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ドン=パスクワーレ

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第一幕その二


第一幕その二

「僕は僕でやるから。放っておいてくれないか」
「では若し御前が結婚できなかったらじゃ」
 パスクワーレはここで最悪の結末を言ってみせたのであった。
「その場合誰がわしの財産を継ぐのじゃ」
「誰かって?」
「御前の後じゃ」
 その話をするのであった。
「御前の後じゃ。そこまで考えておるか?」
「当たり前だよ」
 すぐにこう返すエルネストであった。
「僕だってさ、ちゃんと」
「変な相手だと駄目じゃぞ」
 エルネストが何かを言う前にもうこう言ってきたのであった。
「言っておくがのう」
「僕の目を疑うのかい?」
「若い奴は何もわかっておらん」
 実に老人らしい言葉を出したパスクワーレだった。少なくともそこには若さはなかった。
「特に今時のはのう」
「そうやって若いのを馬鹿にするのはどうかと思うけれど」
「歳を取ればわかるものじゃよ」
 しかしパスクワーレはパスクワーレで言うのであった。エルネストの言葉をこう返してしまった。
「それものう」
「そんなものかな」
「そんなものじゃ。しかしわしの話はじゃ」
「うん」
「断るのじゃな」
 あらためてこうエルネストに尋ねるのだった。
「それは。断るのじゃな」
「悪いけれどね」
 今までのやり取りから憮然とした顔で返すエルネストだった。
「そうさせてもらうよ」
「折角金持ちの女を見つけて来たのにのう」
「愛はお金じゃないよ」
 エルネストは直球そのものの正論で彼に応えた。
「そんなものじゃ変えられないよ」
「そう言って断るがじゃ」
「じゃあどうするんだい?」
「愛はわしにもあるぞ」
 ここでこんなことを言い出したパスクワーレであった。
「それはのう」
「愛だって!?」
「そうじゃ。何を隠そう」
 にんまりと何かとても楽しそうな顔で甥に告げてきたのだった。
「わしは今相手を探しておる」
「相手?相手って?」
「そんなのは一つしかなかろう。嫁さんじゃ」
 それだというのである。
「嫁さんを探しておるのじゃ。マラテスタに頼んでのう」
「叔父さん、まさかと思うけれど」
「そうじゃ、そのまさかじゃよ」
 そのにんまりとした顔のままの言葉であった。
「今マラエスタに相手を探してもらっておるところじゃ」
「あのお医者さんの」
「そうじゃ。さて、嫁さんを手に入れてじゃ」
 もう早速そんなことを考えだしている。
「楽しくやるぞ」
「楽しくって叔父さんもういい歳じゃないか」
「何を言う」
 今の甥の言葉には目を少し怒らせてきた。
「わしはまだ若いのじゃぞ」
「そんなことを言う人で若い人はいないよ」
「新しい若くて美人でじゃ」
「うん」
 とりあえず叔父の話を聞くことにした。その叔父はさらに続けるのであった。
「しかも資産家で謙虚でじゃ」
「また随分と望みが高いね」
「わしは目が確かだからじゃ」
 だからだというのである。
「そして理想が高いからそうした相手でないと駄目なのじゃよ」
「そうなんだ」
「そういうことじゃ。そしてじゃ」
 彼の話は続く。
「若いぴちぴちした娘と結婚してじゃ」
「年甲斐もなくだね」
「子供を一ダースでも作って跡継ぎにしてみようかのう」
「相手がいればいいね」
 この時彼は叔父の言葉を全く信じてはいなかった。もう髪の毛も髭も真っ白になっている老人にそんなことができるものかとタカをくくっていたのである。しかしそれはあくまでタカをくくっているだけであった。
 
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