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八条学園怪異譚

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第三十七話 テケテケその十五

「鉄道模型って動いてこそなのね」
「それが醍醐味なのね」
「マニアって凄いわよ」
 鉄っちゃんである、所謂。
「このディオラマよりもと凝るから」
「これ以上になの」
「凄く凝るのね」
「トンネルだって」
 青い電車が山のところのトンネルを通り抜けていた。
「本格的でしょ」
「ええ、精巧ね」
「作るのかなり苦労したんじゃ」
「これが出来た時の館長さんがマニア中のマニアだったのよ」
 館長自らそうだったというのだ。
「それで有志を募って自分も積極的に参加してね」
「そうして造ったのがこれなの」
「このディオラマなのね」
「そうよ、まさに職人というかマニアの作品よ」 
 職人とマニアの違いは何か、その違いはおそらくそれで収入を得ているか得ないかであろう。腕は違わない場合も多い。
「これはね」
「ううん、草木もビルも再現されてるし」
「本当によく出来てるわね」
「駅も精巧だし」
「ちゃんと信号まであって」
 無論踏切もある、とにかく何処までも精巧だった。
 しかも夜になるとだ、ビルが。
「うわっ、灯りがついたし」
「電車にも」
「ここまで凝ってるのよ」
 テケテケは酒を飲みつつ二人に語る。
「本当に凄いでしょ」
「ええ、もう徹底してるわね」
「ここまで出来てるなんて」
「その時の館長さんが作ってね」
 そこからはじまってだというのだ。
「代々何かあれば修理改善していって」
「それでなのね」
「ここまでなったのね」
「そうよ、凄いでしょ」
 つまり進化しているというのだ、今も。
 そうした話をしつつ飲んでいく、無論つまみも食べる。
 口裂け女は上機嫌でするめを噛みつつ二人に言った。
「じゃあ次はお稲荷さんのところだね」
「そうね、その小学校の」
「そこに行って来るわ」
「裏だよ、そこが裏道みたいになってるからね」
 そこに入れというのだ。
「まあ俗に狐道って言われてるけれどね」
「狐だからなのね」
「それで狐道なのね」
「そうだよ、この学校実際に狐もいるしね」 
 狸もだ、学園の中にいて楽しく暮らしている。彼等を轢かない為に学園内では車は徐行運転が義務付けられている。
「そう呼ばれてるんだよ」
「そう、じゃあ今度はそこ行って来るわ」
「お稲荷さんのところにね」
「お稲荷さんだからお供え持って行くといいわよ」
 花子さんは梅を食べながら二人にこうアドバイスをした。
「油揚げね」
「狐って絶対にそれよね」
「油揚げよね」
「切っても切れないのよ、日本の狐はね」
 話は少し限定された、日本の狐はというのだ。
「中国とか他の狐はまた違うのよ」
「油揚げないから?」
「だからなの」
「そう、あれは日本の料理だからね」
 中国にもないというのだ、そしてアメリカや欧州にも。
「日本の狐だけよ」
「そうだったのね、狐って絶対に揚げが好きだって思ってたけれど」
「違うのね」
「そう、違うの」
 そこに注意だというのだ。
「まあここにいるのは留学してきている狐もいるけれどね」
「日本の狐だからなのね」
「揚げでいいのね」
「そう、じゃあそういうことでね」
 花子さんもコップの酒を一杯飲んでから言った。
「そっちも行ってね」
「次はね」
「そうさせてもらうわね」
 二人も飲み食いしつつ応えた、そしてだった。
 今はその鉄道模型が動くのを見ていた、巨大なディオラマの中で動く小さな電車達はそこに既にロマンがあった。


第三十七話   完


                           2013・5・25 
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