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遊戯王GX ~Unknown・Our Heresy~

作者:狂愛花
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第7話 退学宣告? 翔の決意の炎

 
前書き
今回の話はデュエルが全く出てきません。

キャラクターの会話が主ですので、ご了承ください。

それでは! 

 
side 三人称

「(ここは・・・・?)」

体の揺れに明日香は意識を取り戻した。

「(そうだ、私・・・・廃寮で誰かに薬を嗅がされて・・・・)」

明日香は自分に起きた出来事を思い出し振り返る。

自分の忠告を無視して廃寮内に入って行く十代たちの姿を目撃し、自分もその後を追って廃寮へと入って行った。

しかし、廃寮内は思った以上に暗く、十代たちを見失ってしまった。

辺りを見渡していると、突然後ろから何者かに薬を嗅がされ、そこで意識が途切れている。

何があったのかと困惑する明日香は、閉じていた目をゆっくりと開けた。

第一に視界に飛び込んできたのは“赤”。

情熱的な炎の赤。

自分を負かした男を連想させる色。

そこで明日香の意識が完全に覚醒した。

「十代!?」

「お! 起きたのか明日香」

思わず声を上げてしまった明日香の方に十代は顔を振り向かせた。

明日香が驚いた訳は、自分が十代におぶられているからだった。

明日香は自分の置かれている状況に顔を紅くする

「な、なんで私十代に!?」

自分の状況に取り乱す明日香。

「お前、廃寮でタイタンに眠らされてたんだよ」

「タイタン?」

十代が言った聞きなれない名前を鸚鵡返しする明日香。

「まぁ、簡単に言えば犯罪者かな? でも、自分の罪を償うって更生を表明したから元犯罪者だな」

鸚鵡返しされなんと言えばいいのか考えている十代に変わり、直哉がタイタンの事を明日香に説明した。

そして、廃寮で起こった事も全て話した。

勿論、直哉たちが体験した事は語ってはいない。

「そう・・・・ごめんなさい、迷惑掛けて・・・・」

話を聞き、自分の所為で十代たちを危険にさらしてしまった事に明日香は申し訳ない表情を浮かべた。

「別に良いって! あ! そうだ、これ」

謝る明日香を笑顔で許し、十代はで拾ったエトワール・サイバーのカードと、廃寮で見つけた写真を手渡した。

「ッ!? これは、兄さん!」

手渡された写真を見て、明日香は目を見開き驚いた。

「悪い、それしか明日香の兄ちゃんの手掛かり見つけられなかったんだ」

十代は申し訳ないと明日香に謝った。

そんな十代に、明日香の顔が再び赤く染まる。

その時、遠くで朝を告げる鶏の鳴き声が聞こえてきた。

「ヤバッ!! 早く寮に戻らないと!! またな明日香!!」

「待ってよ! アニキ!!」

そう言って十代は明日香を背から降ろし、翔たちと共にレッド寮に猛ダッシュで戻って行った。

一人残された明日香は、去っていく十代の背を微笑みながら見つめる。

「フフッ、全く、お節介な奴」

口ではそう言っているが、明日香の顔は頬を赤く染め十代が走って行った方も見て微笑んでいた。

「そういえば、雪鷹の姿が見えなかったわね」

明日香は呟きながらブルー寮に向かって歩みを進めていった。

side out



side 雪鷹

「アァァァァ、アァァァァァァァ」

俺の視界に広がる黒の軍勢。

俺は再び廃寮のデュエルフィールドに戻って来ていた。

何故戻ったかというと、理由は簡単だ。

「アァァァァァァァァ」

未だ俺の前で蠢いている黒い塊たちを処理するためである。

「悪い、遅れた」

そう言って、俺の後ろから直哉が遅れてやってきた。

謝る直哉に俺は構わないと右手を上げてジェスチャーで思っている事を伝えた。

直哉がと到着した所で、俺たち2人は蠢く黒い塊たちに視線を送った。

