万華鏡
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第三十七話 夏祭りその三
「やってみていい?」
「ええ、じゃあね」
こう話してだった、琴乃は四人と共に射的の店に入った、だがここでだった。
景子は店のおじさん、如何にも胡散臭そうな顔の捻り鉢巻のおじさんを見てそのうえで囁いたのである。
「ねえ、この人ってね」
「どういう人なの?」
「結構狸だからね」
「狸なの」
「そう、景品よく見てね」
射的の的にされる様に上下に何段も並べられている、ゲームソフトやプラモデル、そしておもちゃのアクセサリー等がある。
特に看板の様にゲーム機もある、そういったものを全て見て言うのだった。
「あのゲーム機は、わかるわよね」
「ええ、射的で撃ってもね」
「絶対に倒れないから」
そうならないというのだ。
「狙わない方がいいわよ」
「そうよね、どう見てもね」
「出店はそういうところがあるけれど」
「撃ってもなのね」
「そう、倒れない賞品も置いてるから」
「それがあれなのね」
琴乃も射的用のおもちゃのライフルを持ちながら景子に応える、視線は賞品達に向けられている。
「狙ったら駄目なものなのね」
「皆あれを狙うけれどね」
そのゲーム機をだというのだ、任天堂の最新型のものだ。
「倒れないから」
「別のものを狙うべきね」
「大物は狙わないでね」
そうしてだというのだ。
「小さなのを狙ってね」
「小さいのねえ」
「そう、狙いを定めてね」
「大きい方が狙いやすいけれどね」
これは的なら当然のことだ、だがそれでもなのだ。
その小さな的を見てだ、こう言うのだ。
「じゃあね、狙い定めていくから」
「頑張ってね」
「そうした意味で狸なのね」
「このおじさんそうだから」
「景子ちゃん、今年も来たのかよ」
おじさんの方からも言って来た、浴衣姿の景子を見て苦笑いで言うのだ。
「全く、相変わらず厳しいなあ」
「厳しいっていうか事実でしょ」
「そういうことは言わない約束だろ」
「だって。ゲーム機は倒れないわよ」
丁寧に箱に入っているそれはというのだ。
「本物で撃ち抜くしかないわよね」
「本物なんて置かないよ」
おじさんはこのことははっきりと言った。
「この店はれっきとした出店だからね」
「倒れない賞品も置いていてれっきとしてるの?」
「殆どの商品はちゃんと倒れるよ」
殆どで、である。言葉は使い様だ。
「安心してくれよ」
「じゃあこれは?」
景子は冷静にゲーム機を指差しながら問うた。
「どうなの?」
「多分大丈夫だよ」
おじさんはここでも言葉のレトリックを使った、だがその目は微妙に左右に泳いでいる。
「だから狙ってくれよ」
「琴乃ちゃん、小さいの狙ってね」
景子はおじさんの言葉を聞いてもまだこう言うのだった。
「いいわね」
「ええ、わかったわ」
琴乃も景子の言葉に頷く、そしてだった。
ゲームソフト、ただ中古の何年も前に出たものばかりだがそれを狙って撃つ、そうしてゲームソフトを手に入れていく。
だがそれを見てだ、おじさんはむっとした顔で言った。
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