side なのは
響く絶望の悲鳴。
そして溢れだす魔力。
それが収まった時にはそこに私達が知っているはやてちゃんはおらず、白銀の髪に黒き翼を持つ一人の女の人が立っていた。
「また全てが終わってしまった。
一体幾度こんな悲しみを繰り返せばいい。
我は闇の書、我が力の全ては」
「Diabolic emission.」
「主の願い、そのままに」
涙を流しながら女の掲げられた右手に現れる魔力球。
パッと見で膨大な魔力を込められた一撃だとわかる。
だけどそれだけの魔力が圧縮されるように拳ぐらいの大きさに小さくなる。
「空間攻撃!」
「闇に染まれ」
命令するように感情のない一言。
それだけで膨大な魔力は溢れだし、周囲を覆い尽くしていく。
フェイトちゃんの前に立って攻撃を防ぐ。
「Round shield.」
シールドを張って何とか防ぐけど吹き飛ばされそうになるのを必死に耐える。
空間攻撃ってフェイトちゃんは言った。
名前は聞いた事があるけど実際に見るには始めての魔法。
シールドで攻撃を防ぎながら攻撃が収まり始めた瞬間にフェイトちゃんと一緒に離れたビルの使って退避する。
「なのは、ごめん。
ありがとう、大丈夫?」
「うん。大丈夫」
シールドを張っていた手がジンジンするなんて初めてだけどなんとか防げた。
「あの子、広域攻撃型だね。
避けるのは難しいかな。バルディッシュ」
「Yes, sir. Barrier jacket, Lightning form.」
フェイトちゃんが防御があつい、ライトニングフォームにバリアジャケットを戻す。
それでも高機動型のフェイトちゃんとは広域攻撃型はあまり相性が良くない。
さっきみたいに空間一帯を攻撃されたかわしようがない。
私もさっきは何とか防げたけど、何度も防ぐのは難しいと思う。
そんなとき私達が隠れているビルの屋上に衝撃と共に何かが落ちたような衝撃があった。
あの子からの攻撃かと思って上を見上げるとそこには見覚えのある赤い外套がわずかにのぞいた。
フェイトちゃんと顔を見合わせて屋上にいくと、大切な人が夜風に外套を靡かせて、あの子を見つめていた。
side 士郎
張られている結界を突き破りうまく屋上に着地する。
海鳴の結界がなくても察する事が出来るレベルの魔力。
それを放っているのは白銀の髪の女性。
見覚えのない顔だ。
夜天の書に蒐集されたあれだけの魔力が暴走するのだからすぐには起きないとは思っていたが、その間ただ無防備でいるはずがない。
夜天の書が傍にいるアレが完成後に魔力を暴走させるまでの夜天の書の守護者と考えるのが妥当か。
「士郎君」
「士郎」
俺の転送に気がついたのかなのはとフェイトが屋上に降り立つ。
「二人とも怪我はないか」
「うん。大丈夫」
「平気だよ」
二人の返事と怪我のない事実に一安心する。
だが闇の書が完成しているというのに、はやてを助けるために戦うと約束をかわした守護騎士がいない。
「シグナム達は」
「例の仮面が現れて、闇の書に」
「蒐集されたか」
俺の言葉に頷く二人。
間に合わなかったか。
周囲にざっと視線を奔らせるとクロノに捕えれたリーゼ姉妹を見つけた。
最後まで余計な事をしてくれる。
黒鍵を外套から取り出すように六本投影し、投擲する。
ロッテとアリアの身体を掠めるように突き立つ黒鍵に姉妹は顔を青くし、クロノはこっちを睨んでいる。