呻き声を上げ、まるで助けを求めるようにこちらに近づいてくる。

《どうするんだ? 雪鷹》

近づく塊を見つめたまま、ダルキーが訊ねてくる。

そんなダルキーの問いに答えず、俺は部屋中に居る塊たちを見渡した。

闇そのものが形を成したような姿。

フィクションとして客観的に見ていたものが、今現実に俺の目の前に広がっている。

蠢いている塊1体1体から哀愁が感じられる。

こいつらも、元は人間だったのかもしれない。

欲に塗れ、罪を重ねた人間の魂の末路。

そう思うと、俺は罪を犯してはいけないと、思い知らされる。

闇から抜け出せず、助けを求めているその姿は、まるで陸に上げられた魚の様だと、俺は不謹慎にもそう思ってしまった。

そんな事を考えていると、塊たちが先ほどよりもこっちに近づいているのが分かった。

「雪鷹」

隣で直哉が塊の処置を訊ねてくる。

可哀想だと思いながら、俺は左手のデュエルディスクを展開させた。

ディスクの展開を見て、意図を理解した直哉はそうかと呟き、塊の方をジッと見つめた。

まるで人間の処刑を見るかのような表情を浮かべて。

そんな直哉を横目で見て、相変わらず優しい奴だと思いながら、俺はデュエルディスクに1枚のカードをセットした。

ゴゴゴゴゴ!!

地響きを轟かせ、大地から巨大な影が姿を現した。

《っ!? 雪鷹・・・・コイツって・・・》

フィールドに現れた巨大な影にダルキーは目を見開き驚愕した。

そして、巨影に睨まれる塊たちは、捕食者に姿を捉えられた獲物のようにブルブルと震え怯えていた。

巨影に睨まれていないダルキーでさえ、巨影の発している威圧感に気圧され、震えている。

怯える塊たちは、俺に救いを懇願してきた。

しかし、俺はそんな塊たちから目を逸らすよう目を瞑った。

塊たちに理性があるのなら、俺の事を非情で冷徹だと思うだろう。

命を懇願する塊たちの姿に、直哉は憐れむような視線を送った。

そして、俺はゆっくりと瞼を開けた。

「消え失せろ・・・・」

ナイフの様な鋭利な言葉が部屋中に木霊する。

塊たちが必死に助けてくれと懇願するように蠢く。

必死その物の様に俺と直哉は哀れを通り越して、醜さを覚えてしまう。

本当に可哀想だ。

しかし、どんなに懇願されても、俺は奴らを助けたりはしない。

「“殺 れ”」

その言葉が合図となり、巨影の口から青白い閃光が放たれた。

『あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』

閃光に撃たれ、塊たちは悲痛な叫びを轟かせ、霧のように消え去って行った。

閃光が収まると、フィールドには塊たちがいた痕跡は跡形もなく、最初から何もなかったような綺麗さだけがフィールドに残った。

「フッ、これにて仕事は終了。さて、帰りますか」

塊を消し終える、何故そんな顔が出来るのと訊ねられるような満面の笑みを浮かべ、俺は部屋を出て行こうとした。

そんな俺を、直哉とダルキーは心配そうな面持ちで見つめる。

2人が何を心配しているのかは手に取るように分かった。

しかし、その答えを心に仕舞い、俺は歩みを止めることなく廃寮の外へと向かって行った。

side out


side 直哉

ドンドンドン!!

「ここを開けろ!!」

けたたましく鳴り響くドアを叩く音が俺の意識は覚醒させた。

寝起きで不機嫌な眼つきで音のするドアを睨みつけた。

「我々は倫理委員会だ!! 剣崎直哉!! 速やかにこの扉を開けて投降しろ!! さもなくば、このドアを爆破し強行突入する!!」

その言葉に俺はベットから立ち上がり、ゆらりゆらりとドアの方へとゆっくり歩み寄って行った。

昨夜の事もあり、今の俺の気分は最悪だった。

ドアの前に立ち、不意に俺は昨夜の廃寮での事を思い出した。

怯える塊たちを葬り去る時の雪鷹の表情。

あの時、確かにアイツは・・・・・・。

「“笑っていた”」

ドンドンドンドン!!

