久遠の神話
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第四十八話 会食その十六
「それを考えさせるものです」
「あまりものまずさにですか」
「調味料を使いませんので」
これも上城が工藤達から聞いた通りだった。
「ソルトとビネガーだけですね」
「お塩とお酢だけですか」
「しかも種類は至ってシンプルです」
塩や酢の種類もだというのだ。
「合衆国ではそれこそ両方共ふんだんな種類がありますが」
「お店に行けばですね」
「ビネガー一つ取ってもかなりです」
相当な種類があるというのだ。
「葡萄や林檎から作ったものもあります」
「その辺り日本と同じですね」
「そうですね。この前日本のスーパーに行きましたが確かに」
「種類多いですよね」
「かなりですね」
スペンサーは日本のスーパーでその酢の種類の多さを見たのだ。
「ソルトもまた」
「僕も母に言われまして」
上城が塩や酢について学んだのは彼の母からである。
「こんなに種類があるんだって驚きました」
「はい、合衆国も日本もソルトやビネガーの種類は多いですね」
「けれどイギリスにはなんですね」
「紅茶。アメリカ人が飲まないミルクティー以外はありません」
つまり論外だというのだ。
「あのまずさは陸軍以上です」
「食べられるものありますよね」
「飼料として」
家畜のそれだというのだ。
「いえ、アメリカなら豚の餌としても通用しませんね」
「そこまで酷いんですね」
「このステーキにしてもです」
四人はそれぞれ料理を取ってそれをテーブルの上で食べていた。スペンサーはよく焼けた赤みの肉を食べながら上城に話す。
「こうしたいい焼き方ではないです」
「どんなのですか?」
「焦げています」
一言で充分だった。
「黒焦げです」
「ステーキはそうなんですか」
「ムニエルにしましても」
上城はムニエルを食べている、スペンサーはそれを指し示して言うのだ。
「生焼けです」
「そんなのが普通に出て来るんですか」
「それがイギリスです」
「そうですか。味がないうえに」
「焼き加減も酷いものです」
「じゃああれですか?」
上城はここまで聞いて日本風にこう表現した。
「漫画の」
「日本のですね」
「はい、日本の漫画に出て来る料理の下手な女の子」
「日本の漫画は合衆国でもよく読まれていますよ」
スペンサーはステーキを口に入れながら食べていく。見ればステーキの上にチーズを乗せていてそのチーズが心地よい感じに溶けてきている。
「その中には料理下手の女の子がよく出てきますね」
「日本の漫画の定番の一つでして」
「そうですね。私も日本の漫画はよく見ますが」
「そうした女の子よく出ますね」
「はい、あのレベルです」
「それがイギリスですか」
「あの国でスポーツの国際大会をすれば」
実際にオリンピックが行われている、三回目だから記録である。
「イギリスの選手団以外は不幸とはどんなものか知ります」
「凄い話ですね」
「日本の様なことは決してありません」
悲しいかな断言だった。
「例え何があろうとも」
「嫌な太鼓判ですね」
「ですが事実なので」
「そうですか」
「アメリカも最初は味には無頓着な方でした」
そのことに定評があった。食べることは大量にあればそれでいい、フロンティアの国はそうだったのである。
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