真剣で覇王に恋しなさい!
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第15話
多彩な忍術を使う従者部隊の序列一位、荒々しくも才能溢れる川神の無法者、そして俺を馬鹿にした九鬼の長女。
俺に向かってきたそいつらを撃退し終わった時、遠くから巨大なエネルギー砲で狙撃を受けた。
俺がそれくらいで倒れる事は無かったが、そんな不意打ちを受けて見過ごすわけにはいかない。
だが、ちょうど追いついてきた柳司の姿を見れば、それを無視する事もできない。
戦いの中で俺が崩落させた高速道路の淵にバイクを止め、神妙な面持ちでこちらを見ている柳司からは、今までに感じた事のない覚悟と力が感じ取れる。
それでも俺の力には遥かに届かないだろうが、やはりあいつは他の奴らと何かが違う。
「やはりやってきたな、柳司」
「あぁ、待たせて悪かった……さっきの砲撃を見てたが、大丈夫だったか?」
「誰に物を言っている。あれくらいで俺が倒れると思ったか?」
「いや……大丈夫ならいいんだ」
この期に及んで俺を心配する言葉を掛ける柳司。
しかし纏う雰囲気は変わらない。
その矛盾した様子が嫌に気になる。
「相変わらずだな。俺を倒す為に来たのだろう?」
「違う! 俺はお前を止めに来ただけだ!」
頑なにそう言う柳司を見ていると、俺にもどこからか沸き上がる感情がある。
得体の知れないものだが、悪くは無い。
だが、奴が纏っているあの力もまた本物だ。
……そうだな、ならばもう一度試そう。それにここには俺が倒した邪魔者たちが多すぎる。
「俺はお前が追ってくるならと、そう言ったな」
「あぁ。確かに言ったぞ」
「ならばもう一度追ってこい。俺は学園から俺を狙った小心者に裁きを下さねばならんからな。お前がわざわざ用意したそのバイクで、俺とスイを追ってくるがいい!」
俺はそう言ってスイに飛び乗り、反対車線を逆走するようにして学園へと加速した。
背後にから急いで追いかけてくる一人分の気配を感じながら、俺はその場を後にした。
数分ほど走った所で、俺は後ろに張り付くようにバイクを走らせている柳司を振り返って話しかけた。
「スイの加速についてくるとはいいものを用意したじゃないか!」
「その為に小遣いは全部これに消えたよ。いくら九鬼に色々用意してもらってるとはいえ、全くの無償というわけじゃないからな」
「そうまでしてずっと前から作っていたのか? 用意のいい事だ」
「……元々は、こんなつもりじゃなかったんだけどな」
そう言って柳司は顔を曇らせるが、細かい理由など俺の知ったことではない。
今はまず、その自慢のバイクを試してやろうじゃないか。
「やれ、スイ!」
『了解です。ミサイルを掃射します』
俺に従い大量のミサイルが柳司の乗るバイクへ向かって発射される。
何かしら対処しなければ、確実に破壊できるだろうが……
「そうきたか……№Ⅳ、電磁バリア展開!」
『了解です。全方位超電磁バリア展開、です!』
元々赤いバイクが輝いたかと思えば、柳司を含むバイク全体を包むような形でバリアが展開された。
スイが放ったミサイルは全てそれに阻まれる形で爆発四散する。
「んはっ! そんなものまで用意していたのか!」
「そっちこそ、ミサイルとは流石に笑えないな」
すぐさまバリアを消してそう言う柳司。少なくともスイの武装は通じないようだが、それなら俺にも考えがある。
