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今時のバンパイア

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第十章

「そのことはね」
「そもそも吸血鬼が実在すると信じていてもこの国に来ていると考える者がいるでしょうか」
 蝙蝠の一匹が疑問を呈する声で桃香に問うた。
「日本に」
「まあいないでしょうね」
 吸血鬼といえばルーマニアだ、幾ら桃香のルーツがそこにあってもだ。
「日本だとね」
「この国の吸血鬼はろくろ首でその首が飛ぶものですから」
「我々とは違いますので」
「あっちの方が怖いと思うけれど」
 首が鬼の形相で飛んで来て襲い掛かって来るのだ、ただ首が延びて驚かせるだけの普通のろくろ首とは違うのだ。
「日本の吸血鬼の方がね」
「そうですね、まあご主人様の一族がいるとは想定されていません」
「ましてや十字架を胸に飾り大蒜が好きなぞと」
「塩水の中で泳ぎシャワーも浴び日光の下にいても何もない」
「それで何故吸血鬼なのか」
「ついでに言えば血以外の栄養を見付けてるってね」
 止めにこれだった。
「まあ普通はね」
「誰も吸血鬼には思いません」
「到底」
「そうよ、吸血鬼ってのは血を吸うからよ」
 文字通りそれに尽きた、桃香はここでもこのことを言ったのである。
「闇の中でね」
「少なくともお嬢様は全く違います」
「何もかもが」
「じゃあいいわね、あいつこのお家に連れて来るから」
 それはもう決めているというのだ。
「じゃあいいわね」
「はい、それでは」
「我々はこのまま隠れてですね」
「その方をお迎えすればいい」
「そういうことですね」
「そうよ、あんた達はペットよ」
 その彼等を見上げて告げる。
「私の可愛いペット達よ、いいわね」
「使い魔でなくですね」
「そちらになりますね」
「いつもの通りよ、蝙蝠のペットでもまあいいでしょ」
 ある程度自分に言い聞かせていた、その蝙蝠達を見上げつつ。
「とにかく吸血鬼だってことはこっちから言わないとわからないんだからね」
「では、ですね」
「その方をお招きしますね」
「おもてなしのお料理はね」
 今度は料理の本を開いた、そして話に出すメニューは。
「そうね、パエリアとかがいいわね」
「また大蒜ですか」
「それを使われるのですか」
「好きだからね」
 だからだというのだ。
「精がつくしいいでしょ」
「はい、それでは」
「そのお話はそれで止めて」
「ええ、時間ね」
 ここでふとこうも言った桃香だった、そして。
 ベッドの枕元にある赤い目覚まし時計を見る、そのうえで言うことは。
「じゃあ今からね」
「夜の町に出ましょう」
「その空に」
「今日も飛ぶわよ」
 立ち上がってこうも言った。
「気持ちよくね」
「それで蝙蝠になられますか?霧になられますか?」
 蝙蝠の一匹が問う。
「どちらになられますか?」
「そうね、どちらでもいいけれど」
 それでもだというのだった、そして。
 服を着替えた、黒いタキシードにマントというハリウッドの吸血鬼の姿になった、その姿で楽しげに笑って言うのである。 
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