フィガロの結婚
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27部分:第三幕その四
第三幕その四
「私のこの服とスザンナの服を取り替えてそのうえで私と一緒に夜の闇を幸いにして。こんなことをしてまであの人を懲らしめないといけないのね」
そのことが後ろめたくて仕方ないのであった。彼女にとっては。
「あれだけ愛してくれたのに、今ではスザンナの助けを得てやっとここにいる始末。あの甘く幸せに恋に生きた楽しかった日々は何処に」
こう語るのだった。椅子にもたれかかり物思いに沈んだ愁いのある顔で。
「あの唇に交あわされた誓いは。私にとっては涙と苦しみの中で全てが変わってしまった。幸せの思い出は私の胸から去って。それでも」
己の心をも見るのだった。今の彼女は。
「あの人への想いはそのままなのに。あの人はもう私を愛してはいないのかしら」
こんなことばかり考えていた。だがやがて席を立ちそのうえで何処かへと去って行った。その背に深い愁いを背負い。そのうえで姿を消したのだった。
屋敷の大広間では伯爵がマルチェリーナにバルトロ、それと自分の部下である白髪の太った男を連れていた。その前にはフィガロが置かれていた。
「ではドン=クルツィオよ」
「はい」
伯爵はまずその白髪の男の名を呼んだ。
「判決を言うのだ」
「わかりました。それでは」
「くっ・・・・・・」
「訴訟は決定された」
クルツィオは伯爵の言葉に頷いてから歯噛みするフィガロに対して述べるのだった。
「金を払うかそれとも早く結婚するように。そういうことだ」
「悪夢だ」
「やっとね」
フィガロは嘆息しマルチェリーナはにこにことしていた。
「わしの人生は終わった」
「これで私の第二の幸せな人生がはじまるのね」
「伯爵様」
フィガロは一礼してから伯爵に対して述べた。
「控訴します」
「判決は正しい」
だが伯爵は彼の言葉を退ける。当然ながら。
「クルツィオの言う通りだ。金を払うか結婚するか」
「見事な判決だ」
「何が見事なものか」
バルトロに対してもくってかかるフィガロだった。まだ彼は心で負けてはいなかった。
「この判決の何処がだ」
「さて、これで復讐が成った」
バルトロもバルトロで内心ほくそ笑んでいた。
「善き哉善き哉」
「私は彼女とは結婚しません」
「それは駄目だ」
伯爵はフィガロの言葉を突っぱねる。
「諦めるのだな」
「金を払うのかそれとも結婚するか」
ここでまたクルツィオが言う。
「彼女があんたに貸したお金を払えればいいんだけれどね。二千ペソ」
「くっ、ここでわしの両親がいてくれれば」
「両親だと!?」
伯爵は今の彼の言葉に目を向けた。
「まだ見つかっていなかったのか」
「十年ばかりになりますが」
こう伯爵に対して述べるフィガロだった。
「それはまだです。ここで両親がいてくれれば助けになったのに」
「そういえばそなたは理髪師の親父に拾われたのだったな」
「いや、盗まれたのだ」
バルトロに少しムキになって言葉を返した。
「わしはな。かつて。それで理髪師の親父さんに助けられてだ」
「盗まれただと!?」
「本当に!?」
何故かその盗まれたという言葉に変に反応するバルトロとマルチェリーナだった。
「その証拠は?」
「あるの?」
「その盗人共がまだ赤ん坊のわしを何処かに売ろうとしたが理髪師の親父に阻まれてそのわしを置いて逃げ去った」
このことを話すのだった。
「その時わしには金と宝石を添えて縫い取りさせてあった服を着けさせていた」
「金と宝石!?」
「まさか」
フィガロの今の言葉を聞いてさらに驚くバルトロとマルチェリーナだった。だが周りは二人がどうしてそんなに驚いているのかわからない。
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