久遠の神話
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第四十九話 スペンサーの剣その五
「おそらくですが」
「そうですか」
「はい、お金はかなりかかります」
「それでは」
「剣道は止められますか」
「おそらくしてもただかじる程度です」
それで終わるとスペンサー自身も見ていた。
「それでそこまでお金をかけることは」
「されませんか」
「はい」
こう大石に答える。
「やめておきます」
「わかりました」
「やはり私は私のフェシングをします」
そのトゥーハンドソードを使うというのだ。
「そうしていきます」
「わかりました。それでは」
スペンサーは剣道はしないことになった。しかし彼は日本文化への興味は深く四人にこうも言ったのだった。
「ですが」
「ですがとは」
「茶道はできますか、私も」
「茶道ですか」
「はい、それです」
四人の中から工藤に対して尋ねる。
「それはできますか」
「できます。ですが」
「しかしですか」
「正座、剣道にもありますが」
「日本の座り方ですね」
スペンサーは正座については難しい顔を見せた。
「そうですね」
「はい、そうです」
「正座は」
スペンサーはその顔に明らかに困惑と不安を見せて工藤に話す。
「したことはありますが」
「足が痺れましたか」
「はい、そうなりました」
今度は苦い顔になる。表情は様々に変わるがそれでもそこに出ているものは全く変わってはいなかった。
「非常に辛かったです」
「茶道も正座をしますが」
「しなくてもいいでしょうか」
巨大な身体を小さくさせて工藤に問う。
「それは」
「特にいいですが」
工藤はこうスペンサーに答えた。
「確かに正座をすることが本来の姿ですが」
「それでもですね」
「はい、あまりにも辛いと特にしなくていいのです」
苦しんでは茶道どころではないからだ。ただしこのことに極端にこだわる人間もいる。
「それですと楽しめませんから」
「だからですか」
「剣道ではこうした教師がいました」
工藤は顔を曇らせてある教師の話も紹介した。
「学校の体育館の使用の説明で剣道部も集まっていたのですが」
「剣道も正座をしますね」
「はい、他の部活は普通に座ってそれで説明を聞いていました」
「しかし剣道部はですか」
「正座をさせました」
「それでは足が痺れて話を聞くどころではないでしょう」
スペンサーはそのことをすぐに察した。流石に将校だけはあってこうしたことにまで即座に考えが及んだ。
「礼儀正しいかも知れませんが本末転倒ですね」
「その通りです。しかもです」
「まだあるのですか」
「その教師は正座をせずに説明が行われる間ずっと立っていました」
「生徒に正座を強制させて話を聞かせてですか」
「はい、自分は正座をせずに立っていました」
「それでは生徒にしめしがつきませんね」
スペンサーは正座で足が痺れる話よりもそちらに嫌悪を見せた。
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