「剣崎直哉! ここを開けろ!!」

そんな俺の呟きを外からの騒音が掻き消した。

その喧騒に憤りを感じ、俺は眉間に皺を寄せた状態で扉を開いた。

「はい、何でしょうか?」

嫌悪感を顕わにして俺は倫理委員会の隊員たちに応対した。

失礼な俺の態度に、倫理委員会のリーダーと思われる女性の眉間に皺が寄る。

「剣崎直哉だな! 校長室まで一緒に来てもらおう!!」

その言葉と共に隊員たちが俺の周りを取り囲む。

そして隊員2人が拘束するかのように俺の両腕を鷲掴みにする。

その行動に俺の嫌悪感がさらに増し、遂に俺の中で何かが弾けた。

「グァ!!」

鈍い音と男の悲鳴が廊下に木霊する。

俺の右腕を掴んでいた隊員の男が、俺の裏拳を顔面にまともに食らい苦悶の声を上げながら廊下に倒れ込んだ。

左の隊員も同じように、裏拳を食らい廊下に蹲り悶え苦しんでいた。

「ッ! 貴様!!」

突然の出来事に呆気にとられていたリーダーが我に返り、憤怒の形相を浮かべ俺の事を睨みつけてきた。

他の隊員たちも、倒れた隊員に掛けよりながら俺を睨みつけてきた。

「抵抗するなら容赦はしない! 捕えろ!!」

リーダーの命令に従い、隊員たちが俺を取り押さえようと襲いかかって来た。

しかし、俺は平常心を保ったまま向かい来る隊員たちを軽くあしらった。

後ろから来た奴に俺は頭突きを食らわせ、左右から来る奴等に右に裏拳左に肘突きを喰らわせ、斜めから来る奴等には顔面に中指を突き出したパンチを一発ずつ食らわし、全員を一撃でノックアウトさせた。

「な、な、な!?」

一瞬にして部下たちが鎮黙した事に、リーダーは唖然としていた。

当然の反応だろう。

ただの学生である俺が、訓練を受けているはずの男たちをいとも簡単にノックダウンさせてしまったのだから、空いた口が塞がらないのも当然だ。

茫然とその場に立ち尽くすリーダーを見て、俺は溜息を吐いた。

「俺は先に校長室に向かう。そいつらを保健室に連れて行ってから校長室に来い」

そう言って俺は玄関に向かって歩き始めた。

その時だった。

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

絹を裂くような女の悲鳴が寮内木霊した。

不意の事に俺は驚き、悲鳴のした方にバッと顔を向けた。

目を向けた先には俺の隣の部屋、つまり雪鷹の部屋が視界に飛び込んできた。

雪鷹の部屋を見て、俺は全てを理解し大きく溜息を吐いた。

アイツは何をしたんだ。

俺は悲鳴が聞こえた部屋を見つめながら頭掻いた。

「応援呼んでそいつら連れて行ってから、雪鷹と一緒に校長室に来い」

倒れている隊員たちを一瞥し、俺はリーダーにそう伝え直し歩みを再開した。

後ろの方から、再び女の金切り声が轟いてきたが、俺は歩みを止めることなくイエロー寮を後にした。






「「えぇ!! 退学!?」」

校長室に呼び出された俺たちはクロノス教諭から退学を宣告された。

退学を宣告したクロノスの隣で、鮫島校長が悩んでいる表情を浮かべていて、そんな校長の隣に置いてある巨大な液晶テレビから査問委員会が厳格な面持ちで俺たちの事を睨みつけている。

