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Fate/magic girl-錬鉄の弓兵と魔法少女-

作者:セリカ
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A's編
  第七十四話 闇の書の覚醒

side なのは

 学校が終わってはやてちゃんへのクリスマスプレゼントを買って病院に向かう。

「それにしたって、忙しいのはわかるけどこんな日ぐらい何とかしなさいよね」
「そうだよね。事情はあるんだろうけど」

 ただし今日のお見舞いには士郎君がいない。

 そのせいでアリサちゃんは不機嫌だし、すずかちゃんはアリサちゃんを宥めてるけどやっぱり不満そう。

 私もせっかくのクリスマス・イブなのに士郎君がいないのは残念だけど、本局に行ったことが気にもなってる。

 横を見るとフェイトちゃんも心配みたいで少し元気がない。

(ねえ、フェイトちゃん)
(なに? なのは)

 アリサちゃん達もいるから念話で話しかける。

(本局の方で魔術師に関する何かあったとか聞いた?)
(ううん、聞いてない。
 でも何かあった可能性もゼロじゃない)

 私達を巻き込まないようにしてくれているのはわかるから強くは言えないけど、やっぱり寂しく感じちゃう。

 でも管理局と士郎君。
 フェイトちゃんの裁判の時に本局に行ったりしてお互いに不干渉でもう終わったんだと思ってたんだけど

 私が首を傾げているのに気がついたのか

(今回の闇の書の一件で士郎の戦闘がみられた事が関係してるのかも。
 特に今回の事件じゃ士郎の接近戦闘の映像もあるから)

 そっか。
 ジュエルシード事件の時は士郎君が接近戦はクロノ君との模擬戦、それと時の庭園での防衛システムの甲冑ぐらい。
 それ以外は援護での弓だし、最後は次元震の影響で記録出来なかった事になってるもんね。

(それに士郎が使ってた武器もちょっと厄介なものだったから)
(あの赤い槍だよね)

 フェイトちゃんと初めて会った時に少しだけ使ったジュエルシードを壊す時に使った槍とは別のもう一つの深紅の槍。

 あの時は魔法を始めてすぐというのもあってすぐには気がつかなかったけど

(あの槍、すごいよね)
(うん。穂先に触れた場所が変身魔法も解かれたから魔力を霧散させてるか、魔力結合を解除する槍)

 シールドもバリアジャケットも魔力で出来てる。
 つまりそれを簡単に突きぬける事が出来る。

(クロノは対魔導師兵装とか家で呼んでたけど)
(あながち間違ってないんだよね)
(うん)

 少なくとも接近戦では戦っていけない相手。

 そんな事を考えている時

「二人とも置いていくわよ!」

 念話に集中し過ぎたのかアリサちゃんとすずかちゃんと離れてしまっていた。

 士郎君がいなくても今日は楽しいクリスマス・イブだもんね。

 フェイトちゃん一緒にアリサちゃんに追いつくために走り始めた。




side フェイト

 こんなにも残酷な事があるなんて考えたくなかった。

 サプライズプレゼントを持ってはやての病室にいたのは勝ちたいと思ってまだ勝ててない人であり、私達が追う人。

 闇の書の守護騎士達。

 私となのはの姿を認めると同時にシグナムがいつでも動けるように僅かに腰を沈め、ヴィータはなのはを睨む。

「なのはちゃん、フェイトちゃんどないしたん?」
「ううん、なんでも」
「ちょっとご挨拶を、ですよね」
「はい」

 病室の空気が少し重くなってしまったけど、出来るだけ自然にふるまう。
 シグナムも体勢を元に戻しながらも足はわずかに開き、その気になればいつでも動けるようにしてる。

