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ドン=パスクワーレ

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第二幕その六


第二幕その六

「密会じゃと!浮気じゃと!不倫じゃと!」
 顔を真っ赤にして叫ぶ。両手に持っている手紙を今にも破りそうである。
「最早勘弁ならん!おい!」
「はい」 
 声をかけられた若い男の使用人が主の言葉に応えた。
「何でございましょうか元旦那様」
「元ではないわ、元では」
 今の彼の言葉にはムキになって言い返した。
「わしは今でもこの屋敷の主じゃぞ」
「ですが新しい奥様は」
「決めた。あいつは離縁じゃ」
 怒りに満ちた声での言葉であった。
「もうな。許さん」
「カトリックで離婚はできませんが」
「それでも離縁じゃ」
 使用人の突込みにさえムキになってしまっていた。
「もう許さんわ。教皇様に掛け合ってでも離婚してやる」
「はあ。左様ですか」
「そしてじゃ」
 その真っ赤にさせてしまった顔でさらに言う。
「マラテスタを呼ぶのじゃ」
「マラテスタさんをですか?」
「またこの屋敷におるな」
「ええ、多分」
 こう答える使用人であった。
「そう思いますけれど」
「ならばすぐにここに呼ぶのじゃ。よいな」
「わかりました。それじゃあ」
「あの悪魔をこの屋敷から永久追放にしてやる」
 ノリーナはすっかり悪役であった。彼にとっては。
「地獄に落とし首を跳ね焼けた棒で串刺しにし」
「また偉く物騒ですね」
「お次は水責めにして最後は皮を剥いでやるわ」
「後宮からの逃走ですね」
 ここまで主の怒りを聞いた使用人はこう述べた。
「それは」
「まあそうじゃ」50
 今の使用人の突込みには少し時間を置いて返したのだった。忌々しげな調子で。
「とにかくじゃ」
「マラテスタさんですね」
「すぐに読んで来るのじゃ」
 再び彼に対して告げた。
「よいな」
「ええ、それじゃあ」
「わしもじゃ」
 使用人が去ってから彼も動いた。
 そそくさと部屋を後にする。相変わらず使用人達はあれこれと動き回っている。
「ええと、それはこっちで」
「それはあっち」
「絹のドレスは?」
「ここです」
 彼等はあれこれと動き回り右に左であった。
「それでカーテンは」
「はい、全部絹ですよね」
「それもピンクのな」
「他には?」
 とにかく誰もが動き回っているのだった。
「お花はそこで」
「あとお庭に入れるのは?」
「確か日本の花だったかと」
「日本というと桜か?」
「はい、それと梅です」
 花もなのだった。ノリーナはそれも注文させたのである。
「あと中国の陶器とアメリカの馬に」
「馬もか」
「それも五頭。元の馬もそのままで」
「餌代だけでもかなりだな」
「それで元の家具ですが」
 元からあった家具の話も為されるのだった。
 
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