魔法少女リリカルなのは~その者の行く末は…………~
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Chapter-2 Second Story~sorrowful and graceful……that occurrence~
number-18 commemcement
前書き
開始。
この場合は、高町なのは。フェイト・テスタロッサ。八神はやて。シグナム。ヴィータ。シャマル。ザフィーラ。闇の書。三桜燐夜。
12月24日。
この日は、日付よりもある行事のことで覚えられることが多いだろう。――――クリスマス・イブ。
海鳴市だけでなく、日本全国で恒例となっている行事だが、燐夜にはそんなことはどうでもよかった。ただ、いつもと変わらない日常を怠惰に過ごすはずだったのだ。それなのに。
「ほら、早く行こう!」
「遅いわよ、燐夜」
などなど。
まだ復学して2週間しかたっていない燐夜に対して、なのはは言わずとも、意外にもアリサが頬を若干赤くしながら燐夜の手を引いている。
すずかは、その様子を後ろから微笑ましそうに見ている。少しばかり羨ましそうに見ているのは、気のせいである。断じて、そんなことはないのだ。だから気のせいである。
しかし、フェイトに至っては、完全になのはとアリサを羨ましそうにしている。より正確に言うのならば、燐夜の手を引いていることを羨ましそうにしていた。
そうしているうちに、目的の場所が見えてきた。
ろくに行き先も告げられないまま、為されるがままに連れて来られてきたが、ようやくここで分かった。
病院。
それもただの病院ではない。
海鳴市で一番大きい、海鳴総合病院だ。
ちなみに、嘗てなのはのお父さん、高町士郎が命にかかわる重体を負った時に入院した病院もここだ。なのはが何の抵抗もなく病院に向かっていくことから、その当時に自分の父親がここに入院していたことは覚えていないらしい。いや、入院していたことは覚えているが、ここだとは分からなかったのだろう。
なのはが言うには、ここに友達が入院しているらしいのだ。そして、その友達に燐夜を紹介したいということだった。
しかも、偶然にもここには燐夜の許嫁――――八神はやてが入院している病院でもある。
……今すぐ、ここから逃げたい。
いや、はやてに会うのが嫌なわけではないのだ。今、このメンバーで会うのが不味い。特に、なのはとフェイト。
その当の本人は、まだ理解していないようだがはやては今代――――確か、第16代目だったか――――の闇の書の主なのだ。そして、当然そこには主を守るための剣や盾になる騎士たち『ヴォルケンリッター』が、闇の書に侵されていく主を看病している。
燐夜も襲われる謂われはないのだが、おそらく闇の書の蒐集のために魔力を取られている筈。
そうこうしている間に、すずかが受け付けを済ませて真っ直ぐに何処かの病室へ向かう。
「着いたよ。ここに私たちの友達がいるんだ」
そう言って、すずかは先に入っていった。
なのは、フェイト、アリサはその後に続いて病室内に入っていく。しかし、燐夜はなかなか入らなかった。病室の扉脇のネームプレートを見ていた。
『八神はやて』
この名前を見て、燐夜は今すぐ逃げたくなる。今頃室内ではなのはたち管理局魔導師とシグナムたちヴォルケンリッターが敵意を心の内に秘めたまま、はやてのお見舞いを始めているだろう。
やっぱりと思い直して踵を返してここから立ち去ろうとした瞬間、病室からアリサが出てきて燐夜に有無を言わせずに病室の中へ連れて行った。
「あっ、ちょうどいいところに来た。はやてちゃん、紹介するね。こちらは――――」
すずかの声は続くことはなく、途中で遮られた。はやてに。
「あっ、燐夜君やない。あれから顔見せに来てくれなくて結構寂しかったんやで」
「悪いなはやて、こんなんでも学校が優先だからな」
「そやねー。いいなあ、学校」
「行けるさ、きっと」
対して差し当たりのない会話で2週間ぶりの再会をはやては喜んでいる。勿論、燐夜だって嬉しい。だが、後ろで燐夜を睨む二人がいなければの話なのだが。
なのはとフェイトが二人そろって燐夜を睨む。
嫉妬から来るものであろう。なのはに至っては、フェイトという前例もあるため、またという気持ちが強かった。それと同時に、幼いころには見られなかった燐夜の一面も見られてうれしいという気持ちもなくはなかった。
「何? 二人は知り合いなの?」
そして、今なのはとフェイトが最も聞きたいことをアリサが聞いた。
当然、燐夜としては許嫁という事実を隠したい。今、この敵意を向けて睨んでは来ないが、飛び掛かってきそうな中で更なる騒ぎは起こしたくなかった。
しかし、そんな燐夜の思惑とは反対に話は進んでしまう。
「うん、そうやね。燐夜君は私の許婚や」
「「えっ!」」
さらっと口にしたはやての言葉の一単語に過剰に反応したなのはとフェイト。アリサは、どちらかと言えば、親友とかそういう目で見ているのだろう。アリサが意図的に心の内に隠しているのだが、どこか燐夜を尊敬しているのだ。
許嫁という単語に反応したのは、なのはとフェイトだけでなかった。
主を守るヴォルケンリッターからも一人。ヴィータだった。
はやても人が悪いとしか言いようがない。
