言われるうちに
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第四章
「紳士ね」
「そう、あの子レディーファーストよ」
「ただあんたが好きなだけでね」
「迷惑をかけないようにしてるから」
「そうした子だからね」
「性格もいいのよ」
このことは間違いなかった、とにかく拓也は千明が好きなだけなのだ。
迷惑をかけない様に注意しているし悪いこともしない、今も千明を見てそれだけで幸せになっているのだ。
それでだ、周りも言うのだ。
「だからあんたにとっても悪くないでしょ」
「っていうか一途に想われてるのよあんた」
「どう?悪い気してる?」
「あんなに好きになってもらって」
「それは」
そう言われるとだ、千明も怯んだ。それで困惑している顔で言うのだった。
「やっぱりね、想われてるってね」
「悪い気しないでしょ」
「むしろいいでしょ」
「ましてその相手が結構以上にいい子ならね」
「いいって思えるでしょ」
「それはそうだけれど」
ここでも拓也をちらりと見ながら言った。
「私はね、あの子はね」
「タイプじゃないのね」
「やっぱりそう言うのね」
「だから仕方ないじゃない」
今は自分に言い聞かせていた、そうした言葉だった。
「タイプじゃないと、どうしてもね」
「あれだけ想われててもなのね」
「自分のことが好きだってわかっててもなのね」
「そうよ、受け入れられないものは受け入れられないの」
どうしてもだというのだ。
「だからね」
「ううん、そうなのね」
「あんたも強情ね」
「まだそう言うなんてね」
「いい加減にって思うけれど」
「駄目なものは駄目なの」
何処かの今はすっかり凋落してどうにもならなくなっている左翼政党の何代目か前の代表みたいな言葉になっていた。
「私としてもね」
「やっぱりヘーシングさんかプーチン大統領なのね」
「そうした人達が好きなのね」
「だって彼茶道部だし」
千明は彼の部活のことも言った。
「男はやっぱりあれでしょ」
「筋肉、格闘技っていうのね」
「それだっていうのね」
「そう、だからね」
それ故にだというのだ。
「あんたもいいわね」
「やれやれね」
「それでいいわよね」
まだ言う千明だった。
「私、駄目だから」
「まああんたがそう言うのならいいけれどね」
「それならね」
周りは千明を咎めなかった、むしろ温かい笑顔で言うのだった。
「拓也君に応えないのなら」
「それならね」
「そうよ、付き合っても上手くいかないから」
この考えからだ、千明はあくまで言う。
「だからね」
「やれやれね、拓也君も可哀想ね」
「幾ら頑張ってもだから」
「あんなに好きなのに」
「それでも報われないって」
「何よ、皆あの子の肩もつの?」
千明は皆の言葉に今度は彼女達に困惑して言った。
「どうしてなの?」
「いや、だってねえ」
「あそこまで一途だとねえ」
「やっぱりね」
「応援したくなるから」
だからだというのだ。
「それでよ、私達拓也君を応援してるから」
「あんたも素直になりなさいって」
「そうすれば楽になるから」
「素直って何なのよ、私はね」
千明はあくまで言おうとする、だがだった。
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