「スイ、方天画戟を出せ」
『わかりました』
スイに命じて方天画戟を出させた俺はそれを右腕で掴み、柳司のいる背後に向けて振り下ろした。
「まず……っ!」
「落ちるがいい!」
ここは高架上にある高速道路だ。その道路を貫通させる勢いで破壊すれば、当然その場は崩落する。
スイの加速なら当然それには巻き込まれないが、いかに同性能を持つ柳司のバイクでも、目の前でそれが起きれば回避しきれないだろう。
その状況に対してどのような対処をするか。まさかこれで終わりという事もないだろうが……そう思った瞬間、俺とスイの上を何かが通る。
そうして目の前に着地したのは、右手に『武器』を持ち、体にうっすらと紅に輝くオーラを纏う、バイクに跨った柳司だった。
「飛んできただと!?」
「落ちかけた時にアンカーを射出して、武器を棒高跳びと同じ要領で使ってジャンプしただけさ」
なるほど、俺が持つ方天画戟と同じくらいの長さのあるその武器なら、そういう事も可能だろう。
ただ、バイクを軽々と持ち上げるくらいの力がなければ無理だろうが……
「自己強化技の類だな」
「あぁ。さっきは使う前にやられたが、今度はそうはいかない。それにそろそろ止まってもらうぞ……やれっ!」
『了解。試験的トライアルシステム、発動です!』
柳司のバイクがそう言った途端、スイの速度がガクンと落ちた。
しかも同時に車体が安定感を失い、既にスイによる操作が行われていない事は明らかだった。
「おい、どうした!」
「どうやら言語機能以外の全ての機能を強制的に切られたようです」
「なんだと!?」
「申し訳ありません、清楚。とにかく今は転倒しないように注意を」
「ちぃっ!」
俺は突如暴れ馬と化したスイを操り、徐々に速度を落としながら停車させた。
そして方天画戟を持ったままスイを降りる。
別にスイを使わずに学校へと向かうわけではない。もちろんそうしても構わないが、そんなのは王のする事ではない。
「スイの機能を止めているそのバイク、破壊させてもらおう」
「させると思うか?」
『ていうかマイスターが負けたら私に被害が及ぶ前に妨害電波は止めますから』
「……バラすなよ、おい」
なかなか物分りのいいバイクだ。俺に対峙する時点で頭が回るとは言い難いがな。
「しかしなんだその武器は。『青竜偃月刀』だと? お前にはとても合っているとは言い難いぞ!」
「他にもいろいろあるが、そっちの武器に合わせただけだ」
先ほどから奴が持っていた武器。偃月刀の刃に施された青竜の紋様からして、それは青竜偃月刀だった。
しかし愚かな選択をしたものだ。
俺には、奴が武器の訓練をした事が一度も無いという記憶があるのだから。
「選んだのは貴様だ。さぁいくぞ!」
一息に近づき方天画戟を振るう。
風を切り裂き大地を砕くその一撃は……
「うぉおおっ!」
柳司が全力で振るった青竜偃月刀によって相殺された。
俺がダメージを受けていたとはいえ、僅かに押されながらも一撃を受けきったことは評価しよう。
自己強化技がどの程度のものかはわからんが、かなり身体能力が水増しされているようだ。
「……いや、どちらかと言うとこの感じはあれだな。お前自身の力を増幅させているのではなく、他から力を持ってきているのか」
「流石にバレるのも早いな。ずっと一緒に過ごしてきたんじゃ当然だが、戦いにおけるセンスが違いすぎる……!」
なにやら勝手に悔しがっているようだが、俺は褒めてやっているのだぞ?