おそらくはやては、シグナムには前もって言っておいたのだろう。以前、お見合いの会場で会った時には、全く動揺はしていなかった。シャマルも同様にして、すでに言ってあったのだろう。2週間前に道端でばったり会った時には、二人の会話を邪魔することなく後ろからはやての車いすを押しているだけだった。
ザフィーラはどうなのか知らない。
ザフィーラはそういう色恋沙汰には全く興味なさそうで、盾の守護獣というぐらいだから主を守るためだけに自分は存在しているとか思っているのだろう。
そう、ヴィータだけ除け者にされて何も言われてなかったのだ。
理由は分からなくもない。
ヴィータは、主であるはやてに陶酔している部分がある。そこに、許嫁という話――――ヴィータもその手の話はちゃんと分かっているのだろう――――が舞い込んできたのだ。その相手をブッ飛ばすといった直接的な排除に動くかもしれなかった。
そして、その予想は外れていない。どんぴしゃだった。
◯
はやてのお見舞いを終わらせ、病院の正面玄関までシグナムとシャマルは見送ってくれた。しかし、なのはとフェイト、燐夜はまだ話があるから先に帰っていてとアリサとすずかを先に帰らせた。
二人がアリサの執事が運転する車で病院から出ていくのを見送ると、シグナムとシャマルに向かい、言い放つ。
「何か力になれることありませんか?」
「……ここでは人の目が多い。屋上へ行こう」
そう提案したシグナムが先導して、その後ろを三人はついていく。さらにその後ろにシャマルがシグナムと三人を挟むようにしてついて歩いていく。
五人の表情はすぐれなかった。
「ふむここならいいだろう」
「じゃあ、もう一回言いますけど、力になれることはありませんか?」
「ない。今更管理局が出てきて何を言う。私たちは、主を守るために闇の書の蒐集を行ったまで。……もう止まれないのだ!」
手を取り合うことはできない。
燐夜はその分かり切っていた事実に何も感情を抱くことはなかった。
それよりも今、ヴィータとなのはが、フェイトとシグナムが、そして管理局からも出てきてアルフとザフィーラが戦い始めた。
4つの戦いが起こっても、燐夜は動かなかった。
病院の中で次第に大きくなっていく魔力を一人感じていたからだ。それでも辺りは結界で覆われて一般人はいない筈なのだが、はやてがいるということはやはり魔力を持っていたのだ。
――パリィン
そんな聞き取れるかどうかという窓ガラスが割れる音と共に病室から銀髪で長髪の女性が戦闘態勢で出てきた。左腕にまとわりついている黒い蛇のようなものがあの女性を苦しめているのか。
燐夜はここでようやくバリアジャケットを展開した。それと同時に自分の体にかけているリミッターを3段階まで解除する。
このぐらいで管理局のさじ加減でいうと、魔力量AAA+だったか。……昔のことで覚えていない。
そしてさらに、今では使う者などいないユニゾンデバイスを出した。
「ようやく出番ですかマスター。もっと私を使ってください」
「いずれな」
ユニゾンデバイスであるエクレイアのお小言を適当に流した燐夜は、合図する。
「「ユニゾン・イン」」
エクレイアとユニゾンすると、燐夜の銀髪が金色がかかって瞳の色も変化する。深紅から薄紫へ。ユニゾンによって魔力光も変化する。燐夜はもともと灰色なのだ。そこにエクレイアの魔力光が合わさると、暗い赤色となる。
ちなみにエクレイアとのユニゾン条件は、魔力量がAAAランク以上であること。エクレイア自身が認めること。そして、人を殺したことがあることの三つである。
そして、さらに魔力とはまた違う燐や自身が持っている力、蒼の力を使う。魔力光である暗い赤とは独立して蒼が燐夜の周りから空気中に吹き出す様に放出される。
燐夜も戦闘態勢を整えてから改めて銀髪の女性――――おそらく、10年前にもいたことからあの女性が闇の書の意思でいいのだろう――――が、まっすぐに燐夜を睨みつけていた。だが、左腕でとぐろを巻いていた黒い蛇がいなくなっている。闇の書もなかった。
それでも関係ないが。
向かい合う二人。
遠くから砲撃が時々飛んでくるが、命中するわけでもない。二人がこの膠着状態から動き出す合図になったのは、ひときわ大きい爆発だった。
病院の屋上で燐夜の拳と闇の書の意思の拳がぶつかり合う。
その衝撃は空間を揺らして、音を轟かせて、空気を伝って辺りに衝突の衝撃をまき散らす。一番近い位置にあった建物、病院はガラガラと音を立てて瓦礫の山と成り果てた。
崩れたときに発生した土煙は二人を覆った。
やがて、煙が晴れる。
二人は距離を取ってはいたが、全くの無傷だった。
いつの間にか闇の書が闇の書の意思の傍らに浮いていた。黒い蛇に締め付けられるように巻かれながら。
「燐夜君!」
なのはが燐夜のもとへ来る。それを皮切りに、次々と周りに人が集まってくる。
どうして周りに集まってくるのか疑問に思っていると、フェイトが説明してくれた。あの黒い蛇が騎士たちを串刺しにして蒐集してしまったと。
燐夜はさらにリミッターを一つ外す。これで魔力量はなのはを上回った。
「手は、出すなよ」
「どうして!? みんなでやった方が――――」
燐夜の言葉になのはが反論する。だが、燐夜はなのはの反論を最後まで聞くことなく、闇の書の意思に向かって加速していった。
そして、再び衝突。
その衝撃は、置き去りにしたなのはたちを吹き飛ばした。
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