ゲルググSEED DESTINY
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第十九話 新兵器
新型艦ラー・カイラムのルートはどうやらディオキア基地に決定したらしい。ラクスの偽者が現れてフリーダムがディオキア基地の防衛部隊に甚大な被害を与えたとのこと。その為、僅かな間でも戦力を増強しておかないと連合に攻められては堪ったものではないだろう。
ていうかラクスの偽者って……明らかにそっちの方が本物なんだろうな、と思いつつ艦の進路を定めて移動する。連合の捕虜であるステラは今の所、容体の悪化はしていない。
応急処置みたいなものとはいえ艦内にある薬で多少の治療行為を行ったおかげだろう。
「シン達の方は大丈夫かね?」
一応はマルマラ海の港に到着していた時に修理と改良、武装の取り付けなどを終わらせている。特にハイネのグフには武装も追加しておいた。
「まあ何にせよ、あいつ等にとっては正念場だろうな」
デイルという戦友が死したことによって起こるのは感情の暴発ともいえるものだ。それが復讐心とか怒りとかになるとしても、哀しみや悲観めいた感情として発露するにしても大抵は悪影響を及ぼすものだ。ごく稀にそれが良い方に転じることもあるが、そういったものは後々まで引きずってしまう。
「ああ、やっぱり俺も残るべきだったかな?でも、俺がいたからって止める事が出来るかわかんないしな」
既に決まったこととはいえ頭を悩ませるような出来事だ。ともかく今はディオキア基地に行って早いとこやる事終わらせてミネルバに合流すべきだ。
◇
ガラスのチェスが置かれた一室でギルバート・デュランダルはデータを見ながら独白していた。
「ラクス・クライン―――まさかあれほど大胆な行動を起こしてくれるとはな。しかし、キラ・ヤマトとラクス・クラインが離れたというのは僥倖か?」
椅子に腰を下ろしながらそう呟くデュランダル。彼にとって最大の懸念ともいえる二人の存在。それがそれぞれ別行動をするというのなら彼としても幸いと言えるべきことだといえた。
「――――――これは少しばかり厄介だな」
そして連合の機体であるデストロイのデータを見ながら彼は機体の性能を見て懸念する。下手すれば既存の兵装では対応できなくなるであろう装備、VPS装甲と仮名称だがIフィールドと呼ばれるもの。理論上、射撃系統のビーム兵器を総て無効化するものらしい。ジェネレータ出力の関係上、大型化は避けられなかったようだが元々大型MSであったため大した問題ではないようだ。
オーブの個人研究室にあった理論だけのデータらしかったが二年かけて連合が開発したようだ。構造や必要な材料の関係上量産は不可。MSやMAに搭載するにしても規格サイズ上、デストロイクラスにしか搭載できない。艦にも取り付ける案があったらしいがこれもまた構造上、全体をカバーすることが出来ないことから不可能だったらしい。
しかし、この二つの組み合わせによって生まれるのは絶対的な防御力だ。実弾もビーム兵器も効かないとなればこれほど厄介な兵器はないだろう。弱点といえるのはIフィールド発生装置の大型ジェネレーターがむき出しなことだろうか。幸い大型ジェネレーターはVPS装甲がされているわけではなく(出来なかったのだろうが)、そこを狙えばまだ勝機がある。
「クラウ・ハーケン――――――本当に君という存在は一体何だというのだろうな……」
遺伝子データを見ても彼に才能はない。いや、正確にいうならばここまでのことをする才能がないのだ。彼がイレギュラーに過ぎないものだとしても、そのイレギュラーの原因がわからなければデスティニープランを完璧にすることは出来ない。何故なら、それは遺伝子以外の何かが要因になっているということなのだから。
「SEEDとはまた違った異質な存在か……しかし、皮肉だな。私の計画に穴を作ったのが彼ならば、私の計画を促進させたものまた彼なのだから―――」
チェスの駒を一つ動かす。動かしたのはただのポーン。しかし、それは敵陣地の最奥に来ている。つまりプロモーション、昇格によって自由な駒になれるということ。
「このポーンのように私に可能性を見せてくれるのかね?クラウ・ハーケン―――」
そう言って、笑みを浮かべながら彼はデータを見続けていた。
◇
『未だに艦の一つ落とせないとはどういうことだ!』
ジブリールは通信越しにネオに対して叱責していた。ネオ自身も甘んじてそれを受け入れており(というよりも聞き流しており)、反省の態度を見せていた。
「申し訳ないと思っております。しかしながらミネルバはザフトの最新鋭艦。戦力も多く、中々落とすことも出来ずに―――――」
『言い訳はいらん!大体、民衆は愚かとしか言いようがない。コーディネーター共が、我らナチュラルに本気で手を差し伸べるなどあるはずもないだろう!』
