魔法少女リリカルなのは~その者の行く末は…………~
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Chapter-2 Second Story~sorrowful and graceful……that occurrence~
number-20 I hope to ……
前書き
私は……を望む。
この場合は、闇の書の意思――――リインフォース。三桜燐夜。
ようやく、はやてを闇の書から切り離すことが出来た。そのことにひと喜び。
だが、その喜びをぬか喜びにするわけにはいかない。まだ問題はある。
目の前に醜悪な姿と成り果ててもまだ、この町を、この星を破壊しようとする防衛管理プログラム体――――通称ナハトヴァール。
はやてはもうこの悲劇を繰り返さないために、自分が最後の夜天の書の主になることを決めて、後から現場にやってきたクロノの提案を聞いていた。
話を聞いた結果、どれもよいものではなかった。
一つ目の、クロノの新デバイス『デュランダル』で凍結処理するのは、またこの悲劇を繰り返してしまうから却下。
二つ目の、地球の軌道上待機している次元航空船『アースラ』に搭載されている極大魔力集束砲『アルカンシェル』による消滅も、その着弾効果範囲内に海鳴市が丸々入ってしまうため、却下。
これで案が無くなってしまう。
クロノが考えていた案はこれだけだったのだ。
そんな八方塞な事態を打破したのは、意外にもアルフの一言だった。いや、正確には、アルフの言葉になのはとフェイトが付け足した案だった。
アルカンシェルの宇宙空間での発射。
理論上アルカンシェルは何処でも撃てる。まだ理論上というものがついてしまうのは、いくつかの次元航空船に搭載されたものはいいものの、まだ一発も撃ったことがないからだ。
もしかしたら失敗するのではないのか……そんなことが燐夜の中によぎるが、周りの人を見てみると、不思議に誰もそんなことは全く思っていないようだった。
何処からそんな信頼が来るのだろうか。
燐夜は母親を異質な科学者に実験隊とされて、自分の手で殺めた時から人を信用することはあっても、信頼することはなかった。
けれども、自然とこの人たちなら信頼できると思っている自分がいた。何年もの間忘れていたこの感情。抑えることはできなかった。
そう思いながら、あいつらが作戦会議している間、ザフィーラと一緒にナハトヴァールを抑えていた。
「もう大丈夫だよ!」
「よし、ザフィーラ!」
なのはの言葉を聞いて、燐夜はザフィーラに名前を呼ぶことで合図を送った。
2人が下がる代わりにユーノとアルフが束縛魔法でナハトヴァールを抑えにかかる。
ようやく後ろに下がれた燐夜は、もう体力が残っていなかった。魔力は有り余っているのだが、それを動かすための体力がもう残っていなかった。
――――不意に燐夜の体が光に包まれる。
「全く情けないですね、マスター」
「……うるせぇ、ほっとけ」
ユニゾンが解かれて、燐夜と分かれたユニゾンデバイスであるエクレイアがいきなり燐夜に毒づく。それに反論する元気がなく、ただ自分を放っておいてくれという意味の言葉しか出せなかった。
すると何を思ったのか、エクレイアがいきなり大人モードになって燐夜を膝枕し始めた。勿論、浮遊魔法で宙に浮いた状態で、だ。
燐夜は身を委ねることこそしたが、眼だけは閉じることなく、なのはたちを真っ直ぐに見ていた。
最後までなのはたちの勇姿を見届けるために。
なのはたちを見ると、シャマルが中心となっていた。
まず最初に、アルフとユーノの束縛魔法による拘束。動けない隙を見計らって、なのはがヴィータをサポートする形で接近。なのはの射撃魔法で周りを一掃し、ヴィータにスペースを与える。そのスペースでヴィータが自身が持つ一番の威力の攻撃『ギガントシュラーク』を放ち、複数からなるバリアを一枚破った。
次にシグナムとフェイトだ。