今はこれでいい。
二人はあとでケリをつけるとして闇の書を優先するとしよう。
さて、なのは達の無事は確認できたのはいいが、あの女性とどう戦うか。
「あの女性の戦闘スタイルはわかるか?」
「魔法は広域攻撃型。近接戦闘はわからないけど古代ベルカの魔導書だから」
「それなりに高いとみていた方がいいか。
広域攻撃型は?」
「一定空間を攻撃で包み込むような空間単位攻撃魔法」
また厄介なのを。
だがなのはのバスターだってチャージには時間がかかる。
となると受け身になるより攻めてチャージさせないように近接戦闘で決めた方がいいか。
どちらにしろはやてを殺すようなことは避けるから遠距離で宝具の類を使うわけにもいかないしな。
これからの戦闘の事を考えていると
「なのは!」
「フェイト!」
ユーノとアルフが飛んでくる。
「士郎、本局に行ったって聞いたけど戻ってきたんだ」
「ああ、緊急で戻ってアースラからここに直接転送してもらったんだ」
転送で来ると結構派手だから居場所がばれるからな。
そんな時、魔力の高まりと共に周囲の空気が変わった。
「結界か?」
「この前と同じ閉じ込めるヤツだね」
シグナム達がなのは達と初めて出会った時のやつか。
「向こうはやる気満々ということか。
管理局は?」
「今、クロノが解決法を探してる。
援護も向かってるんだけどまだ時間が」
今動けるのはここにいる五人というわけか。
援護が来るといっても空間単位で攻撃する相手だ。
人数が多ければ有利とも限らない。
「なのはとフェイトは中距離から攻撃。
アルフとユーノは二人をサポートしろ。
俺は近接で抑える。
それから出来るだけ地上に落とすつもりでやってくれ。
その方が俺も十全にやれる」
「うん」
「わかった」
「おう」
「やってみる」
魔術回路の撃鉄を叩きあげ、魔力放出で距離を詰める。
妙だな。
魔力放出でビルからビルに移動しているのでこちらには気がついているはずだ。
現にあの女性からの視線は感じている。
だが迎撃態勢も取らず、動く気配がない。
俺達を待っている?
そして、俺は女性の前に降り立ち、なのは達も距離を取りながら様子を見ている。
「なぜ、動かなかった?
思考回路がないようには見えないが?」
「お前なら来ると思っていた。
主の友として支えになり、騎士達にとっても助けに、支えになってくれたお前なら」
女性の言葉に驚いた顔でなのは達が俺を見るが、今はそれに応える時間はない。
それにこの女性、俺を知っているようだが俺に会った記憶はない。
「我は闇の書、主達と共にあったのだ」
「なるほど、闇の書が自由に飛び回っていたり、自立意思があるように感じていたのはお前か。
なら、はやてがこの世界を滅ぼすことなど望んでいないとわかっているだろう」
俺の問いかけに静かに首を横に振る。
「我が主はこの世界が、愛する者達を奪った世界が悪い夢であってほしいと願った。
我はただそれを叶えるのみ。
主には穏やかな夢のうちで永久の眠りを。
そして、愛する騎士達を奪ったものには永久の闇を」
闇の書の視線がなのはとフェイトに向く。
「はやてと共になったならば、はやてがそんな復讐を望むと思っているのか」
「衛宮、お前も夢のうちで穏やかな眠りを。
お前もこの世界に絶望したのだろう」
俺の過去を知っている?
リンカーコアから読み取ったのか?
