ドラクエⅤ主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?
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一部:超絶美少女幼年期
四十五話:いつか泣きたくなるとき
話し始めたついでに諸々の説明も済ませようかと思ったんだが、ヘンリーの
「寝ろ。」
の一言と、周囲からの心配そうな視線の圧力に逆らえず。
まあ冷静に考えたら寝るべきではあるよね、今さら焦って話を進める必要も無いしね。
ということで、横になって寝る体勢に入ったのはいいんですが。
……眠れない。
全く、眠れる気がしない!
なんだろう、何かを考えようというつもりも無いのに、頭の中をいろんな思考とか記憶がぐるぐるしてる。
そのうち、視覚化されそうな勢いで!
困り果てながらも、眠れなくても横になってるだけでもそれなりに疲れは取れるだろうし、まあいいか。
と思い直し、横になったまま、ぐるぐるする脳内をぼんやり観察し続ける私。
「……眠れないのか?」
と、ヘンリーに声をかけられました。
「……ヘンリーも?」
気配で、起きてるのは気付いてたけど。
「まあな」
ウソつけ。
超眠そうじゃん。
寝られるなら、寝なよ。
「そう」
完全に、私が原因ですからね。
心配して起きてくれてるのか、気が散って寝られないのか知らないけど。
「……眠れないなら、添い寝でもしてやろうか?」
……うーん。
子供の体温の高さを考えると、魅力的な申し出ではあるんだけど。暖かくなると、眠くなるし。
でも、そういうラブイベント的なのは、ちょっとなあ。
こういうのの積み重ねが、地味に好感度上げていったりするし。
……ていうか、するので無くされる側なら、上がるのは常識的に考えて私からヘンリーに対する好感度では無かろうか、何?私ヘンリーに攻略されてるの?初日にして?そんな雰囲気は微塵も感じないわけですけれども、いやいやもしかしてもしかすると
なんてまた脳内をぐるぐるする内容が追加されてしまって観察に気を取られていると、返事も待たずに添い寝の体勢に入られました。
あー、やっぱ子供は体温、高いわー。
私もだけど。
「……まだ返事してませんけど」
「いいからもう考えるな。押し売りだから」
そうか、押し売りか。
なら仕方ないね。
うん、全く色っぽい雰囲気は感じないね。
ロリコンでもショタコンでも無いから、当たり前だけど。
と、ぐるぐるする内容が一個減って、体も暖かくなってきて。
眠いと認識する前に、いつの間にか、落ちてました。
自分が寝てたことに気が付いたのは、目が覚めてからで。
周りも静かなので、たぶんまだ夜中なんでしょう。
少し寝たせいか、随分頭がすっきりしてて、ぐるぐるはしてなくて。
ここどこだっけ、なにしてたんだっけ、と能動的に頭を動かしてみると、一気に記憶が蘇ってきて。
ああ、そうだ。
お父さんが、死んじゃったんだ。
もう、いないんだ。
気が付いたら、止まってた感情も、急に動き出して。
でも、夜中なんだから、みんな寝てるんだから。
静かに泣くなんて無理そうだし、大声で泣いたら迷惑になるし。
今は、我慢しなくちゃ。
せめて、朝になって、みんな起きるまで。
と思って、口に手を当てて堪えます。
大丈夫、ちょっと我慢すれば、治まるか寝落ちするか、できるから。
と、できるだけ何も考えないようにして時間が経つのを待ってたら、またしてもヤツが。
「我慢するなよ。泣け」
とか、頭を抱き寄せながら言いやがりまして。
いつ起きたんだよ、さっきは間違いなく寝てただろ、大泣きして怒られたらどうしてくれる。
「怒鳴られたら、代わりに謝ってやるから」
思考を読むな。
代わりに謝られたって、顰蹙を買うのは私なわけで。
文句の一つも言ってやりたかったけど。
「……ひっ……ひっ、……くっ……」
漏れてくるのは、文句では無くて。
やめろ。頭ぽんぽんとか、するな。
「……うっ……ひぐっ……」
一回こうなったら、もう無理なわけで。
もういいや、精々頑張って謝ってよ、どうせ大泣きする私には聞こえないから。
「ひっ、ひぐっ、うっ、うえーん……!お、おとう、さん……!うっ、ひっ、えーん……おとうさん、おとうさん……!」
散々迷惑かけた上で、あとで散々文句も言ってやろう。
とか理不尽なことを考えながら、『私』とヘンリーの思うツボに。
規則正しくぽんぽんされながら、他人の迷惑も省みず。
深夜に大泣きしてしまったのでした。
「ヘンリーはずるい」
「いきなり何だよ」
「あんなんされたら普通に泣く」
「泣かせようとしてたからな」
「ずるい。ひどい」
「意味がわからん」
「謝って。私に、謝って!」
「あー、はいはい。悪かった、悪かった」
「誠意が感じられない!」
「ねえもん、そんなの」
翌朝。
予定通りに理不尽にヘンリーを責め立てる私と、めんどくさそうに受け流すヘンリー、なんか温かく見守ってくれてる感じの周りの方々。
なんだよ、いい人だなあ、みんな。
「という冗談はともかく。ありがとうございました」
「おう」
お蔭様で、顔も動くようになりました!