「遊城十代、丸藤翔、剣崎直哉、相原雪鷹、以下の者は、立ち入り禁止とされていた廃寮に侵入し、内部を荒らした容疑によって退学と処す!!」

テレビの隣に立つリーダーが叫ぶように宣告する。

そんなことより、校長室にはまだ雪鷹が来ていない。

雪鷹がこの場に居ないのに、倫理委員会のリーダーだけがこの場に居ると言う事は、どうやら部下たちを放って来たらしい。

冷やかな眼差しをリーダーに向けていると、視線に気付いたリーダーがこちらを向いた。

視線が合うなり幽霊でも見るような表情を浮かべ視線を逸らされた。

失礼なやつだ。

それよりも、雪鷹の事が心配でしかたない。

主に雪鷹自身ではなく、雪鷹を連行しに行った隊員たちの方が。

そんな事を思いながら、俺は現状況を覆すために口を開いた。

「ちょっと待ってください」

静かに手を上げた俺に全員の視線が集中する。

「幾らなんでも調査が早すぎませんか? 確かに俺たちは廃寮に入りました。でもそれはたった数時間前の事です。正確な時間に直しても最低2時間です。そんな短い時間の間に廃寮への侵入発覚とその犯人の摘出、幾らなんでも速すぎます。まるで最初から知っていた様に・・・・」

そう言って俺はチラッとクロノスの方に視線を送った。

俺の視線にクロノスはギクッと擬音を口に出しそわそわし出した。

そんな態度じゃ直ぐにバレるだろうと俺は心の中で呟いた。

「そ、それは、匿名の通報があったのだ」

明らかに挙動がおかしいリーダーの女が目を逸らしたまま答える。

「仮にもこの学園を守っている倫理委員会とも在ろう方々が、そんな嘘か真かも曖昧な情報を信じたんですか? ふざけないでください。そんな不確定情報にまともに取り合わないでください。貴女達は、真実に基づき行動する者です。それが何処の誰かも分からない奴からの不確定の通報を何の疑いも無く信じるなんて・・・・どうかしていますよ」