どちらにしろ。
「俺は世界が滅び、安らかに夢の中で過ごす事など望んでいない。
はやてもだ」
「主はお前を傷つけることは望んでいない。
だが主の願いを叶えるのを邪魔するというのなら」
「いいだろう。
俺も止めるために少々力づくでいかせてもらう」
外套から取り出すように使い慣れた双剣を握り向かい合う。
だが使い慣れた双剣とはいえ刃は潰してある。
魔力ダメージのみなんてない魔術だ。
肉体的なダメージを与えた時のはやての影響がわからない以上、刃は潰す必要がある。
「はあっ!」
一気に間合いを詰めて斬りかかる。
「盾」
「Panzerschild.」
魔法陣の盾に斬撃が阻まれる。
今の一撃で決めるつもりはなく、魔力放出を使わなかったとはいえ本気で踏み込んだが防がれた。
魔法の展開が速い。
それに刃を潰していると盾の突破は難しいか。
「スレイプニール、羽ばたいて」
「Sleipnir.」
黒き翼が一回り大きくなり、空に上がる闇の書。
「空には上げさせん」
干将・莫耶を捨て、ライダーの鎖付きの短剣を外套から取り出すよう投影し、鎖を腕に絡めようと投擲する。
だが鎖を受け止め握る闇の書。
まずい。
このまま引かれれば俺が足場を失う。
「ちっ」
短剣の方も投擲し、先ほど手放した干将・莫耶を蹴りあげ握る。
鎖を放し、短剣を避ける闇の書。
「「はあっ!」」
その隙をつく様にアルフとユーノのバインドが手足をの動きを封じる。
「砕け」
だが闇の書のその一言でバインドが砕ける。
解析して破壊したのか、それとも膨大な魔力で破壊したのかは知らないが、こうもあっさりと壊すとは
「Plasma smasher.」
「ファイア!」
「Divine buster, extension.」
「シュート!」
それでもわずかだが無防備な姿をさらしたのは事実。
左右からフェイトとなのはが砲撃を繰り出すが
「盾」
「Panzerschild.」
それすらもあっさりと防ぐ。
だが砲撃を防ぐために両手は盾の維持に使われている。
「はあっ!!」
魔力放出で跳躍し、接近を試みるが
「刃以て、血に染めよ」
「Blutiger Dolch.」
「穿て、ブラッディダガー」
赤き刃が閃光となり、なのはとフェイト、そして俺に迫る。
干将・莫耶で叩き落とす事はできる。
しかし、今までの戦闘経験がそれをするなと警告する。
外套から取り出すようでは間に合わない。
「―――
投影、開始」
干将・莫邪を捨て全身を守れるようにバーサーカーの斧剣を握り、壁にする。
その選択は間違っていなかった。
赤き刃は直撃と同時に爆発し、俺達を呑み込む。
爆風の中からなのはとフェイトが出てくるが、巧く防いだ様で怪我はしていないようだ。
俺も斧剣でなければ爆発をまともに喰らうところだった。
その一瞬の安堵が隙を生んだ。
元いたビルの屋上に着地しようとする俺に
「捕えろ」
両手に桃色のリング、両足に金色のリングが俺の動きを封じる。
闇の書の両手にあるのはベルカ式の三角形の魔法陣じゃなく、ミッド式の桃色と金色の魔法陣。
なのはとフェイトの魔法、蒐集の際にコピーしたのか。
「ふっ!!」
空中に捕らわれた俺に拳を振り下ろさんと迫る闇の書。
「ッ!―――同調、開始!」
纏う戦闘服と肉体に即座に強化をかける。
爆音とともに屋上を突き抜け、叩きつけられる。
「ゴホっ! 蒐集した者の魔法まで使えるとは」
強化のおかげで致命傷こそ何とか防げたが、それでも肋骨数本に罅は入ったな。
窓から見える視点の高さから見て、五階ぐらいは突き抜けたらしい。
一撃の重さ、魔法の展開速度。
なのは達やクロノよりも手ごわい。
あまり手を抜くとこっちがやられる。
使う武器は考えないとまずいだろうが、戦いは本気でやった方がいいか。
斧剣を俺に落ちてきた穴から投擲すると同時に窓から飛び出る。
さあ、ここからが本番だ。
side out
士郎に一撃を叩きこみ、その視線をなのは達に向ける闇の書。
なのは達は自身の相棒を握り直すとともに闇の書の実力に一抹の不安を感じていた。
今まで士郎がなのは達の前で一撃をまともに受けた事がなかったのも関係する。
そんな士郎が防御も行えずにビルに叩きつけられたのだ。
なのはやフェイトが動揺するのは仕方がない。
その時、士郎が落ちてきた穴から粉塵を切り裂き出てくるナニカ。
その場にいる全員の視線がそれを捉える。
全員が士郎が出てきたと思ったが、実際に出てきたのは巨大な斧剣。
