| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

万華鏡

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第三十五話 厳島神社その九

「というかあそこまで身内で殺し合う家ってね」
「どうなの?」
「あまりないと思うわ」
「そうなの」
「確かに戦国時代だとそういう話もあるけれど」
 この厳島で戦った毛利元就も弟を殺すことになった、織田信長にしても伊達政宗にしてもそれは同じである。
 だがだ、それでもだというのだ。
「あそこまではないと思うだ」
「戦国時代でも?」
「確かに毛利元就も織田信長も実の弟を殺してるけれど」
 その白い床で赤い柱の廊下を進む、左手には反橋が見える。住吉神社の太鼓橋程極端ではないが木造の独特のアーチ型の橋にはえも言われぬ風情がある。
 その橋を進みながらだ、里香は琴乃に話すのだ。
「まず身内で殺し合うってのはないわ」
「それで誰もいなくなるっていうところまでは」
「そう、なかったわ」
「織田信長でもなの」
「その弟も一度は助けてるし」
 そうしたというのだ。
「一族でも何もしない相手は殺さなかったわ」
「そうだったの」
「そう、織田信長でもね」
 実際の織田信長は冷酷非情ではなかったという説もある、人間らしい感情がありしかも中々剽軽な人間だったというのだ。
「けれどね」
「源氏はなのね」
「そう、まあ源頼朝も非道だったかっていうとね」
 これがというと、頼朝の素顔は。
「結構涙脆くて」
「普通の人だったの?」
「そうみたいよ、けれどね」
「源氏自体がだったのかしら」
「そうした因縁だったみたいね」 
 里香は今も反橋を見ている、そのうえで琴乃に話す。
「だからね」
「殺し合って何もなくなったの」
「そうかもね、因縁ってあるから」
「それ神道にもあるけれど」
 ここで言って来たのは景子だった、因縁という宗教的な言葉なので反応したのだ。
「仏教の方になるわね」
「仏教なのね」
「そう、仏教よねそうした考えって」
「そうかもね、私もそう思うわ」
 里香は景子の話を聞いてそうかも知れないと応えた。
「そうした考えはね」
「仏教よね」
「ええ、そうよね」
 五人でその反橋に足をかけた、そのうえで橋を歩きながら話すのだった。
 その中でだ、里香は今自分達が歩く橋を見ながらこう言ったのだった。
「因果応報yね、これってそのまま平家物語の考えかしら」
「平家物語は盛者必衰じゃなかったか?」
 美優が里香にこう突っ込みを入れた。
「序文でもあるけれどな」
「それかもっていうのね」
「それだろ、平家物語は」
「それが因縁もあるのよ」
 そうだというのだ。
「全体的に仏教の色々な考えが入ってて」
「だから因縁もか」
「あるの、清盛さんも最後は地獄に落ちるから」
「そこまで悪い人かっていうと思えないけれどな」
「物語ではそうなのよ」
「それは因果だよな」
「そう、因果応報になるわね」
 清盛の地獄落ちはそれになるというのだ、燃え盛る車を牽いた牛鬼と馬鬼が出て来る場面である。車に無と書いてあり清盛が無間地獄に落ちることを示しているのだ。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