ソードアート・オンライン〜Another story〜
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SAO編
第37話 ビーストテイマー
~2024年2月23日 第35層・迷いの森~
そこには、ある5人組のパーティがその森へ来ていた。
彼らの目的はアイテムの採取とレベリング。だが、同じパーティメンバー同士の中で険悪なムードが流れていた。
「一体何言ってんだか……。アンタはそのトカゲが回復してくれるんだから、回復結晶は分配しなくて良いでしょ?」
いや、片方が一方的につっかかっている様に見える。その者は、赤髪の女性プレイヤー。
その真っ赤な髪を派手にカールさせているのが印象的であり、片目が髪で隠れて見えない。名前はロザリアと言う名のプレイヤー。
そして、その挑発相手は、幼い愛くるしい容姿。
この世界では、珍しい女性プレイヤーの中でも更に珍しい年齢の少女。セミロングの髪をツインテールにしており、その可愛らしい顔は今怒りで歪んでいる。
正直、その怒っている表情も可愛いのだが、彼女は、真剣にそして 精一杯怒っているようだ。少女の頭の上にはレアモンスターである《フェザーリドラ》と言う名の小さなドラゴンがいた。
まるで、その上が定位置なのだろう、と思える程自然に。
彼女はこの世界には珍しい《ビーストテイマー》なのだ。
「そう言うあなたこそ! ろくに前衛に出ないのに回復結晶が必要なんですか!?」
ロザリアの不快な物言いに頭にきてそう返していた。
そう、このロザリアは、彼女が言う様に前衛には来ないで、パーティの男達の影に隠れている事が多いのだ。後ろから、不意打ちに近い形で攻撃を与え、経験値だけをかっ攫っていくスタイルであり、彼女じゃなくても、不快だろう。数少ない女プレイヤーだからこそ、男性陣は何も言えない様だった。
同じ女だからこそ、シリカは真っ向から反論をしていたのだ。
「きゅる〜〜!!」
その頭の上のドラゴンも主人と同じように威嚇をしていた。まるで主人である少女の感情を読み取っての行動だった。
「えー? 勿論よ〜。あたし、お子ちゃまアイドルのシリカちゃんみたいに、男達が回復してくれるわけじゃないもの〜? 自分の命は最低限は自分で守らなきゃいけないし? 危ないじゃない」
弁明するロザリア。確かにシリカを守ろうとする行動は多いが、その物言いは本当に鼻につく。まるで自分を否定されているようだからだ。これまでもずっと、自分自身も精一杯戦ってここまで来たというのに。
「むっ!」
「きゅっ!」
キッ、と睨みつける1人と1匹。そんな2人のやり取りを見ていられなかったのか、周りの他の男プレイヤーは。
「おおぃ……2人とも……、やめてくれよ……」
必死に宥めようとするが、止まらなかった。それどころか、男達にとって最悪な出来事が起きてしまう。
「わかりました!! アイテムなんて要りません!」
シリカはアイテムメニューを消すと 更に一歩 ロザリアに近づいて怒声を浴びせた。
「あなたとは絶対もう組まない! 私を欲しいって言うパーティは他にも山ほどあるんですからねっ!」
そう言うと、彼女は。……シリカは、1人で森の方へと歩いていった。パーティを抜ける宣言をし、申請も勿論済ませて。
「ちょっ……シリカちゃ〜〜ん……」
「ま、待ってくれよ~~……」
男達の情けない声が響き渡る。
シリカは、頼まれた形でパーティに入っていた。シリカはその愛らしい姿、そして数少ない《ビーストテイマー》、それもレアモンスターである《フェザーリドラ》をテイムした事でかなり有名なのだ。ロザリアの言葉ではないが、正にアイドルも同然な扱いを受けていており、中々同じパーティになる事が出来ない。
だからこそ、男たちはやっとの事で、同じパーティになれたのに、ショックが隠せられない。
そんな男たちの言葉など全く耳に入らない。不快感しか残っていないのだから。シリカはそのまま、森を突破しようと奥へと入っていった。