そして、その斧剣は
「
壊れた幻想」
ビルに叩きつけられた男の言葉を鍵に爆発を起こす。
斧剣との距離は離れており、光と爆風が闇の書となのは達を襲うがダメージを与える事もない。
だがその閃光と音で、視覚と聴力をわずかな時間奪う。
そして士郎にとってはそれで充分であった。
「墜ちろ!」
斧剣の投擲と同時に窓を突き破り、壊れた幻想による爆発を目くらましに隣のビルを足場に魔力放出で闇の書に接近し、回し蹴りを叩きこむ。
「ぐっ!」
それだけの隙をついてなお、腕で士郎の攻撃を受け止めている。
だが衝撃は完全に殺す事は出来ず、蹴り飛ばされながら、飛行魔法で落下を止める。
先ほどより高度こそ下がっているが、まだ空中戦の領域。
そして、士郎もこれで地上に落ちるとは思ってはいない。
蹴りの回転の勢いのまま、右手にライダーの鎖付きの短剣を投影し、足場として鎖を張りながら、左手には三本の黒鍵が握られる。
「シッ!」
放たれる黒鍵。
「盾」
「Panzerschild.」
それを当然のようにシールドを張って受け止める闇の書。
だがそれは
「!?」
当然のように鉄甲作用で投擲されており、予想にもしない衝撃がシールドに奔るが突き破る事はない。
それでも闇の書の意識を一瞬黒鍵に向けることに成功していた。
鎖に着地した士郎の手からさらに追撃が放たれる。
右手から深紅の槍が、その深紅の槍を追う様に左手からは先と同じ三本の黒鍵が
闇の書は士郎の追撃をこのままシールドを展開して防ごうとする。
もし、なのは達ならそんな事は絶対にせず、避けようとしただろう。
放たれた深紅の槍の銘は『
破魔の紅薔薇』
「何……だと」
魔術を打ち破る魔槍は闇の書のシールドを紙屑のように突き破る。
そして、ゲイ・ジャルグは闇の書の顔の横を数本の髪の毛を切り裂きながら、地上に向かって落ちていく。
(今の槍、シールドを破壊するために)
穴が開いたシールド。
どんなに強力なシールドでもこうも穴があいては構成の強さを維持できるはずもない。
そして、黒鍵の衝撃に耐えられずに砕け散るシールド。
それでもなお、体に魔力を纏い防御する。
だがそれも士郎の計算のうちである。
なのは達の魔法のような非殺傷設定が存在しない魔術にとっては相手の肉体を傷つけないように戦う事が一番厄介な事になる。
「がはっ!」
だからこそ闇の書の防御の速さを信じて黒鍵を投擲したのだ。
貫通こそしなくても鉄甲作用で投擲された黒鍵の衝撃は凄まじく、なんとか姿勢を整え、アスファルトを滑りながら地上に着地する。
そして、闇の書が再び士郎に視線を向けた時には既に士郎は足場となる鎖から踏み込んでいた。
魔力放出による踏み込み、さらに靴にはタラリアを纏い、重力の恩恵を受けて加速する。
(半端な距離はさらに危険か。
とはいえ将とまともに剣を交わせる者相手に近接戦を挑むのも考えものか)
士郎の魔力放出を使った踏み込みの速さに、闇の書は戦い方を変える事を選択する。
中途半端な距離では一瞬の隙で踏み込まれる。
かといって近接戦闘ではシグナムと正面から戦える士郎ではそれも難しい。
士郎の能力を考えるなら遠距離戦も正しい選択ではない。
いや、なのは達なら多少危険でも遠距離戦は避けるだろう。
フルンディング、ゲイ・ボルクなど遠距離の宝具の開放を目にした事があるのだから。
だが、闇の書の持っている士郎の情報が少ない。
なぜならシグナムやザフィーラの記憶はあくまで模擬戦。
魔力を使わない純粋な技術である。
そして、士郎がこれまでシグナム達と戦闘をした事がないため本当の力を知らないのだ。
唯一の情報はシャマルが見ていた仮面との戦い、リンカーコアから読み取れた記憶などがあるが、あまりに不完全であった。
仮面との戦いでは士郎は本気を出しておらず、リンカーコアの記憶は士郎の印象となった記憶は見えたが、魔術などはあまりに異質過ぎた。
なのはやフェイトの記憶にも魔術の記憶はあるが、あまりに体系が異なり理解が出来ていない。
一直線に踏み込んでくる士郎に対し、再び空に上がり距離を取ろうとした闇の書。
それを
「
停止解凍、
全投影連続層写!」
虚空より現れ撃ちだされる三十の剣弾。
それは闇の書を空へ上げさせないため、頭の少し上が狙われていた。
それにより空を飛ぶ事を止める闇の書。
その隙に接敵した士郎に握られている干将・莫耶の振り下ろしを横に跳び避ける。
(避けた?