「ええ、おっしゃる通りです。ですが、比較的善政を敷くことによって民衆はコーディネーターを受け入れているらしく、このままでは連合は民衆からの支持を失うことになりかねません」
『フン、何も理解できずコーディネーター共に尻尾を振る様な輩はいらないのだよ。デストロイを見ただろう?あれで我らに刃向う異分子を排除してやればいい』
デストロイでナチュラルごと虐殺しろと、そうジブリールはいう。ネオはその言葉を聞き、あまりの非道さに反吐が出るような思いをする。ステラがいなくなったことも含めて神経がささくれているのだろう。
「……そうですね」
『不満か?愚昧な民衆などねいくらでも沸いてくるものだ。そうやって民衆を一度真っ白な状態に戻してやるべきなのだよ。早い話がやり直すだけだ。そうすれば再び反コーディネーター思想を植え付けることも出来る。折角減らす人口だ。その後も含めて有意義に使ってやった方が良いに決まってる』
何が有意義にだ、と思うネオ。しかし、思っても口には出さない。出したところで自身に口出しする権限などないのだ。精々反感をくらって自分が処罰を受けるくらいだろう。
『君のミネルバを落とすにしろ落とせないにしろ、次の作戦はデストロイを使ったものだ。これまで落とせなった以上、期待はしていないが、かと言ってこれ以上無様な真似は曝すなよ』
どちらにせよそれは落とせと言ってるようなものだ。期待してないなんて言ってるが実際に落とせなかった時は面倒なことになるのだろう。
「ええ、肝に銘じておきます」
そうして通信が途絶える。何とも溜息をつきたくなる状況だ。ステラの生存は絶望的だろう。彼女が仮に捕虜になったとしてもザフトではおそらくまともな治療を施すことができない。
「弔い合戦にもならんがな……」
次の戦いでミネルバを落としてみせる。そう決意しながらネオは部屋にステラの数少ない持ち物であった水槽を置いた。
◇
タケミカヅチではムラサメやアストレイ部隊の再編も終わり、ユウナはネオに作戦の在り方を伝える。
「どうやらミネルバが動き出したようだね」
『ええ、そのようですね。分かっていると思いますが、今回もあなた方にお任せしてよろしいですよね』
「ああ、勿論わかってるさ。貴方達があれに被害を受けたせいでこっちが責任とれって話なんでしょ?」
あれ―――つまりアークエンジェルで受けた被害があるからこちらはしばらくは動く気はないぞという意味だ。あれはオーブに居たものなんだからオーブが責任を取れといってるようなものである。
『聡明ですね。流石はユウナ殿。では、アークエンジェルに関しても―――』
「ッ、分かってるよ!」
『そうですか。くれぐれもそのお言葉を忘れずに』
通信が切れた所でユウナは不機嫌な顔つきになり悪態をつく。
「クソ、あいつ等好き放題やってこっちの邪魔ばっかりして……カガリもカガリだ。攫われた後にあんなこと言うなんて」
アークエンジェルに対する愚痴を呟きながらユウナはこれからのことを考える。ミネルバを落とす分には策はある。しかし、アークエンジェルが現れればどうやって撃退するのか。あくまでも撃退だ。あれは敵だというアピールを見せれば連合もしつこく言うことはないだろう。無論、嫌味の一つや二つは言われるだろうが。
偽者だと前回は言ったが本物の可能性は高いのだ。何せ結婚式の際、カガリを目の前で連れ去ったのはあのアークエンジェルとフリーダムなのだから。どうしようもない状況なら止む得ないが、国家元首―――ましてやカガリを落とすのは自分とて避けたい。そう思い、心の中で頭を抱えているとトダカ一佐が尋ねてくる。
「しかし、ユウナ様、ミネルバに対して勝算はおありなのでしょうな?」
トダカ一佐は不機嫌な様子を隠さずにユウナに聞いてくる。今のうちに聞いておかねば、いざ戦闘が始まって横合いから指示を出されても困ると思っているのだろう。
「ナンセンスだね、君も。そんなことはわかってるさ。まずは母艦の足を止めるよ。あれが動けなくなればどうしたって敵のMSだって動きが制限される。そこを狙って艦を潰す。そうすればMSだけじゃどうしようないさ。
これで、ミネルバを討てれば、わが国の力しっかりと世界中にも示せるだろうねぇ。できるだろう?」
作戦の内容自体は悪くはない。武装面でもその方向に対応したものだ。トダカ一佐も納得せざる得ない状況である以上、ユウナの指示に従う。
「ご命令とあらば、やるのが我々の仕事です」
◇
「これがグフの新装備ね―――実際の所どうなの、役に立つわけ?」
ハイネがグフのシールドに装備されたガトリング砲を見ながら近くにいた整備士に尋ねる。
