フィガロの結婚
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32部分:第三幕その九
第三幕その九
「それもね」
「では封はどのようにして」
「これを使いましょう」
すぐに側にあった空の瓶をスザンナに差し出してきた。
「この瓶をね」
「それをですか」
「ええ。どうかしら」
瓶を差し出したうえでにこりと笑ってスザンナに問う。
「それで手紙の裏にね」
「何か書いておくのですね」
「そうよ。封印をお返し下さいと」
少し笑ってスザンナに告げた。
「瓶だったらその字が見えるわよね」
「はい」
「だからよ」
だからだというのだった。
「瓶を使うのは。どうかしら」
「宜しいですわ」
スザンナはにこりと笑って夫人の案に賛成の意を示した。
「辞令の印より面白いですね」
「そうでしょ?だからよ」
「はい。それではそのように」
「御願いね。さて」
スザンナが手紙を瓶に入れてそのうえで封をしたのを見守った。これで準備は整ったのだった。
「後は夜になるのを待つだけね」
「そうですね。では夜を楽しみに待つと致しましょう」
こう言い合ってから部屋を後にしようとする。スザンナが手紙を懐に入れたその時にふと扉をノックする音が聞こえてきたのだった。
「どなた?」
「私です」
バルバリーナの声だった。
「奥方様、宜しいですか?」
「ええ、よくてよ」
夫人は穏やかな声で扉の向こうの彼女に応えた。
「どうぞ」
「わかりました。それでは」
バルバリーナは夫人の言葉を受けてから部屋に入って来た。だが部屋に入って来たのは彼女だけではなかた。多くの可愛らしい服に身を包んだ村娘達が入って来たのだった。
そしてバルバリーナが代表して一礼する。そうして村娘達が言ってきた。
「お受け下さい奥方様」
「このお花を」
こう言って夫人に花を差し出してきたのだった。
「是非貴女様にと思いまして」
「持って参りました」
「この花を私になのね」
「はい」
皆にこりと笑って夫人に答える。
「その通りです」
「今朝摘み取ってきました」
「有り難う」
夫人はその花を受け取ってから気品のある笑みで返す。彼女の手には花が溢れんばかりとなった。
彼女がそれを受け取ったのを確かめてから。バルバリーナがまた言ってきた。
「如何でしょうか。この贈り物は」
「この上ない贈り物よ」
これは彼女の心からの言葉だった。
「どうも有り難う」
「はい、どうもです」
「ところで」
ここでスザンナがふと言ってきた。
「この娘は?」
村娘の中の一人に気付いたのだった。スザンナは気付いてはいなかったがそれはケルビーノだった。村娘達の中に紛れ込んでいるのだ。
「遠慮がちなこの娘は」
ケルビーノはスザンナの声を受けて娘達の中に隠れた。だがここでバルバリーナが出て来てさりげなく彼をフォローするのだった。
「私の従妹です」
「従妹なの」
「はい、そうです」
こういうことにするのだった。
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