ファルスタッフ
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第三幕その五
第三幕その五
「何だこいつは」
「起こそう」
二人はさらに言う。
「おい、起きろ」
「御前は何者だ?」
足で小突くが反応はしない。姿を見ないように必死なのだ。
「起こすか?」
「重いですよ」
フォードとカイウスが言い合う。
「あまりにも重い」
「何なんだ、これは」
二人が持ち上げようとしているその間に。アリーチェはそっとフェントンとナンネッタに近寄る。そのうえで二人に対して囁くのだった、
「隠れなさい、うちの人達に見つかったらことよ」
「そうね。それじゃあ」
「私が呼ぶから」
ナンネッタが頷くとクイックリーも二人に言ってきた。
「その時に出て」
「わかったわ」
「じゃあその時に」
「ええ」
二人はそれに頷く。そうしてその場から消える。今度はバルドルフォとフォードが子供達を集めてけしかけるのだった。
「そら、そのフォークやいらくさで突き刺してやれ」
「容赦はいらないぞ」
「えい、この太っちょめ!」
「早く起きろ!」
子供達もふざけながらその手に持っている悪魔のフォークやいらくさでファルスタッフを突っつく。だがそれでも彼は頑張っている。
「起きるものか、決して」
「刺して突っついて」
アリーチェとメグとクイックリーが笑って子供達をはやす。
「噛み付いて引っ張って」
「悲鳴をあげさせるのよ」
「わかったよ」
「じゃあ」
「あいたっ!」
子供達は本当にそうする。噛まれてつねられたファルスタッフが思わず声をあげる。
「止めてくれ、勘弁してくれ!」
「打ち鳴らせ打ち鳴らせ」
子供達は打楽器を鳴らす。カスタネットや拍子木やガラガラを。
「この老いぼれの酒樽を起こしてやれ」
「大きな腹の上で踊りを踊ろう」
「ファランドールを踊ってやろう」
「それでつっつけつっつけ」
「引っ張れ引っ張れ」
「痛い、痛い!」
叫びながらもまだ顔を上げない。そんな彼に皆でよってたかって言う。
「ならず者!」
「ろくでなし!」
「食いしん坊!」
「大酒飲み!」
「太っちょ!」
「悪党!」
全て真実だから恐ろしい。
「跪け!」
「醜い太鼓腹!」
皆ファルスタッフを囲んでさらに言う。それでも彼はうつ伏せになったままだが。
「人騒がせな破廉恥漢!」
「女たらし!」
「三重顎!」
そして彼等はさらに言った。
「反省していると言え!」
「今までの悪事を!」
「わかった、わかった!」
いい加減に噛まれてつねられて突っつかれて言われてで困り果てていたので思わず言う。
「わかったから勘弁してくれ!」
「悔い改めよ!」
「悪事をするな!」
「わかったからもう!」
「では答えろ!」
「答える、答える!」
ひっくり返されて転がさせられてそれでも目を閉じる。その中での言葉だった。
「だからもう」
「よし!」
しかし今のバルドルフォの声を聞いて。ファルスタッフはふと気付いたのだった。
「今の声は」
「むっ、しまった」
「しまったではないわ!」
丁度ひっくり返されていたのでいい具合に起き上がる。言うまでもなく目を開けている。そのうえで叫んでいた男の一人を見れば。それがバルドルフォであった。
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