「ええ、接近戦向けのグフは距離を取られてしまえば十全に性能を発揮できません。ですので中距離用の火力は必要となります。接近戦での盾の取り回しの使い難さもガトリング砲自体はパージできるもようです。これは前回のマーレさんの機体からデータを抜き出してパージしやすくしたとか」
「ふーん、ま、俺からしてみれば武器が増えるのは良いことだし、ありがたく使わせてもらうとするか」
ハイネはグフに乗り込み、出撃準備を完了させる。他のメンバーも既に用意自体は完了しているようだ。ショーンなどはいち早く機体に乗り込んでいた。
「こりゃちょっとまずいかな?」
ショーンの今の状態はあまり好ましくないと言える。怒りに身を委ねれば状況を見定めることが出来なくなるからだ。ハイネはショーンの行動に注意するべきだと判断する。
「ま、今回はお守り役かな?あのアークエンジェルが出てこられたら話は変わるだろうけど……」
ハイネとてアークエンジェルに対する怒りはある。見境なしに機体を次々と落としていって、デイルがやられる原因を作った相手なのだ。とはいえ自分はフェイス。状況は冷静に見定めなければならない。
ミネルバの戦闘が始まる。相手は前回同様オーブ艦隊と連合。アークエンジェルが介入してくる可能性は十分ありえる。
『各機出撃準備を開始してください』
オペレーターであるメイリン・ホークからの発進指示が出る。しかし、直後轟音が鳴り響いてミネルバが衝撃で揺れる。
「何だってんだ!?一体何があった!」
通信を開いて何が起きたのかを確かめる。ミネルバが先制攻撃を受けたことはわかるがそれにしても大きい衝撃だった。
『艦損傷、被害甚大!空走不能、不時着します!?』
次々と聞こえてくる悲痛な情報に思わず舌打ちする。
「チッ、早いとこでるぞ。敵を艦に捕り付かせるわけにはいかない!」
『『『了解!』』』
シン達もハイネの言葉を聞いて行動に移す。
「いきなり色々とピンチだが、ハイネ・ヴェステンフルス――――――グフ、出るぞ!!」
オレンジカラーのグフが颯爽と出撃する。その後を追うようにセイバーやブラストインパルス、ゲルググ部隊も発進した。
『クソッ、俺とレイ、ルナマリアは艦隊の防衛に回るぞ!あの戦闘機もどきを近づけさせるなよ!』
マーレがレイとルナマリアを連れてミネルバ周辺で防衛態勢に入る。ハイネとしてもその選択は助かった。空中で移動できる部隊が攻勢に回った方がまた勝機がある。だが、問題が無いわけでもない。
『落ちやがれ―――!』
ショーンがいち早く軍勢に突っ込んでいき敵MS隊と戦闘を開始しだした。今はまだ囲まれていないが、あれだけ突出すればそう遠くないうちに回り込まれて叩かれる。
『ショーン、出過ぎるな!囲まれてるぞ!』
『煩い!デイルの仇を討ってやるんだ!』
アスランが諌めようとするが逆効果だ。ますますショーンは敵陣へと突っ込んでいく。
「クソ、アスラン!ショーンは俺に任せろ!アスランは指揮を取れ!」
『クッ、わかった。シン!』
『分かってますよ!俺もショーンを見てりゃわかりますって』
流石のシンも敵陣に突っ込める状況ではないと察して、アスランの指示に従う。ハイネは突出し続けるショーンを追って援護する。
「ったく、面倒なことになってきたぜ!」
ハイネのグフに向かってくるムラサメ部隊に向かってガトリング砲を放ちながらそう叫ぶ。ガトリングの弾幕を躱せなかったムラサメの一機は吸い込まれるように弾丸に貫かれて爆発する。あっさりとムラサメを撃ち抜いたガトリング砲の威力と使い勝手の良さに思わずハイネは口笛を吹く。
「いいじゃねえか、この武器。これなら――――」
そう言ってMS状態に変形して三機が斉射してきたところを反転しながら躱し、ガトリングを逆にお見舞いする。すぐさまムラサメは回避行動を取るが、反対の腕でハイネはグフご自慢のスレイヤーウィップを使い、ムラサメを捕らえる。
捕らえられたムラサメはそのまま横殴りに吹き飛ばされ、その先にガトリングを回避しようと移動していた別のムラサメにぶつかり吹き飛ばされる。
「止めだッ!」
そのまま四連装ビームガンで装甲を貫いて二機を破壊した。その様子を見ていた残った一機のムラサメがサーベルを構え、突撃してくる。
「このグフに接近戦を挑むってか?思いっきりの良さは認めるが―――甘いんだよッ!」
シールドからビームソードを抜出、一気に加速する。ムラサメと交差した瞬間、ハイネはシールドでビームサーベルを受け流しながら、ビームソードでコックピットごと走り抜けるように切り裂いた。
後書き
タイトルの新兵器に当たるのはラー・カイラム、デストロイ、グフのガトリング砲、描写は無いけどオーブの八式弾です。
ハイネのくだりのBGMは当然イグナイテッド。あの疾走感が良いよね。
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