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アマガミフェイト・ZERO

作者:天海サキ
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十二日目 十二月二日(金)前編

 
前書き
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(……まったく、セイバーは細か過ぎだよ)
 昨日は、家に帰ってからもすぐには休めなかった。美也とライダーの二人と、取り決めをする必要があるとセイバーが言ったのだ。純一も、もっともな事だと思ったのだが……。
(自分がサーヴァントだってこと絶対忘れてるよ。美也なんか話し合いの時から眠ってたじゃないか)
 話の殆どが、セイバーとライダーの間で行われた。純一も会議に加わったが、話は細かいところにまでおよび、口を出せる内容では無かった。純一が、襲い来る疲労と眠気で、最後の方は殆ど何も頭に入らない状態になるのは、必然だった。
(森島先輩と仲良くするなと言ってたくせに、自分はライダーと妙に意気投合してるんだからなぁ)
 豪快に自分の生き方、目標を語るライダーと、不敵な笑みを浮かべながらも妙に楽しそうにしているセイバーの姿が脳裏に浮かんだ。
(ほんと……疲れた……寝よう)
 今は放課後。気だるさを感じた純一は、保健室で横になっているのだった。
 意識が次第に朦朧としていく中、脳裏に不思議な光景が浮かんで来るのが感じられた。
(……あれは、セイバー?)
 映し出されたのは、セイバーが誰かと言い争っている光景だった。
(そういえば、マスターになると、サーヴァントの記憶を夢で見る事があるって)
 教会の夕月と飛羽から、そう言われたのを純一は思い出した。
(これは、セイバーの記憶……?)
 セイバーが居るのは石造りの大部屋。壁には豪華な織物や、金銀に輝き細緻な模様が施された大盾。装飾も見事な長槍等が見目良く飾られている。床に敷かれた絨毯も、息を呑むほど精緻で美しい代物だ。部屋に置かれたどの家具にも、細かな装飾がふんだんに施され、想像を絶する程の高価な代物だと一目で解る。
「ずいぶん思いあがっているのね」
 恨みを含んだ抑えたような低い声が、セイバーに浴びせられた。
(あれ、な、なんで森島先輩がっ)
 二人の女性。一人はセイバー。もう一人は、なんと森島はるかだった。だがはるかの顔は憎しみで歪められ、同一人物とはとても思えなかった。
二人の美女は、共に雅な絹のドレスを身に纏っている。セイバーのドレスは赤と銀。銀の刺繍で描かれた、鳥と狼と光をモチーフにした象形模様が美しい。頭に被っている銀のティアラにも、精密な模様がびっしりと彫られている。彼女は威厳に満ち、一国背負って立つ女君主のようだ。
 対する森島はるかは、青と金。明るい青のドレスには、金糸の複雑な模様が、これでもかというくらい付いている。更に黄金の腕環、金の首飾り、無数の宝石を散りばめたティアラ等を身に付け、さながら古代大帝国の女王といった風情だ。
「何よ、この国の王妃になるからって、澄ました顔しちゃって」
 顔をしかめるはるか。セイバーはやや俯き、暗い表情だ。
「別に、そういう訳では、ないわ」
(ただ、定められし運命を、未だに受け居られずにいるだけ。……私を目覚めさせた勇者。それが誰であろうと、私はその者と結ばれなければならない。けれど、運命はまだ私をなじり足りないようね)
「ふんっ、謀られたことにも気付かない愚か者が、この大国の王妃なんて勤まるのかしらね」
 セイバーが、はっと顔を上げ、はるかを見る。
「それは、何のこと……?」
 憎しみに満ちた目がセイバーを突き刺す。
「教えて上げるわ。あなたを倒したのは、本当は私の夫。これを見なさい」
 森島はるかが、きらりと光る物を取り出した。手の平に乗っているのは、豪奢な宝石がちりばめられ、強力なルーン文字が幾重にも彫り込まれた首飾り。
 セイバーの眼が見開かれた。
「それは、わたしが負けた時に、王に差し上げた物」
「ええ、だからあなたを倒したのは、本当は私の夫だと言ったでしょう。自分の身の程が解ったら、尊大な態度を改める事ね」
 驚愕したまま固まってたセイバーの顔が、歪んだ。頬に流れるものを拭いもせず、セイバーは部屋を出た。
「これも罰だというの? ふふっ、神はもう、わたしを必要としていないという訳ね」
 流れ続ける涙。だが、セイバーの顔が憤怒の形相へと変わっていく。
「まずは確認ね。さっきの話が本当に真実なら……、好きにやらせてもらうわ。もう失うものなど無いのだから」
 身体を震わせ、でも凛とした態度でセイバーは歩み続けた。 
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