前のヴィータの攻撃で若干海に沈んでいたナハトヴァールはすぐに体勢を立て直した。だが、攻撃の隙をほとんど与えずにシグナムが剣と鞘を繋げ、弓矢の状態にして放つ『シュツルムファルケン』を、フェイトも何処からその魔力が出てくるのだろうかと疑問に思うほど魔力を使っているが、そこは今は置いて、雷刃を振り下ろす『ジェットザンパー』を放ってバリアを全部砕いた。
しかし、ナハトヴァールもしぶとくて、今度は宙に浮いて四方八方と複合バリアで覆った。だが、それは近くにいたザフィーラが全力で何度もたたき続けて殴り砕いた。――――すべてのバリアを。
まだなのはたちの攻撃は終わらない。次ははやてだ。
リインフォースとユニゾンしているはやては、二人で夜天の魔導書に記載されていた古代魔法『石化の槍ミストルティン』を放ち、ナハトヴァールを石に変えて宙から海面に落とした。
それでもナハトヴァールは止まらない。すぐに石化を解いてまた暴れ出そうとするが、それをクロノが万物を凍らせる『エターナルコフィン』を行使。ナハトヴァールを凍らせた。
これで終わりだと燐夜は思ったが、あいつらはそうでもないらしい。
「なのは! フェイト! はやて!」
そう叫ぶクロノの声を合図にして、三人はこれが最後になると信じて自分の魔法の中の一番の魔法を行使。
《Star Light Breaker》
「全力全開!! スターライトォォ……」
なのはの足元に空間に散らばった魔力が集められて、大きな桃色の塊となっていく。しかもそれがどんどん大きくなっていくのだ。
《Plasma Zanber》
「雷光一閃!! プラズマザンパー!!」
フェイトが振り上げた雷刃に雷が落ちて、それをそのまま帯電。時々雷電を迸らせている。
……はやてはすぐには動かなかった。何を思ったのか、ナハトヴァールに向かって謝罪の言葉を小さな声で述べていた。
「ごめんな。……お休みな」
そして、すぐに悲しそうな表情を消し、引き締める。どうやら別れを告げたかったようだ。
自分のデバイスを掲げる。
「響け、終焉の笛。ラグナロク!!」
「「「ブレイカァァァァァァ――――――――!!!!!」」」
三人の魔法は燐夜から見ればここまでする必要があるのかとさえ疑問に思えるほどのものだったが、シャマルがコアを発見しようとしていて、見つけるには露出させる必要があるのかと自分を納得させた。
目を瞑り、全神経を集中させているシャマルが、すぐに見つけ出して取り出す。そのコアをアルフとユーノが長距離転送魔法を行使。宇宙空間のアースラ軌道上に転送する。
そうなれば、あとは見守るしかない。
――――数秒後、はるか上空で大きく光を放った。
◯
結果から言えば、なのはたちは賭けに勝った。誰しもが失敗を恐れることなく戦い抜いた結果なのかもしれない。燐夜はそれを一瞬たりとも見逃すことはなかった。ずっと、その瞳に焼き付けるかのように見続けた。
それからはやてがいきなり動いたことに体がついて行かず、そのまま意識を失い、アースラに全員で転移した。
すぐさまはやての検査が行われたが、どこにも異常は見当たることはなく、今まで動かなかった足もリハビリで元通りに歩けるようになるそうだ。
だが、闇の書に管理されていた守護騎士はそうはいかなかった。
闇の書に後付けされたナハトヴァールは、いずれまた自分で再生をしてリインフォースをまた飲み込むだろう。
だが、それは一番最悪の事態の場合であって、それはリインフォースが阻止した。まずは、ナハトヴァールの影響を一手に受けるためにシグナムたちを……いや、『ヴォルケンリッター』というプログラム自体を自分の独断で解除した。さらに、もはやプログラム体ではなくなったあの四人は、時間と共に段々と人間になっていくのだろう。
それでもリインフォースは違う。
誰にも相談することなく、自分がナハトヴァールの影響を一手に受けて、主であるはやての前から消えること。もっと具体的に言うのであれば、自分がこの世からの消滅という形で闇の書の一連の事件にけりをつけようとしているのだ。