シリカは、たとえソロであったとしても、この森を突破、35層のモンスターくらい撃破する事など造作も無いと考えていた。フェザーリドラ、愛称は《ピナ》。
その存在がシリカにとって1番の強みである。
ビーストテイマーならではの、そのモンスターのアシストもあり。そして、彼女自身も戦うためのスキル、短剣スキルも7割近くマスターしている。労せず、主街区まで到達できる―――はずだったんだ。
そう……道にさえ迷わなければ。
~迷いの森~
その森林ダンジョンの名前はダテではなかったのだ。
巨大な樹々がうっそうと立ち並ぶ森は碁盤状に数百のエリアへと分割され、ひとつのエリアに踏み込んでから1分経つと東西南北の隣接エリアへの凍結がランダムに入れ替わってしまうと言う設定になっていた。だから、この森を抜けるには1分以内に各エリアを走破していくか、街で買える高価な地図を確認し、四方の連結を確認しながら歩くしかない。
地図は高価ゆえに、もっているのはリーダーの盾剣士だけだった。
そして、何よりこの森で厄介なところが転移結晶の使用についてだ。この≪迷いの森≫での使用は、街に飛ぶことはできない。ランダムで森の何処かに飛ばされる仕様になっているのだ。
だから、シリカはやむなく奪取で突破を試みなければならなくなった。……だが、曲がりくねった森の小道を、巨木の根っこをを 躱しながら走り抜けるのは予想以上に困難だった。まっすぐに北へと走っているつもりが……エリアの端に達する直前で1分たってしまい、何処とも知れぬエリアへ転送される事を繰り返してしまったのだ。
だから、徐々に彼女は疲労困憊してき……更に日も沈む。
時間はどんどん過ぎ去っていき、遂に夜の闇がこの森を支配してしまった。夜になると、昼間に比べモンスターの遭遇率も遥かに増すのだ。
疲労感も襲ってきている為、シリカは走る事を諦め、運よくエリアの端に転送される事を願いながら歩き始めた。当然、夜だと言う事以外にも、歩きに変えた事で、モンスターから逃げる、と言う選択肢も選びにくくなり、遭遇率も格段にあがってしまう。
そして視界が悪く、敵の不意打ちも受けやすくなる。
悪循環がシリカを襲っていた。
ピナのおかげで、始めこそは大丈夫だったのだが、時間が経つにつれて所持していたアイテム。《ポーション》《回復結晶》が徐々に底をついてきたのだ。
シリカに更に、今日一番の不運に襲われる。
「ッ……。ドラゴンエイプっ!」
この層で最強である猿人のモンスターが現れたのだ。それも、3体も同時に現れた。いつものシリカならば、問題ない。だけど、回復アイテムが尽きている今は危険極まりなかった。
「ガァァァァッ!!」
「きゃあっ!!」
ドラゴンエイプの一撃がシリカを襲う!その一撃はHPゲージを半分にまで削られてしまう。
「きゅーーーっ!!」
主人であるシリカが襲われたのを見て、ピナは すぐさま《回復ブレス》で、シリカの傷を癒し、HPを回復させた。
それは1割程の回復であり、そうはもたない。だからこそ、回復アイテムが必要なのだ。だが……。
「ッ!!(か、回復アイテムが!)」
シリカはこの時、アイテムが尽きている事に気が付いていた。そして、3匹のドラゴンエイプが目の前に迫る。その巨大な棍棒が迫ってきた。
死が目前にまで迫ってきたのだ。
「っ………」
その瞬間、彼女は動く事ができなかった。
圧倒的な恐怖の前で……まるで身体が固まってしまったかのようだった。これまで、死を感じたことが無かったから……彼女を慕う男性プレイヤーが守ってくれていたから。だからこそ、動けなかった。
その棍棒が振り下ろされるその寸前。
自分とその棍棒の間にある影が見えた。
自分の命を奪う攻撃から守ってくれたのは。
この世界で出来た最愛の……。
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