィガロと聞いて声をあげた。
「またどうしてかしら」
「わしは今まで道義的に人妻を愛する男がその夫を憎むということを聞いたことがない」
「それはどういう意味ですか?」
「伯爵様は御主を気に入っている」
スザンナの目の色を見ながら述べてきた。
「わかるな。これで」
「さて。何のことでしょうか」
内心頭にきたがそれでもそれは隠して彼に返すスザンナだった。
「それは。どころで御用がないのなら」
「ああ、いやいや」
追い出されようとするところで立ち止まるバジーリオだった。彼もしつこい。
「そうではなくてのう」
「間段愛かあるのですか?」
「わしは思うのじゃよ」
また言い出すバジーリオだった。
「恋をする相手を選ぶようにな」
「恋する相手を?」
「うむ。皆がするように気楽な抜け目ない相手の方がよい」
スザンナに囁くように告げた。彼の目こそ抜け目がない。
「若僧やお小姓よりもの」
「小姓というとケルビーノかしら」
「あの小僧にも困ったものじゃ」
バジーリオはここで腕を組んで困った顔をしてみせる。
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