けど、けれども、それでも不安というものはリインフォースの中にも存在する。だからリインフォースは、ある人に相談することを決めたのだ。そして、それを実行するのは夜明けの前に海鳴市を見渡せる高台にある公園でと決めた。相談する相手にももうすでに伝えてある。
――――そんなことを待ち合わせ場所の公園で思っていると、相談相手が来たようだ。
「悪いな、こんな時間に呼び出してしまって」
「別に気にしてないさ。それで? 話とは? まあ、大方ナハトヴァールのことだろうがな」
「話が分かっているのなら話は早い。私を殺してくれ」
相談相手とは、三桜燐夜のことであった。
こいつであればとリインフォースは思い、自分の胸の内をすべて語った。
ヴォルケンリッターを闇の書から自分の独断で切り離したこと、そして自分は全てを語ることなくこのまま消えようと思っていることを。
その間、燐夜は何も話すことなく、かといって相槌を打つこともなく。黙ったまま話を聞き続けた。
そして、すべてを語り終えたリインフォースは再び、ここで最初にあったときのように問いかける。
「もう一度言う。私を殺してくれ」
「……」
燐夜はもったいぶるように口を若干開いた後、また閉じた。
何かを考えているようだったが、すぐにかぶりを振って自分の瞳をリインフォースの瞳に合わせた。そして、一度は重く閉ざしたその口を再び開いた。
「……断る」
「――――!」
燐夜が拒否の言葉を自分の口で言った瞬間、魔法陣が展開されてリインフォースから一気に力が抜けていく。濃密な負の感情が心の中を荒らす。負の感情が自分の生気を抜き取っていくようで、逆にリインフォースは燐夜に対して憐れみを覚えた。
そう、ここにきてようやく燐夜の真意が分かったのだ。
それは、私――――リインフォースから闇の書の防衛管理プログラム、所謂、ナハトヴァールを切り離そうとしているのだ。そのせいで心の中に負の感情が溢れて、制御できなくなっているのだろう。
「ううっ……」
リインフォースの胸のあたりから黒い塊が出てきて、それが燐夜の目の前で止まった。そしてリインフォースは瞬時に燐夜のなさんとすることをさらに理解して戦慄した。そして、力の抜けた体を動かそうとして、声を出そうとして必死にもがくが、全く思い通りに動いてくれず、ただ、口をパクパクさせるだけに終わった。
「リインフォース。俺にはお前を殺すことなんてできない。はやてを悲しませたくないからな。けれども、お前を救うこと……いや、お前を救ってないか。これからはやてのもとで過ごさせるようにはできる。――――最後だ」
燐夜はここで一旦話を切ると、防寒対策のために来ていたコートの内ポケットの中から一つの封筒を取り出した。
そして、それを倒れ込んで何とか起きようとしているリインフォースの前に置いた。
「これをなのは――――お前らを助けてくれた小さな魔法使いに渡してくれ。これがこんな行為に及んだ俺の願いだ」
「(コクッ)」
何とか首だけを動かすことが出来たリインフォースは、頷くことで了承の意を表した。声が出せないことが何とも悔やまれるが、ナハトヴァールを燐夜が代わりに受け継ぐことも憚れたが、どちらにせよ今の自分には何もすることが出来ない。
そして、黒い塊に手を翳すと、その黒い塊が燐夜の中に吸い込まれていった。
すると、燐夜がいきなり叫び始めた――――なんてことはなく、呻き声を少し上げるとリインフォースからナハトヴァールを切り離すための魔法陣を消して、何層にもなる魔法陣を展開。
それは転移魔法で、燐夜はすぐに姿を消した。闇に纏わり憑かれるのと同時に。
こうして、三桜燐夜という人物はなのはやフェイト、はやて。そして海鳴市から消息を絶ったのだ。
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