MASTER GEAR ~転生すると伝説のエースパイロット!?~
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014
「へぇ……。ここがベット・オレイユの街か」
寮の部屋に荷物を置いたハジメとファムは、これからの生活に必要なもの、主に衣類を買いに街に来ていた。
ちなみにハジメが今着ている服はソヴァール・イコールの学生服で、それ以外の服はパイロットスーツしか持っていないハジメだった。
「それにしても本当に獣人が多いな」
街で見かける通行人達は通常の人間も見られたが、それでもほとんどが頭に獣の角や耳を生やしたシメールである。
「この街を見たら弾の奴、喜んだだろうな……」
ハジメは以前の世界の幼馴染みのことを思い出す。自他ともに認めるケモノ萌えの友人がこの光景を見たら、きっと狂喜乱舞するだろうと思う。
「ハジメさん? どうかしましたか?」
「あ、いえ、何でもないです」
「そうですか。それじゃあ早速行きましょうか」
ファムに連れられてハジメは、街のショッピングモールにある服売場に行き、服を選ぶことにした。
「ここにある服って、緑色のが多くないですか?」
服売場にある衣類は緑色のものが圧倒的に多く、それを疑問に思ったハジメがファムに質問する。
「ああ、その事ですか? 『緑』というのはベット・オレイユの人間にとっては特別な色なんですよ」
今でこそ緑豊かな星だが元々ベット・オレイユは荒野ばかりの荒れ果てた星で、ベット・オレイユの住人達は『緑』に強い憧れを懐いていた。服売場に緑色の服が多いのもその名残だとファムは言う。
「それでですけどハジメさんの服は緑色のスーツなんてどうでしょう? ハジメさんは私が認めるくらいのイケメンさんですし、将来のことを考えたら今のうちからスーツに着なれた方がいいですからね」
「将来ってなんですか? ……まあ、いいですけど」
「はい♪ それではハジメさんに似合いそうなのを選びましょう。ええっと、ハジメさんのスリーサイズは上から……」
「ちょっと待ってください。何でファムさんが僕のスリーサイズを知っているんですか?」
「フフン♪ 私はハジメさんの専門医ですよ? これくらい何でもありません」
その様な会話を交わしながらしばらくして、ハジメとファムはハジメ用のスーツ三着と下着類を買って街を歩いていた。その途中でハジメは展示用のテレビから流れるニュースを聞いた。
ニュースの内容は、この数年でゴーレムの出現率が増えていて各惑星国家で被害が増えているというものだった。そのニュースを聞いたハジメは胸のうちに浮かび上がった疑問をファムに訊ねた。
「あの……ファムさん? 僕、のんびり学校に通っていていいんですか? ゴーレムと戦わなくていいんですか?」
別に戦いたいわけではないが、それでも自分も戦った方がゴーレムの被害も少しは減るのではないかと思ったハジメの言葉だった。だがそれを聞いたファムは、
「はい? ハジメさんにはゴーレムと戦ってもらいますよ?」
と、当たり前のことを言うように答えた。
「え?」
「言ってませんでしたっけ? サイコヘルムの学生は軍からの作戦参加の要請をされるんですよ。現場では訓練なしでアンダーギアや乗り物を動かせる人手は貴重ですし、本人にとってもいい経験になりますからね。まあ、ハジメさんの場合は要請ではなく正式な指令ですけど……おや?」
ピピピッ!
「……噂をすればなんとやら、ですか」
「どうかしましたか?」
ファムは懐から通信機を取りだし、通信内容に目を通すと顔をあげてハジメを見る。
「ハジメさん。買い物は終わりです。……お仕事です」
「お仕事?」
「はい。ゴーレムが出現して私とハジメさん……いえ、『イレブン・ブレット少将』に出動命令が出ました」
軍からゴーレムが出現したという通信と出動命令を受けたハジメは、ファムが運転する車に乗ってリンドブルムが停泊している軍の基地へと向かっていた。
「まったくゴーレムもこんな時に現れなくてもいいのに……少しは空気を読めっての」
運転席でファムは車を運転しながら愚痴をこぼす。
「せっかくのハジメさんとのデートでしたのに台無しじゃないですか」
「いえ、デートじゃなくて買い物でしょう? それよりファムさん、ゴーレムは一体何処に出現したのですか?」
ハジメが聞くとファムは非常に残念そうな顔をして、右手でハンドルを持ったまま左手でハジメに情報端末を渡す。
「ハジメさん……そこは律儀につっこまなくてもいいんですよ? それでゴーレムなんですけど、ここから北に三百キロ先の空に百体を超えるゴーレムの群れが現れたそうです。現在軍の航空部隊が迎撃に出ていますが、私達にも急いで援軍に出るようにと」
情報端末の画面には無数の猛禽の姿をしたゴーレムが映っていた。猛禽のゴーレムは全て体が鈍色で、大空に浮かぶ雨雲のような群れの姿を見てハジメが眉をしかめる。
「スティールクラスのゴーレムですか。しかも前回の倍以上の数……」
ハジメにとってスティールクラスのゴーレムはゲームのマスターギアで何度も倒してきた敵で大した驚異ではないが、この世界の人間にとってはそうではない。ファムが言った航空部隊がどれ程の実力を持っているかは分からないが、それでもできるだけ早く援軍に向かった方がいいだろう。
「あの……ファムさん? 基地に行かなくてもリンドブルムを呼び出して現場に向かえばいいんじゃないですか? 非常事態なんですよね?」
その気になればハジメは基地にあるリンドブルムをこの場に呼ぶことができる。だがファムは苦い顔をしてそれを止める。
「あー……。ハジメさんが言うことはもっともなんですけど、それをやったら凄く目立つじゃないですか? できたらそういうのは『イベント』の後にしてほしいと上層部から言われてまして……」
「イベント? 一体何ですか」
「それはすぐに分かり……あっ、基地に着きましたよ!」
ハジメとファムが基地に着くと既に連絡がいっていたのか、二人はチェックを受けることなくすぐに中に通された。車から降りたハジメはリンドブルムが停められている場所に走ろうとするが、その手をファムが掴む。
「ストップです、ハジメさん。リンドブルムに乗る前に着替えが先です」
「着替え? この服じゃ駄目何ですか?」
「駄目なんですって。早くこっちへ」
ファムに手を引かれてハジメが更衣室に連れていかれると、そこで一着の軍服を手渡される。
「さあ、ハジメさん。これに着替えてください」
「この軍服を……ですか?」
ファムから手渡された軍服は黒を基調としていて、シンプルながらも威厳が感じられるデザインだった。
「そうです。あと『コレ』も忘れず被ってくださいね♪」
次にファムが取り出したのは、銀色に輝く鉄仮面。左右にはとがった耳のような突起があり、額には二本の角があるデザインの鉄仮面を見てハジメは目を丸くする。
「な、何ですか、ソレ?」
「何って、ハジメさん専用の仮面ですが? ちなみにコレ、パイロットスーツのヘルメットにも使えるだけじゃなく、通信機能を初めとする色んな機能が詰め込まれたスグレモノなんですよ」
「それは凄いですね。……って、そうじゃなくて。何で僕が軍服はともかく、そんな仮面を被らないといけないんですか?」
「これも上層部からのオーダーなんですよ。今日からハジメさんには作戦行動時はこの仮面を被ってもらい、伝説の英雄の名を受け継いだ軍人『イレブン・ブレット少将』として活躍してほしいって」
「はいっ!? 仮面を被って戦場にでるなんて、何処のレッドでコメットな軍人さんなんですか!?」
ファムの説明に思わず叫ぶハジメの声が更衣室に響き渡った。
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