俺は少々殺気を流しながら倫理委員会とクロノスを睨みつけた。

俺の眼光にクロノスは額に大量の汗を浮かべ、鮫島校長は生唾を飲む。

テレビに映る査問委員会も同様に生唾を飲み、リーダーの女は顔面蒼白で一歩後退さった。

「まぁ、俺たちも廃寮に入ったことは事実ですし、罰はちゃんと受けます。しかし、いきなり退学って言うのは納得できません」

その言葉に遂に我慢の限界が来た査問委員会が怒鳴り散らしてきた。

『う、うるさい!! これは決定事項だ! それに貴様は隊員たちに暴行を働いた容疑も加わりどんな理由を並べようが退学は免れぬ!!』

映像の中から唾を飛ばしながら怒鳴ってくる。

リーダーの女もそうだそうだと賛同の声を上げる。

隣で十代と翔が心配そうに俺の事を見つめてくる。

そんな時。

「俺の親友を退学?」

『ッ!?』

全員の背に悪寒が走った。

恐る恐る全員が入口に視線を送ると、そこには雪鷹が笑いながら立っていた。

しかし、笑っているにも関わらず、雪鷹が纏う雰囲気に全員が意味もなく恐怖してしまっている。

各言う俺も少し、今の雪鷹の状態にビビっている。

今現在の雪鷹の格好は、いつもは結っている肩まである長髪を振り乱し、白いカッターシャツ1枚を羽織り、黒のズボンを履いてその下は何も履かず裸足でここまで来ていた。

その姿はまるで幽霊の様だ。

全員が怯えるのも頷ける。

そんな俺たちの状態を余所に、雪鷹が勝手に話を進めて行く。

「ねぇ、こうしない? 学園側が用意したデュエリストと僕たちがデュエルする。そして勝てば無罪放免。負ければ全員退学。どう? 悪くない賭けでしょ?」

雪鷹の提案を聞いてやっと査問委員会の面々が我に戻り、全否定し出した。

『駄目だ! 駄目だ!! そんな無茶な賭けが通るわけがないだろ!! お前たちは全員退学だ!!』

そんな査問委員会の言葉に、雪鷹の瞳がギラリと妖しく煌いた。

そして、ゆっくりと部屋の中央へと歩み寄って来た。

すでに動きまでもが幽霊染みて見えてしまう。

「へぇ~、そういう事言うんだ。分かったよ。それじゃ、これ使うしかないね」

少し残念そうな口調で言うが、雪鷹の表情は一切そう思っておらず、逆にとても楽しそうな表情を浮かべていた。

『な、なんだ?』

雪鷹の笑みに査問委員会の面々が後退さる。

「アンタたちって、妻子いるよね?」

雪鷹の言葉に全員が困惑する。

テレビに映る査問委員会の面々も困惑しながら頷いた。

困惑する面々を嘲笑うかのように、雪鷹の口角が上へとつり上がって行く。

その表情をまた不気味に思える。

「遊月のアンジェちゃん・・・・」

『ギクッ!?』

雪鷹が何かを呟くと、それが聴こえた査問委員会の連中の額に汗が滲みだした。

その反応を見た雪鷹は愉快そうに微笑んだ。

傍から見ている俺たちは何が起きているのか全く分からないでいた。

そんな俺たちを無視して雪鷹は映像の中で震えている査問委員会の人たちを見ながら楽しそうにしていた。

「この事、奥様方に報告したら、どうなるのかな?」

無垢な悪戯っ子の様な笑みを浮かべ、雪鷹は画面を見つめた。

しかし、画面の向こうにいる査問委員会の面々は蛇に睨まれた蛙のようにカチカチに固まって震えていた。

俺の隣で状況を理解できていない十代が翔と顔を見合わせ、首を傾げていた。

「“僕”の提案、受けてくれる?」

雪鷹が可愛らしく首を傾げ、満面の笑みを浮かべ査問委員会にお願いした。

いや、お願いではなく“命令”だな。

首を傾げていた十代と翔が雪鷹の一人称を聞いた瞬間、身体が硬直してしまったように固まってしまった。

あの時見た事が完全にトラウマになってしまっているようだ。

『・・・・分かりました。その提案を呑みましょう・・・・』

暫くすると、査問委員会は雪鷹の提案を呑んだ。

その言葉にリーダーの女が驚愕し目を見開かテレビを見た。

俺たちの処遇に不服なのだろう。

意見を言おうとしたリーダーだが、喉まで来ていた言葉を無理やり腹の底へと押し戻した。

何故なら、テレビに映っている査問委員会の面々の目尻に、薄らと涙が浮かんでいたからだ。

中には苦悶の声を上げている者もいた。

自分の知らない査問委員会の姿を目の当たりにして、呆れや失望の感情が言葉をかき消したのだろう。

不意に雪鷹の方に視線を向けると、雪鷹はニヤっと口元を歪め勝利の余韻に浸っていた。。

ゾッ。

