ドラクエⅤ主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?
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一部:超絶美少女幼年期
四十二話:最後の時に繋ぐ戦い
前書き
シリアス注意報、発令中。
嫌いな方は、ご注意ください。
水路を離れ、通路を抜けて、遺跡の入り口に近付き。
「!!」
かつて無い悪寒を感じて、思わず立ち止まります。
「ほっほっほっ。ここから逃げ出そうとは、いけない子供たちですね?」
……出たな、外道オカマ!
でもこれは、思った以上に……!
紫紺のローブに身を包み、真っ青な魔族の肌に真っ赤な紅を引いた毒々しい容姿を持ち、遺跡の入り口に立ちはだかっていたそいつは、カツンカツンとヒールの音を響かせて、悠然と歩み寄ってきます。
……思った以上に、これは気持ち悪い!
容姿も、気配も!
気配に当てられただけで、もう意識が飛びそうです。
ヘンリーが、視線を向けなくてもわかるほど震えています。
奴から意識を外すことへの恐怖で自分に意識を向ける余裕が無いけれど、私だってきっと、震えてる。
そんな私たちを楽しげに眺め、ゲマがまた口を開きます。
「そんないけない子には、この私が、お仕置きをしてあげましょう。さあ、いらっしゃい」
いたずらっぽく、まるで親しい子供でも窘めるかのような言い方をしながら、ゆっくりと手を持ち上げる、ゲマ。
「……ヘンリー!!下がって!!」
これは、ほんとに。
死ぬかも、しれない。
最悪、私もモモも、身を守ってさえいれば、時間は稼げるかと思ってたけど。
攻めて、撹乱して、相手の手数を減らさないと、本当に!
誰かが、死ぬ!
瞬時に考えをまとめ、武器を構えて飛びかかる私、続くモモ。
ゲマはさらに楽しそうに顔を綻ばせ、焦ることも無く持ち上げた手の指先から、火球を飛ばします。
「くっ!」
「キャンッ」
「ひっ」
辛くも躱す私、脇腹を焦がされるモモ。足元に火球が着弾し、小さく悲鳴を上げるヘンリー。
モモの様子を視界に入れながらもそのまま攻撃を仕掛ける私、飛び出した勢いは殺されながらも、怯まず爪を振るうモモ。
「ほっほっほっ、元気ですねえ。」
本当に楽しそうに笑いながら軽く腕を振るい、私とモモの攻撃を、ホコリでも払うように一度に振り払うゲマ。
吹き飛ばされて転んだ私を庇うように、石畳の床に爪を立てて踏ん張り、再度飛びかかって行くモモ。
「モモ!ダメ!戻って!」
痛みを堪えて立ち上がりながら、叫ぶ私。
制止に応じないモモの背中を見詰めて絶望に染まる私の表情を眺めるゲマの顔が喜悦に歪み、またゆっくりと手を持ち上げます。
ダメだ、やめて、モモが死んじゃう!!
「モモ!!」
「メラ!!」
私が叫んだのと小さな火球が飛んだのと、どちらが早かったか。
小さな火球に手元を狂わされ、ゲマの指先から放たれた火球が上方に飛んで、天井を焦がして消滅します。
気分を損ねたように眉を顰め、ヘンリーに視線を向ける、ゲマ。
「……少々、おイタが過ぎるようですね?」
「ひっ……!!」
今にも膝から崩れ落ちそうに、ガタガタと震え出すヘンリー。
……怖いくせに、レベル1のくせに!
無茶しやがって!
畜生、これだからイケメンは!!
「悪い子には、お仕置きを、しませんとね?」
ヘンリーに向かい、壮絶な笑みと共に指先を向けるゲマに向かい、走り寄りながら叫びます。
「お前の相手は、私だあああ!!」
叫びながら攻撃するなんて、創作の世界の、脳筋がするものだと思ってたけど。
そうしなきゃいけないときも、あるんだ、なんて考えながら。
ゲマの顔に、狂喜が浮かびます。
「いいですねえ、いいですねえ!美しい、友情!いいもの、ですねえ!」
なんで私が攻撃するときは嬉しそうなんだよこの変態、と内心毒づきながら、当てることより当たらないことを考えて、チェーンクロスを振るう私。
私の動きを見て意図を読み取り、同じく撹乱を始めるモモ。
「ほっほっほっ!賢い、子供たちですねえ!楽しい、ですねえ!」
じゃれあうように、踊るように、回避を続ける、ゲマ。
こっちはちっとも楽しくなんか無いけど、このまま遊んでいてくれるなら、いけるかも……!
そんな少しの、ほんの少しの安堵が。
顔に、出てしまったのか。
ゲマが、また楽しそうに。
無邪気に相手を虐げる子供のように楽しそうな笑顔を、浮かべて。
「……でも、ずっと、このままでは。……楽しく、ありませんね?」
「……!!モモ!!下がれ!!」
言いながら距離を取って盾を構える私、今度は逆らわず従ってくれるモモ。
慌てて態勢を整える私たちの様子すら楽しむように、大きく息を吸い込み、たっぷりと間を取って。
口を大きく開き、息を燃え盛る火炎に変えて、吐き出すゲマ。
盾で防いでも防ぎ切れない炎と熱に、顔を歪める私。
背後に庇うヘンリーのことも、盾なんか無い手負いのモモのことも、気になるけど声が出せない、目も開けられない!
どうか、どうかふたりとも、死なないで!
やっと火炎が止まり、なんとか目を抉じ開けて周りを見れば、モモもヘンリーも、倒れていて。
ふたりとも回復したいけど、パパンの気配はまだ近くに無い、私だけでも踏ん張るしかない。
自分にベホイミをかけ、ふたりともを庇うという最初から不可能なことよりも、まとめて火炎で息の根を止められる、最悪の可能性を避けるために。
ゲマから見て、ふたりが倒れているのとは別の方向から攻撃を仕掛けます。
ゲマが、笑います。
「本当に、頑張りますねえ!いいですよ、いいですよ!それでこそ、遊び甲斐もあるというものです!」
回復し切れない火傷と痛みの残る身体を、気力で動かし続ける私。
早く、早く。
助けて、お父さん……!!
そんな心の叫びを嘲笑うように、私の動きを読んで放たれた火球に、身体を包まれて。
「ドーラ!!」
ああ、お父さんが、来てくれた。
激痛と安堵の中で、私も、意識を失った。
気が付いたら、冷たい床に倒れていて。
パパンが、ゲマのお供の魔物、ジャミとゴンズを吹き飛ばしていた。
今のうちにモモの怪我だけでもと、ずりずりと這いずってモモに近付き、掠れた声でベホイミを唱え、意識を取り戻さないよう敢えて体力は回復せずに、怪我だけを治療する。
ああ、これで、大丈夫。
これで、きっと。モモは、死なない。
血とホコリと煤で汚れ、意識は失ったままでも、怪我だけはキレイに治り、規則正しく呼吸するモモを眺めて、安堵する。
と、後ろから首を掴まれて、宙に持ち上げられる。
「う……」
痛みに呻き声を発する喉に、刃物が押し当てられる。
ぼんやりしていた感覚が、はっきりする。
ぼろぼろに擦り切れ、辛うじて引っ掛かっていたケープが、肩から滑り落ちるのがわかる。
「ドーラ!!」
世界に、音が戻ってくる。
決して聞き逃したくない、出来れば永遠に聞きたくない。
最後の時を奏でる、音が。
後書き
負け戦闘をセリフ付きでちゃんと書くと鬱になるので別作品ではやめておきましたが、こっちではまともにやってみたら、この有り様です。
次回もシリアス注意です。
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