ゲイ・ジャルクの事もあるから警戒しているのか)
ここまでシールドで防いでいた闇の書が初めて避けた事に自身の武器を警戒されている事を理解する士郎。
そのまま距離を取ろうとする闇の書に干将・莫耶を投擲する。
両側から迫る双剣。
このまま下がればその刃が自身の身を捕える事を理解すると同時に急制動をかけて止まる。
急制動をかけて止まってしまえば再び動くまで、わずかな硬直が出来る。
その隙を逃す士郎ではない。
アスファルトに突き刺さった先ほど飛ばした西洋剣を掴み、闇の書に踏み込み振りおろす。
それを
「纏え」
「Schwarze Wirkung」
魔力を纏った左の拳で剣の腹を殴り付け叩き落とす。
そのまま右の拳を振りかぶる。
(まずい、今の一撃で亀裂が入ってる。
次の一撃は持たない)
魔剣を捨て、強化した腕で拳を受け止める。
「ぐっ!」
アスファルトを削りながら滑っていく士郎。
その隙に再び、距離を取ろうとする闇の書。
そうはさせないとアスファルトを滑りながら横に跳び、ビルの壁を駆け、脳天から新たに投影した斧剣を叩きつける。
(これだけの質量なら叩き落とす事も出来まい!)
士郎の予測通り、それを横に跳ぶ事でかわしながら距離をとる闇の書。
「はあっ!」
アスファルトを粉砕した斧剣をそのまま横に薙ぎながら投擲する士郎。
斧剣と斧剣に砕かれたアスファルトが闇の書に迫るがそれをシールドを張り防ぎながら空に飛ぶ。
「言ったはずだ。空には上げさせんとな」
放たれる干将・莫耶。
二振りの剣は闇の書の横を通り過ぎ、上から迫る。
上から迫る刃を避けようと闇の書だが、その時聞えた風切り音で下に視線を向ける。
そこには下から迫る干将・莫耶。
(地上に降りて来た時握っていた方か)
アスファルトに転がっていた夫婦剣が上から闇の書に迫る夫婦剣に引かれたのだ。
上下から迫る四振りの刃をかわしきれないとシールドを張る闇の書
「悪いが爆破出来るのは斧剣だけではないぞ―――
壊れた幻想」
爆炎が闇の書を包むがしっかりと防いでいた闇の書が煙から飛び出てくる。
その闇の書の足を掴み、地上に投げる士郎。
そして、虚空に投影した剣を足場に再び闇の書に踏み込んでいく。
side フェイト
戦闘の展開が速すぎる。
「なのはとフェイトは中距離から攻撃。アルフとユーノは二人をサポートしろ」と士郎に言われたけど、手を出す事が出来ない。
空に飛ばせまいと近接戦闘を挑む士郎と距離を取り空に上がろうとする闇の書。
間合いが離れたかと思えば、士郎の踏み込みでまた刃を、拳を交える。
時には壁を蹴り、虚空に出てきた剣を足場にして。
地上戦とはいえここまで速く縦横無尽に動かれると狙えない。
いや、正しくは
(なのは、どう? 狙える?)
(だめ。士郎君にも当たっちゃう)
(アルフ、ユーノは?)