周囲のエネルギーを利用してまで勝とうというその心意気にな。
「まぁ俺は細かいことは気にしないタイプだからな。お前がどんな事をしようと関係ない」
それら総てを飲み込んでこその覇王だ。
故に――
「勝つのは俺だ!」
青竜偃月刀を構える柳司に向けて、方天画戟を用いた十数回の乱打を叩き込む。
最初の数回は防げていた柳司だが、結局は防ぎきれずにバイクに向かって吹き飛んだ。
「……この程度か」
思わず落胆のため息がでる。
先ほどまで感じていた力の波動は感じない。
楽しめそうだと思ったのにこの肩すかしは流石にいただけんぞ。
そう思う俺の前で、青竜偃月刀を支えにしてよろよろと柳司が立ち上がる。
「まだだ……!」
「……む?」
「まだ終わっていないっ! おおおおおおっ!!」
妙な事が目の前で起きていた。
雲散霧消した柳司の気が、再び回復し始めている。
しかも、先ほどの比ではないほどに強大な気配も感じられる。
「なんだ?」
確かに先ほどまでも赤く光る気を鎧のように纏ってはいたが、今度は規模が違う。
しかも全身に薄く光らせるだけだったそれは、明らかな形となって俺の目に映っていた。
まるで全身に、赤い龍が巻きついているかのような……
「やはり、お前の正体は……!」
「いくぞ……赤龍招来《ドラゴンインストール》!」
「ぬぅっ!?」
巨大な赤の気を纏った柳司がいきなり武器を捨てて突っ込んできて、俺はそれにカウンターで合わせて武器を振るった。
だが間に合わず、超至近距離に入る事を許してしまった。
「やるな柳司! それが貴様の奥の手か!」
「十秒程度だがな!」
「ぬかせ!」
武器を振るうには適さない距離にいる柳司に膝蹴りを放つ。
柳司はそれを両腕で防ぎ、それでも威力を殺せずに宙に浮いた。
だが、俺がそこに追撃をかける前に、奴は懐からU字型のを取り出した。
「なんだそれは!」
「言ったはずだ! 俺は誰も傷つけない!」
そう言い、予想外の速度で動いた柳司は一瞬で俺の四肢を道路へと束縛した。取り出した道具は、俺を道路に縫い付けるためのものだったらしい。
なるほど、傷つけたくないとは言っていたが、これが目的だったか。
だが詰めが甘いな。
俺を束縛しておけるだけの強度は、この道路にはありはしない!
「先刻承知だ!」
「なに……?」
「気門封じ!」
そう言って手で腹を抑えられた途端、全身に重圧がかかる。
ハッとして見上げた柳司の顔は、いつも通りの笑顔に戻っていた。
「木は土に、土は水に、水は火に、火は金に克つ!!」
一言一言に込められた力が、束縛された四肢の自由を奪っていく。
これは……封印技か!
「ここからが俺のオリジナルだ! 森羅・五行封――!」
「な、め、る、なあああああ!」
「何っ!?」
王を縛るだと!? 封じるだと?!
そんな事があってたまるか!
例えお前が眠っている力を引き出したとしても!
周囲全ての自然エネルギーを使いこなしたとしても!
この俺の力を超える事はできん!
「はあああああああああああっ!」
「そんな馬鹿な!」
「柳司よ! 俺を常人の尺度で測りきれると思っていたのか!」
縛り付けられた道路から四肢を右腕を引き剥がし、未だに俺の上に乗っていた柳司の襟首を掴んで道路へと叩き付ける。
既に奴の体は、赤い気は纏っていなかった。
「ぐ、はっ」
「ふん! こんな安物の金属で俺を縛りおって」
残りの左腕と両足からU字の金具を引っこ抜き、着衣を払いながらその場に立ち上がる。
「さっきとは立場が逆になったな。まぁ、よくやったと褒めてやろう」
「くそ……」
「じゃあな」
まだ懲りずに立ち上がろうとする柳司に蹴りを食らわせ、俺はスイへと飛び乗った。
『お疲れ様です。清楚』
「あぁ。やはり柳司はなかなかに骨があった。楽しめたぞ」
今まで戦った壁越えの連中に比べれば力量でかなり劣るにも関わらず、ここまで俺に肉薄した。
それに最後の強化、俺が全快ならば何の問題も無かっただろうが、壁を越えるレベルにまで達していた。
今後が楽しみだ。
「おいそこのバイク、さっさとスイに機能を戻せ」
『仕方ないですね。今すぐトライアルシステムを解除します』
『……機能、回復しました。それでは清楚、川神学園に向かいますか?』
「うむ。すぐに向かうぞ。行け!」
その場に柳司と赤いバイクを置いて、俺は川神学園へと向かった。
柳司はこれで諦めるだろうか?
その心が折れていないのならば、再び追ってくるがいい。
王たる俺は、寛大なる心をもってそれを許そう。
後書き
第二章最終話という事でいつもより増量してます。
※奮闘していた柳司君ですが、もしも項羽にダメージが無かったら最初の一撃で吹っ飛んでます。
ちなみにタイムラグですが、初めに項羽が不機嫌だった分百代が遠くまで飛ばされ、帰ってくるのに時間がかかるようになった分だけ柳司が頑張りました。
つまり百代が戻ってくるタイミングと項羽が学園に戻るタイミングは変わりません。
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