その表情を見て俺の背を悪寒が走り抜けた。

「ありがとうございました♪」

校長に向き直り、律儀に頭を下げ雪鷹は意気揚々と校長室を出て行ってしまった。

校長室に居る全員は、雪鷹が出て行った入り口を茫然と見つめていた。

ハッと我に返った俺は、校長に頭を下げてから急いで雪鷹の後を追いかけた。

最後に見た査問委員会の顔色は、崖っぷちという言葉がピッタリ当てはまるような表情を浮かべ、天を仰いでいた。

side out


side 三人称

雪鷹という名の災厄が去り、それを追って直哉、十代、翔の3人が退室して、校長室は安堵の空気に包まれた。

「ハァ、本当に末恐ろしい子だ」

雪鷹が出て行った入り口を見つめ、校長は苦笑いを浮かべ、自身の頭を撫でた。

「鮫島校長。まるで相原雪鷹の性格を知っていたような口振りですね」

入り口を見つめる校長にリーダーが訊ねる。

自然と視線が校長に集まって行く。

「私も全てを知っている訳ではありませんが、大まかな事は聞いています」

「それは誰から聞いたのですか?」

リーダーの視線が鋭くなる。

その視線に校長はやれやれと言うような溜息をついた。

「オーナーからです」

その言葉に全員が驚愕した。

この学園の創始者であり、倫理委員会、査問委員会の雇い主。

雪鷹はオーナーと顔見知り。

もしかすれば、オーナーの友人かもしれない。

自分たちは、そんなオーナーと関わりを持つ雪鷹を退学にしようとした。

この件に関しては、直哉の言う通り両委員会に落ち度がある。

その事を2人がオーナーに報告したら・・・・・・。

考えるだけでおぞましい。

倫理委員会のリーダーと査問委員会の背を寒気が走り抜けた。

「で、で、校長は、オーナーからなんと聞かされたノ~ネ?」

両委員会同様に額に汗を浮かべるクロノスが校長に訊ねる。

そんなクロノスの問いに、両委員会はもうやめてと言いたげな表情を浮かべた。

「オーナーからはただ一言だけ、雪鷹と直哉を怒らせるなと、ただそれだけ」

そう言ってクロノスに視線を送った校長の眼差しに、クロノスはギョッとした。

いつもの温和な眼差しではなく、本気の眼光にクロノスはたじろぐ。

それ以上、誰も校長に問う事は出来なかった。




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「ごめんなさい・・・・私の所為で・・・・」

そう言って明日香は十代たちに頭を下げた。

校長室を後にした十代たちは、レッド寮の食堂にて退学デュエルに向けての作戦会議を開いていた。

そこへ、十代たちが退学になると言う事を聞いた明日香、理子、アヤメの3人が駆けつけてきた。

「気にするなって!」

頭を下げる明日香に、十代は満面の笑みを浮かべそう言った。

「で、どうするんだ? 雪鷹」

直哉の言葉に全員の視線が雪鷹に集中する。

「どうするって、何が?」

直哉の問いに、雪鷹は態とらしく首を傾げ、直哉に訊ね返す。

「デュエルの方式の事だ」

「あぁ。その事ね」

直哉の言ったデュエルの方式という言葉に、十代たちは頭上に疑問符を浮かべた。

自分の言葉を理解していない十代たちに溜息をつき、直哉は分かりやすく説明した。

「シングルにするかタッグにするかという意味だ」

その言葉に漸く十代たちは理解し、あぁと納得の声を上げた。

「タッグの方がいいんじゃない? そっちの方が互いをカバーできるし」

明日香の言葉に、十代たちがうんうんと頷く。

「だから迷ってるんだよ」

そう言って直哉は頭を掻いた。

直哉の言葉に明日香たちは「え?」と疑問の声を上げた。

「十代と翔のデッキはどちらも融合を主軸とするデッキ。少し改良を加えれば、タッグでも十二分に戦える。でも」

「でも?」

直哉の言葉を明日香が鸚鵡返しする。

「俺と雪鷹のデッキは、どちらも単体で突っ走るデッキが多いから、タッグにはミスマッチなんだよ」

そう言われ、明日香たちは今まで2人が使用したデッキを思い出した。

そして、明日香はある事に気がついた。

「2人とも天使を持ってるじゃない。あれじゃ駄目なの?」

明日香の疑問は尤もだと2人は頷いた。

しかし、直ぐに首を左右に振って否定した。

「違う違う。直哉の天使デッキは、ヴァルハラで上級天使を召喚して殴るタイプのデッキ。でも、俺の天使デッキは、このクリスティアで特殊召喚を封じて、一方的に殴るタイプ」