(無理だよ。展開が速すぎる)
(うん。下手に手を出せない。
一歩間違えたら士郎に隙を作りかねない)
この戦いに手を出した時に闇の書だけを捕える自身がない。
いや、それどころか士郎の邪魔をしてしまう。
士郎の踏み込みはあまりに速く魔力弾の速度にも引けは取らない。
それゆえに離れたと思って攻撃をすれば、着弾する時には士郎が闇の書の傍にいる状況。
念話が使えればこれも対応できるけど士郎が使えない以上下手に手は出せない。
それに士郎は投影をするとき、転移だと誤魔化せるように外套から取り出したりなんかしないで、手や虚空に直接展開してる。
それだけ余裕がないという証拠。
そこに下手に私達が手を出したりすれば私達が士郎を殺しかねない。
だけど、このまま士郎が戦うのはあまりにも危険だとも思う。
士郎の本来の戦い方を私達は知ってる。
敵の攻めに対して攻撃を受け流して、カウンターを繰り出すタイプ。
勿論、戦闘技術自体がが高いからどんな戦い方も出来るけど、士郎の得意な戦い方ではない。
こんな無茶な戦い方がいつまでも続くとは思えない。
side 士郎
闇の書の間合いを再度詰めながら、徐々に軋んできた体に内心舌打ちする。
常に魔力放出を使った踏み込み、距離をとられ空に上げまいと無理に接近するための軌道。
イタチゴッコのように繰り返される戦闘。
いくら魔術回路が増えたとはいえ幾度となく繰り返される魔力放出。
成長途中の子供の身体にかかる負荷。
この戦い方だと明らかに闇の書の方が疲労は少ない。
こんなことなら情報提供の対価でデバイスと魔法の教育でも受けるべきだったか。
それにこのまま同じ戦法だといい加減カウンターを喰らいそうな予感がする。
とはいえ空に上げさせないで戦う戦法として、かつ殺す事のないような戦い方だとこれ以外の案が今のところ思いついていない。
そして、再び離れた距離を詰めようとした時
「ブラッディダガー」
「Blutiger Dolch.」
俺の目の前に展開される三十に及ぶ赤き刃。
「ちっ!」
急制動をかけながら、斧剣を盾のように投影して構える。
だが、衝撃が来ない。
闇の書は刃を展開しながら俺を悲しそうに見つめていた。
「なぜ諦めない。
そして、なぜ手を抜く?
お前の本気はそんなモノではないだろう」
「諦めるはずがないだろう。
はやてが望みもしない破壊行為をはやての家族にさせるわけにはいかないしな」
「家族?」
俺の言葉に不思議そうにする闇の書。
「ああ、はやてと共にシグナム達と一緒に居たんだろう。
なら、十分に家族だろう。
そして、なんで手を抜くのか?
そんなの当たり前だろう」
闇の書。
壊れたプログラムに支配されている魔導書。
主思いの魔導書が一番苦しんでいる被害者なのかもしれない。
「俺はお前を殺したいわけじゃない。
お前もはやても救うためにここに居るんだからな」
「だが、私はただ主の願いを叶えるために」
「生憎とそんなふうに泣いている女性を見捨てることなんて出来なくてね」
「……お前が主の、騎士達の友であり心よりうれしく思う。
だが、もう闇に沈め」
展開されいた赤き刃が一瞬輝きを増し、閃光となり俺に襲いかかる。
だがその衝撃は
「大丈夫かい?」
アルフの張ったシールドに守られる。
ユーノがバインドを展開するがそれをかわしながら俺から距離をとる闇の書。
まずい。
このまま離されると空に上がられる。
それを防ぐように
「はあっ!」
フェイトがバルディッシュを振るい、フェイトと闇の書の距離が離れたら、なのはが上からバスターを撃ちこむ。
だがそれも
「Blutiger Dolch.」
なのは達に撃ちこまれる赤き刃で隙が出来、空に上がる闇の書。
空に上がったとはいえまだビルの十階程度。
これならビルの壁を足場にまだ引き下ろせる。
踏み込もうとした時
「咎人達に、滅びの光を」
闇の書の掲げた手に展開される桃色の魔法陣。
そして魔法陣に集まる魔力
「星よ集え、全てを撃ち抜く光となれ」
そんな光景に呆然となってしまう俺達
「おい、アレって」
「スターライトブレイカー……」
やはりそうか。
バインドどころか、このレベル魔法までコピー出来るのか。
ミッド式だろうが、ベルカ式だろうがもはや関係ないな。
ともかくチャージ完了前にあの魔力をゲイ・ジャルグで拡散……できるか?