 そんな様子を見ながらクロノ達に念話をしようとするけど、通じない。

「皆、コート預かるわ」

 シャマルの言葉に皆で返事をしながらコートを渡しながら何度も試すけど回復しないということは

「念話が通じない。
 通信妨害を?」

 コートをかけながら隣に来たシグナムに小声で問いかける。

「シャマルはバックアップのエキスパートだ。
 この距離なら造作もない」

 シャマルの指に輝く指輪を確認する。

 このままだとクロノ達に連絡が出来ない。

 だけど同時に一番意外なのは、はやて自身の事でもある。
 シグナム達が傍にいるという事ははやてが闇の書の主なんだろうけど、はやてが私達の事を知らなかった事。

 アルフが前回の戦いの時に守護騎士の一人から「主はご存じない」って言ってたという話があったけどそれは本当なのかもしれない。

 でもここでは動けない。
 シグナム達も動く気はないみたいだけど、下手に動いたらアリサとすずかを巻き込んでしまう。

 そのままシグナム達に警戒しながら、はやて達と過ごす。

 そして、辺りが暗くなってきたのではやての病室を後にする。
 その時にシグナムとシャマルが見送るためと言って病院の入り口までついてくる。

「「さようなら」」
「また来てね」

 アリサとすずかの挨拶に手を振りながら見送るシャマル。
 その横でシグナムが私を見た後に別の方向に視線を向けた。

 シグナムの視線の先には病院から少し離れたビルの屋上。
 その意図に頷き、なのはと共に病院を後にする。

 帰り道のの途中で

「アリサ、すずか、ゴメン。
 私となのは、少し用があるからここで」
「ん? そうなの?」
「そっか、それじゃまた明日ね」
「うん。また明日」
「バイバイ、アリサ、すずか」

 少し胸が痛むけどアリサとすずかに嘘を言い、別れてシグナムが見ていたビルの屋上に向かう。

 辿り着くと既にシグナムとシャマルが待ち受けていた。




side out

 なのは、フェイト、シグナム、シャマルがビルの屋上で向かい合う。

 互いにバリアジャケットも騎士甲冑も纏わず、互いに手には得物もないが空気が張り詰める。

 その中でフェイトが静かに言葉を発した。

「シグナム、はやては」

 フェイトにもなのはにもわかっている事だろう。
 それでも一抹の願いを込めた問いかけ。

「察しの通りだ。
 我らが主だ」

 だがフェイトの言葉にシグナムは一切の迷いもなく答える。
 誤魔化しもしない。
 ただ我らが主を誇るように真っ直ぐと八神はやてと認めた。

「はやてちゃんが……闇の書の主」

 わかっていた事でも認めたくはない事実になのはとフェイトの心がわずかに揺れる。
 
「悲願はあとわずかで叶う」
「邪魔をするなら、はやてちゃんのお友達でも」

 明確な拒絶の言葉。

「待って、ちょっと待って。
 話を聞いてください。
 闇の書が完成したらはやてちゃんは」

 戦う気はないと言葉を発するなのは。
 そんななのはに一直線に迫るヴィータ。

「はあっ!」
「っ!」

 咄嗟にシールドを張るが、耐えきれずに屋上のフェンスに叩きつけられる。

 それが膠着していた空気を動かした。

「なのは!」

 フェイトの視線がなのはに向けられた瞬間。

「おおっ!」

 レヴァンティンを抜刀し、フェイトに斬りかかるシグナム。
 特技のスピードを生かし、回避と同時にバルディッシュを構えるフェイト。

「管理局に我らが主の事を伝えられては困るんだ」
「私の通信防御範囲から出すわけにはいかない」

 逃がさないと。
 目的のために逃がすわけにはいかないと覚悟を決めるシグナムとシャマル。

 そして、フェンスに叩きつけられたなのはを見下ろすヴィータは騎士甲冑を纏う。

「ヴィータちゃん」
「邪魔すんなよ。あともうちょっとで助けられるんだ。
 はやてが元気になって私達の所に帰って来るんだ。
 必死に頑張ってきたんだ。
 あともうちょっとなんだから……邪魔すんな!!」

 叩き込まれるグラーフアイゼン。

 その衝撃で屋上の一部が炎に包まれる。
 その炎の中からバリアジャケットを纏い、レイジングハート共に歩いて来るなのは。

「悪魔め」 

 涙を流しながら、なのはを睨むヴィータ。

「悪魔でいいよ。
 悪魔らしいやり方で話を聞いてもらうから」

 ヴィータの言葉にわずかに俯くがレイジングハートを握りしめ、敵意の眼差しを受け止める。

 なのはとヴィータのやり取りを見ながら

「シャマル、お前は離れて通信妨害に集中していろ」

 シグナムは冷静に判断を下し、その言葉に従い下がり騎士甲冑を纏うシャマル。

 なのはとヴィータ、フェイトとシグナムが向かい合い、サポート役のシャマルがいる状況。

 戦力的にはシグナム達が有利だが、あまりにシグナム達に不利である。

 管理局に気がつかせないために結界は張れず、シャマルの通信妨害範囲から逃がさないように戦い、そして管理局が戦闘の魔力に気がつく前に決着をつけねばならない。

 対してなのは達にとっては戦い、勝つというよりも隙を見て通信妨害範囲から脱出、または管理局が気がつくまで凌げばいい。
 だが反面、結界を張っていないという事は下手に多技を使えば一般人を巻き込む事を意味するため足枷が存在するのも事実である。

