BLUEMAP 改訂前

　果てしなく広がる空と海のあを。その狭間から船は、ただ一直線上をめざす。
　凪いだ風の中、金髪を後ろで束ねた黒服の少年がいた。どこか冷めたような目で背景を見つめる。蒼の瞳は特徴的な丸眼鏡から、湾曲した世界を見ていた。


　突如、背後から女の声。「は～い、ジャック。お・は・よ！」陽気にやってきたのは、髪を後ろで高く結んだ女。少年の背中に触ろうとした、刹那――
「ひっ」ポニーテールの女は、思わず声を上げる。恐ろしいほど冷ややかな目で、少年に睨まれたのだ。言葉を発するでもなくその目は告げた。
『触るな』
「わっ、悪かったってば！　そんな……汚いものを見るみたいにこっち見ないでよっ！」女は心底冷や冷やした苦笑いを浮かべ、後ずさりした。
　そうしているとその後ろから、もう一人。「何なに～？　何の騒ぎ？」またも意気揚々とやってきた人物。
「なんだか楽しそうじゃな～い？　アタシも混ぜて～？」
「団長！？　聞いてよ～！」女はその人物に泣きついた。「ジャックの奴ったら、またあたしのこと汚いもの扱いするの～っ！」
「そう嘆かないの、ミカエラ」その人物は、よしよし、と女のおでこを撫でた。「ジャック、彼女に悪気はないのよ。許してあげてね？」
　金髪の少年――ジャックは一旦視線を下に逸らすが、『仕方ない』とでもいった風に視線と眉を上げ、冷やかにだがようやく言葉を発した。「女は嫌いなんだ。触られるなんて、特にね。」それは二人のどちらかに言うわけでもなく。
　言い放ち、ジャックはその場から去った。そして自室へと戻るのだった。
バタン――ドアの閉まる音がし、その場の空気の静けさをより強調する。
「大丈夫よ、ミカエラ」
ミカエラと呼ばれた女は肩をすくめ、“お手上げ”のポーズで軽く微笑んだ。
「ま、あたしだけにじゃないなら許してあげる、かもね」悪戯っぽくウィンク。「……それにしても、潔癖症なのに海賊なんて、よくやってるわ。そう思わない？　ね、だんちょ？」
　その人は、何の問題も心配も無いかのごとく微笑んでいた。
「天は人を最初から、完璧なものにはしないんだよ。そんなものの集合体だから、人は人を好きになるし、人生はきっと楽しくなるのさ。大丈夫だよ」その人は、隣人の肩を優しく抱き寄せた。

　団長と呼ばれるその人こそ、かの偉人の孫――船長『ライラ・リック・リリー』なる人物。そしてその盗賊団とは――世間を揺るがすこととなる、飛空盗賊団『マスカレード』である。

「明日の計画の内容なんだけど――」
　一味の者は何やら会議室のテーブルを中心に集まっていた。筒状に丸まっていた地図が、がっしりとした円卓いっぱいに広げられる。そこで団長はある計画を口にした。
「狙いは、『花の都・オレリア王国』の財宝だ。まずは、王女レナ姫を誘拐する！　――」




　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　－第四幕へ－ 

宙船は、かなしからずや。