このまま、無表情キャラを開発するしか無いかと思ってました!
「みなさんも、ありがとうございました。うるさくして、済みませんでした」
周りのみなさんにも、お礼と謝罪。
見た感じ誰も怒って無いし、怒られもしなかったみたいですけど。
折角動くようになったところなので、散々笑顔も振りまいて!
「元気になって、よかったよ。お人形さんみたいに可愛い子だと思ったけど、昨日はほんとに、表情もお人形さんみたいだったからね。笑顔のほうが、よっぽど可愛いね!」
「ありがとうございます!」
可愛いとか散々言われ慣れてるけど、褒められればやっぱり嬉しいものだね!
昨日はもう笑えないかもなんて、ちょっと思っただけに!
にこにこ笑顔を返してくれるみなさんを見渡して、色々と気になることが。
「……みなさん。大人の人ばっかりですね?」
なんか、子供が優先して拐われて来てるイメージだったんだけど。
この段階では、そうでも無いんだろうか。
労働力としては、即戦力にはならないし。
勇者世代は、まだ生まれてないわけだから。
「そうだねえ。大人か年寄りばっかりで、子供はドーラちゃんたちが初めてだよ。ほんとになんで、こんな子供をねえ。働かせるなら、大人のほうがいいだろうに」
「なんででしょうねえ。……お仕事は、まだなんですか?」
朝も暗いうちから叩き起こされて、夜遅くまで働かせられた上に、食事も睡眠も最低限しか与えられなくて、痩せ細って憔悴してるイメージだったんだけど。
最初に見たじいさん以外は、みんな、わりと普通の体格。
みんな起き出してるのに、食事が無いのはともかく仕事も無い。
「あたしたちも、連れられてきてそんなに経って無いんだよ。近々なにかの工事を始めるらしくて、それで集められたみたいなんだけどね」
ああ、地獄はこれからですか。
猶予期間があっただけ、想定よりかなりマシだね!
「お仕事が、無いなら。お食事も、無いんですね?」
働かざる者、食うべからずの精神で!
なにしろ、奴隷だし!
「ああ、食事なら。そろそろだね」
と、おばちゃんが言い終わったいいタイミングで、昨日私たちが放り込まれた扉が開き、袋が投げ込まれます。
「勝手に食え」
人間ぽいヤツ(魔物)が、一言。
そしてまたすぐ閉まる、扉。
「ああ、丁度来たね」
あの無造作に投げ込まれたずだ袋の中身が、食糧ですか!
堅パンとか生の芋とか、そんな侘しい感じですね、きっと!
ここのみんなの様子ではそんなこと無いだろうが、下手すると奪い合いの発生しかねない、質も量も満たされない、炭水化物のみで構成される感じの!
「ドーラちゃんは、料理はできるのかい?」
前世ではやってたし、今回もサンチョのお手伝いくらいはしてたけど。
電気もガスも無い環境で、六歳のちびっこでも、ひとりでできるもん!と言い張る自信は無い。
「お手伝いくらいなら」
「まだ子供なんだし、十分だよ。ヘンリーくんは?」
今回は純粋培養の王子様だから、まあ無いだろうとして。
前世含めて、なんて答えるのか。
「……出来ません」
……間があった!
よし、ここだ!
復讐するは、我にあり!
「ヘンリーはいい家の、お坊っちゃまですから!お料理なんて、したこと無いですね!」
「……!」
にっこり笑って言う私に、バッと視線を向けるヘンリー。
……ふっ。
感謝はするが、意志に反して泣かされたことに関して、何も思うところが無いわけでは無い。
即答しなかったということは、それ即ち気にしているということ!
即ち、攻めどころ!!
いーじゃん、いーじゃん、これくらい。
どうせ、すぐバレるんだしー?
一緒に生活する中で、その生活力の無さは!
早目に白状して、教えを請うたほうがいいって!
仕方ないよ、お坊っちゃま!なんだから、さ!
完全なる協力期間は終わり、戦いはもう始まっているんですよ!
例え、攻略対象が不在だとしても!!
……まあ、ガチで蹴落とそうとか、そんな状況でも無いが。
仲良く喧嘩する程度で。
「なんだ、そうなのかい。なら、仕方ないね。でも、全くできないままでも困るからね。追々、できるようになってもらわないと」
「……はい。勿論です」
あ、やる気はあるんですね。
まさかの、前世もお坊っちゃま?
一般人なら、男だってやろうとして機会が皆無ということもあるまい。
今回無いだけなら、そこまで気にしないだろうし。
ていうか。
「ここで、お料理が、できるんですか?」
「そうなんだよ。持ち回りにしてるけど、あんたたちは子供だからね。お手伝いに入ってもらうくらいで、当面はいいね」
……あれ?
思ってた奴隷と、違う……?
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