「闇の書は悪意ある改変を受け壊れてしまっている。
 今状態で完成させたら、はやては」
「知っている。
 闇の書が壊れてしまっているのも、完成すれば主はやてを巻き込み暴走しようとする事も」

 シグナムの意外な返答にフェイトが眼を丸くする。

「わかっているのなら、なぜ!」
「それが主はやてを救う最後の希望だからだ。
 未完成では主を救う事も呪いを止める事も出来ない。
 完成させ、主はやてを救う!」
「例えそれが世界を危険に晒してもですか」

 フェイトの問いかけにただ剣を構える事で答えた。
 真っ直ぐな瞳と覚悟。

 言葉だけではもはや届かない。

「Barrier jacket. Sonic form.」

 フェイトの思いに応えるようにバルディッシュがバリアジャケットを展開する。

 それは今までのタイプとは異なるモノ。
 外套もなく、装甲を薄くし、光の羽を手足にも纏い

「Haken.」

 フェイトは真っ直ぐシグナムを見つめ、刃を向けた。

「薄い装甲をさらに薄くしたか」
「その分、速く動けます」
「ゆるい攻撃でも当たれば死ぬぞ。
 正気か? テスタロッサ」
「貴方に勝つためです。
 強い貴方に立ち向かうにはこれしかないと思ったから」

 フェイトの言葉に耐えるように歯を噛みしめ騎士甲冑を纏うシグナム。

「こんな出会いをしていなければ私とお前は一体どれほどの友になれただろうか」
「まだ間に合います!」

 フェイトの言葉を否定するように切っ先が上がり、レヴァンティンが両手で握られる。

「止まれん。
 我ら守護騎士、主の笑顔のためならば騎士の誇りさえ捨てると決めた。
 もう、止まれんのだ!」

 騎士として気高いシグナムが涙を流し、魔力を高めていく。

「止めます。
 私とバルディッシュが」
「Yes, sir.」

 今までもよりもさらに速い速度でシグナムに迫るフェイト。
 急激に上がった速度でもなお、対応していくシグナム。
 互いに純粋に想いを込めた刃をぶつけ合う。

 だがそんな応酬は

「ヴィータちゃん。教えて
 はやてちゃんを救う方法があるなら、協力するから」
「……そんなこと」

 上空でヴィータと向かい合うなのはが

「バインド! また」

 バインドに捕らわれることで終わりを告げた。
 そして、予想外の事態にヴィータも茫然としてしまう。

「なのはっ!」

 青い魔力光に不意打ちのバインド。
 今までのパターンで例の仮面と判断したフェイトはシグナムから距離を取り、魔力弾を展開し周囲を警戒する。

 シグナムもフェイトの意識が離れた今、チャンスではあるが仮面が敵でない保証もないため動かない。

「そこっ!」

 わずかな空間の歪みを察し、魔力弾を叩きこむ。
 魔力弾は弾かれるが大きく空間が歪み、居場所を正確に把握するフェイト。

「はあっ!」

 そのままスピードを生かして接近して三連撃。
 魔法が解除され、姿をさらす仮面。
 フェイトの一撃は確実に通っており複数の傷も出来ていた。

「この間のようにはいかない」

 カートリッジをロードし、追撃に入ろうとするフェイトだが

「ふっ!」
「がはっ!」

 もう一人の横からの不意打ちをまともに受けてしまう。

 屋上に叩きつけられる前に何とか急停止するが、そのまま最初の一人のバインドに捕らわれてしまう。

「二人!?」

 同じ仮面、同じ背格好。
 今まで一人だと思っていた相手が本当は二人組という真実に驚くなのは達。

 困惑する周囲の隙に仮面の片割れは魔力の込められたカードを展開し、シグナム達までもがバインドで捕らわれる。

 敵ではないと保証がないにしろ今まで助けられた相手からいきなりバインドを受けるとは思わずシグナム達も反応が遅れた。
 そして、なのはとフェイトも仮面がシグナム達の仲間だと思っていただけにさらに困惑していた。

