ファルスタッフ
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第三幕その六
第三幕その六
「この赤鼻が!地獄の炎がいいかタールがいいか硫黄がいいか!」
「どれも御勘弁を」
「この馬鹿者!あつかましい役立たずが!」
完全に起き上がってバルドルフォの首根っこを掴んで喚きだす。
「古ぼけた矛槍に毒蜥蜴に無頼漢の盗人!わしの言ったことに嘘偽りがあるか!」
「どうかお許しを」
「・・・・・・全く」
自分のことは見事に棚に上げてカリカリとしている。
「何かと思えば。全く」
「まあまあ」
「これも余興」
「余興でこんな目に遭うのか」
ファルスタッフは皆をねめつけながら抗議した。
「何がどうして。わしが何をしたのじゃ」
「思いきりしていますわ」
「全く」
「むむ、しまった」
アリーチェとメグが二人並んでいるのを見て真相を悟った。
「ばれたか」
「女を馬鹿にすると怖い」
「そういうことですわよ」
「そういうことか。成程な」
「全ては陽気な女房達の復讐」
「御覧遊ばせ」
二人は笑顔でファルスタッフに話す。ここでフォードが彼に尋ねてきた。
「それでですな」
「うむ」
「貴方の頭に角を乗せられたのはどなたですか?」
「それは」
「はい。私です」
「むむっ」
ファルスタッフはクイックリーの姿を見て眉を顰めさせた。フォードもわかって質問したのだ。中々意地が悪い。
「そういうことだったのです」
「わしは完全に騙されたのだな」
「そうです。普段は騙す立場の方がしてやられたと」
自分で言う。
「そういうことだな」
「左様、皆陽気な復讐でのこの」
「夏の夜のささやかな復讐」
「真夏の夜の夢だな」
ファルスタッフは少しおどけてこう言ってみせた。
「ということはだ」
「まあそうですな」
「有り触れた奴はどいつもこいつもわしを笑いものにしてそれを誇りにしよる」
ファルスタッフはここまで聞いたところでわざと勿体つけて言ってみせた。
「しかしわし以外の誰もそれに相応しいほんのひとかけらの機知さえ持ってはいない」
「そうだったのですか」
「そうじゃ」
かなり強引にそういうことにしてしまった。
「そんなあんた達を鍛えるのがわしじゃ」
「貴方ですか」
「わしの機知は皆を賢くするのじゃ」
随分と大袈裟なことを言う。それが一段落ついたところでフォードが出て来た。アリーチェ達はそれを見て遂に出たか、と心の中で思った。
「さて、皆様」
「どうされましたか?」
「一つよい知らせがあります」
「お知らせですか」
「はい、この愉快な仮面劇をフィナーレで飾りたいと思います」
にこやかに笑っての言葉だった。
「妖精の女王の結婚式で」
そっとバルドルフォが出て来た。そこにはカイウスともう一人いた。よく見ればそれは妖精の服を着たバルドルフォである。クイックリーがこっそりと着替えさせていたのだ。
「さて、ここに」
「おお、確かに」
「女王と修道僧が」
「また面白い組み合わせですな」
皆それを見て笑顔になる。フォードは仲人の場所で話す。
「ここに純白の衣装を着てヴェールと薔薇の冠を被った女王が花婿と共にいます。皆様祝福を」
「待って、あなた」
ここでアリーチェが出て来た。
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