あの大きさの魔力球だ。
ゲイ・ジャルグでついても大半の魔力はチャージ途中で放たれるだけのような気もする。
「士郎君!!」
「士郎! こっちに!」
なのはとフェイトが俺を呼ぶ。
ユーノとアルフは別方向に飛んでいく。
なるほど。
闇の書が狙っているのはなのはとフェイト。
そして、今まで戦っていた俺となるとユーノ達から離れた方がいいか。
幸いにもタラリアは履いたままだ。
アスファルトを蹴り、空に上がる。
「なのは、士郎、掴まって」
フェイトに俺となのはは抱きしめられるような形で闇の書から距離をとる。
「フェイトちゃん。こんなに離れなくても」
「至近で喰らったら防御の上からでも墜とされる。
回避距離をとらなきゃ」
さすがフェイト。
あの砲撃を喰らった事だけあっていい判断だ。
なのははもう少しあのふざけた威力を自覚するべきだと思うぞ。
そのまま距離をとっている時
「Sir, there are noncombatants on the left at three hundred yards.(左方向300ヤード、一般市民がいます)」
バルディッシュから信じがたい言葉が発せられた。
一般市民?
結界は問題なく張られている。
それがなぜ?
いや、考えるのは後だ。
「フェイト、なのは」
「うん。わかってる」
「勿論」
取り残された一般市民の方向に向きを変える。
その途中でバルディッシュがカウントを開始する。
スターライトブレイカーのカウントか。
だが、なのはのより時間がかかっている。
ベルカ式でありながらミッド式の魔法を使うからか?
どちらにしろ、カウントがゼロになる前に見つけ出さないと
「なのは、士郎。
この辺」
「うん」
「ああ」
フェイトが腕を放し、なのはと俺はアスファルトを滑りながら停止する。
アスファルトと擦れ粉塵が舞い、視覚を悪くする。
その中で周囲に視線を奔らせるながら気配を探る。
近くに走る様な足音がする。
音の大きさからまだ子供。
人数は二人。
「あそこか」
俺の視線を方向に粉塵でうっすらではあるが走る二人の女の子が見えた。
それを確認すると
「あの、すみません!
危ないですからそこでじっとしておいてください!」
なのはの声に足を止める二人。
粉塵が収まり見えたのは見覚えのある白い制服を着たアリサとすずかの姿。
「なのは?」
「フェイトちゃん? それに士郎君まで」
意外な人物に呆然とする俺達。
だがその間もカウントは進んでいる。
二人を抱きかかえて離脱するのは間に合わない。
「なのは、フェイト、防御態勢!
来るぞ」
「うん」
「わかった」
「ちょっと士郎、一体」
「アリサ、説明は後だ。
今は言うとおりにしてくれ」
俺の言葉に緊急事態という事は理解してくれたのか、頷いてくれる。
すずかは俺が戦闘用の外套を纏っている時点で魔術関係ということは察していたのかアリサの手を握りしめてじっとしている。
「スターライト・ブレイカー」
聞こえるはずのない闇の書の言葉が聞えたような気がした。
それと同時に街に撃ちこまれる砲撃。
なのはのように俺達を直接というわけではないようだが、爆音と共に街を呑み込むように迫る桃色は脅威でしかない。
「二人ともそこでじっとして」
「Defenser plus.」
バルディッシュのカートリッジがロードされ、アリサとすずかを覆う様にバリアが張られる。
そして二人の前に立ってシールドを展開するフェイト。
さらにその前にフェイトより防御力のあるなのはが
「レイジングハート」
「Wide area protection.」
同じく二発のカートリッジをロードし、バリアを展開する。
そして四人の前に俺が立つ。
後ろの皆を守れる規模の防御となるとアイアスだが、もっと効果があるモノがある。
「―――
投影、開始」
手に握られるは聖楯、プライウェン。
俺の大切な人達を守るためにその力を存分に解き放て
「
空航る聖母の加護!!」
展開される加護の光。
そして、桃色の破滅の光と加護の光がぶつかり合った。