misfortune
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第一部
Slum
嗚呼、今日もだ。今日もまた罪のない人たちの命が消えて往く––––
「泥棒だぁ!」
背中にそんな言葉を受けながら私は走る。例えそいつが刃物を持って、本気で私を殺す気でもそんなの関係ない。今は生きる事だけを考えなくちゃ。
「はぁっ……っ…はっ…」
腕の中はひとつのパンがある。これを『皆』の所に持っていかなければ…きっと、皆お腹を空かせてるはずだ。
「はぁ……はぁ…」
私は横目で誰も追って来ていない事を確認すると直ぐ其処の角を曲がった。其処には、待ち構えていたかのように、数人の子供が立っていた。
「っ…はぁ……」
私はひとつ、深呼吸をするように息を吐き、呼吸を整えた後、持っていたパンを皆の前に出した。
「ご飯に、しよっか」
そう言って、にっこりと微笑むと安心したのか、皆の顔がぱあっと明るくなる。
そう、このパンはさっき私が『盗んだ』物だ。スラムに住む私たちにはお金もなければ血の繋がる家族も居ない。働き先もない。だからこうして食べ物を盗んで腹の足しにしているのだ。だから街に住む人は私たちの事を『ドブネズミ』と呼ぶ。
ーこれは、生きる為には仕方のない事。
私はまた自分に言い聞かせるように静かに呟くのだった。
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