「この人数だとバインドも通信妨害もあまりもたん。
 はやく頼む」
「ああ」

 仮面の男の手に現れたのは闇の書。

 闇の書の空白頁が開かれ輝くとシグナム、ヴィータ、シャマルからリンカーコアが抜きだされる。

「最後の頁は不要となった守護者自らが差し出す。
 これまでも幾度か、そうだったはずだ」
「Sammlung.(蒐集)」

 闇の書に魔力を吸収され、シャマルが、シグナムが消え、ヴィータも消えそうになった時

「でああっ!!」

 仲間の危機に拳を叩きつけるザフィーラ。
 だがその一撃も仮面のシールドに阻まれる。

「そうか、もう一匹いたな」

 そして、ザフィーラもリンカーコア抜きだされる。

「さあ、奪え」

 仮面の言葉に従い魔力を蒐集を開始する闇の書。

 それでもなお、先の一撃で傷ついた拳を握りしめ

「でりゃあああ!!」

 拳を振るうがシールドは破れず、力なく倒れた。
 同じようにヴィータも倒れる。

 最後に残ったのはシグナムとシャマルが着ていたコートと魔力を蒐集され辛うじて形が残っているヴィータとザフィーラの残滓のみ。

 あまりの光景に呆然とするなのはとフェイトはそのままクリスタルゲージに捕らわれる。

 二人の実力なら数分もあれば出れるだろうが、仮面にとってはそれで充分だった。

「闇の書の主、目覚めの時だな」
「いいや、終焉の時だ」

 その言葉と共に仮面の姿はなのはとフェイトに変わる。
 偽物の前に転送されるはやて。

 病室にあったルーンの加護を失い、発作が大きくなり胸を抑えるはやて

「なのはちゃん、フェイトちゃん?
 なんなん、なんなんこれ?」

 いきなりの出来事にはやてが理解が追いつかず、困惑するが偽物はそれを無視し、はやてを見下ろしながら言葉を紡ぐ。

「君は病気なんだよ。
 闇の書の呪いって病気」
「もうね、治らないんだ」
「闇の書が完成しても助からない」
「君が救われる事はないんだ」

 一方的な通達。
 はやてのもしかしたらという希望を潰し、罅を入れる呪いの言葉。

「そんな、ええねん。
 ヴィータを放して、ザフィーラになにしたん」
「この子達ね、壊れちゃってるの。
 私達がこうする前から」
「とっくの昔に壊された闇の書の機能をまだ使えると思いこんで。
 無駄な努力を続けてたの」
「無駄ってなんや!
 シグナムは、シャマルは」

 偽物の言葉が理解できないと首を振り、はやてはここにはいない大切な家族を探す。
 その言葉に偽物の視線がはやての背後に動く。

 そんな偽物の視線を追い、後ろを向くとそこにあるのは見覚えのある服。
 シグナムとシャマルが着ていたコートがただ風に揺れている。

 もういないと突きつけられた現実。

「壊れた機械は役に立たないよね」
「だから壊しちゃおう」

 カードを、手刀を構える偽物

「だ、ダメっ!
 やめてっ!!」
「やめてほしかったら」
「力づくでどうぞ」
「なんで、なんでやねん。
 なんでこんな」

 必死にヴィータとザフィーラに手を伸ばそうとするが、無情にもその手は届かない。

「ねえ、はやてちゃん」
「運命って残酷なんだよ」
「やめ、やめて、やめてええっ!!!」

 一瞬の衝撃と同時に消えるヴィータとザフィーラ。

 手に入れた、ようやく手に入れた最愛の家族を奪われた少女を絶望の闇に落とし、闇の書を目覚めさせるには十分過ぎた。

「Guten Morgen, Meister.」

 その目覚めを察するようにはやての前に現れる闇の書。

「う……あ、ああ、ああああああああっ!!!!」

 はやての絶望の断末魔が響き、闇の書は目覚めの時を迎えた。 
 

 
後書き
今週はなのは、フェイト側の闇の書が完成と覚醒まででした。

次回は戦闘へ突入です。

さてあと何話でA's完結まで持っていけるかな。

無印編もなんだかんだで長くなったのでそこが少し不安だったり

これからもよろしくお願いします。 
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