雪鷹はベルトのホルスターから1枚のカードを取り出し、明日香たちに見せた。

そのカードには、純白の姿に紅の翼を持つ異色の天使が描かれていた。

しかし、雪鷹の説明を聞いて、さらに明日香の疑問は深まった。

「? 同じように思えるけど」

疑問符を浮かべ首を傾げる明日香たちの姿に、雪鷹はププっと笑いを零した。

そんな失礼な態度に明日香の眉間に皺が寄る。

眉を顰める明日香の表情を見て、雪鷹はケラケラと乾いた笑い声を上げた。

またしても失礼な態度をとった雪鷹に明日香の表情が更に険しいものになって行った。

そして、笑いが収まって来た雪鷹は、閉じた瞼を開けて明日香をその瞳に捉える。

その何もかも見透かしたような澄みきった漆黒の瞳に、明日香たちがたじろぐ。

そして、雪鷹は口元に笑みを浮かべ、明日香に言った。

「まだまだ勉強不足だな」

「な!?」

突然の言葉に明日香は面食らってしまった。

そんな明日香を無視して、雪鷹は言葉を続けた。

「クリスティアの効果は、このカードがフィールド上に存在する限り、互いのプレイヤーは特殊召喚する事が出来ない」

雪鷹がそこまで言うと、明日香の頭にスパークが走った。

そしてハッと顔を上げ、雪鷹の顔を目視した。

その視線に雪鷹の口がニヤリと歪む。

「そう、察しの通りだよ。クリスティアがいれば、ヴァルハラでの特殊召喚、アテナの効果、上級天使の特殊召喚がすべて消える。つまり、特殊召喚が必須な直哉の天使デッキと俺のデッキじゃ、相性が悪いんだ」

お解り、と言いたげな視線を明日香に投げかけ、説明をし終えた雪鷹はそっぽを向いてしまった。

雪鷹のその視線にアカデミアの優等生としてのプライドが反発しようとするのを明日香は必死に抑えた。

「それじゃ、新しくデッキを作ったら?」

少し棘を含んだ言葉を明日香は雪鷹に言い放つ。

しかし、そんな安い挑発に雪鷹は見向きもせず、ただ一言無理と言った。

「何故?」

先程の饒舌っぷりから、再び何かしらの理由が語られるだろうと明日香は身構える。

「面倒だから」

「え?」

拍子抜けだ。

雪鷹の言葉に、明日香は素っ頓狂な声を上げて目を見開いた。

傍から見ていた十代たちも目をパチクリさせていた。

聞き間違いかと、明日香は視線を直哉に向けて、視線だけで訊ねる。

しかし、結果は変わらない。

視線を向けられた直哉は、聞き間違いではないと首を横に振った。

面倒というなんとも呆れた返答に、明日香は身構えて損したと項垂れた。

「だから、タッグは十代と翔だけで、俺と直哉はそれぞれシングルで試合を行うよ」

「でも、大丈夫なの? 学園は本気で貴方たちを退学させようと強敵を呼んでくるはずよ。それも、プロリーグに出場している兵を。そんな相手にたった1人で立ち向かうのは、無謀にも程が有るわ」

呆れから立ち直った明日香は鋭い眼差しで2人を見る。

その視線から、冗談ではない本気だという思いが伝わってくる。

しかし、そんな本気の眼差しの明日香を2人は笑い飛ばした。

「いいじゃないか。俺たちにとっては、良いハンデだ」

不敵な笑みを浮かべ、直哉は面白そうだと笑った。

「誰と“殺れる”のか楽しみだよ」

雪鷹は獲物を狙う狩人の様な瞳を浮かべ、捕食するのを待っているように舌舐めずりをした。

そんな雪鷹に翔は字が違うと呟いた。

もう明日香は何も言わない。

完全に呆れ果てて空いた口が塞がらない状態だった。

「よし! そうと決まれば、翔! デュエルだ!」

呆れる明日香を余所に、十代が突拍子もなく言いだした。

「な、なんでそうなるんスか!?」

突然の十代の言葉に翔は驚愕して意見した。

「お互いのデッキを知るには、デュエルするのが手っ取り早いんだよ!」

そう言う十代に、直哉は心の中ではそれは違うと否定した。

まぁ、互いのデッキを知るに一番手っ取り早い方法は、デッキを公開する事だ。

駄々を捏ねている翔に構わず、十代は翔の腕を掴み、デュエルだと叫びながら外へと駆けだして行った。

十代の提案に翔は無茶苦茶だと嘆きながら、十代に連れられ食堂を出て行った。

十代が出て行き、一瞬食堂に沈黙が流れる。

しかし、呆れていた明日香が正気に戻り、出て行った十代たちを待ちなさいと叫びながら追って行った。

再び食堂に沈黙が漂い出した。

「フゥ、じゃ、俺たちも行きますか」

沈黙を破った直哉が椅子から立ち上がりそう言った。

「十代さんと翔君のデュエルを見に行くんですか?」

直哉の行くという言葉に、理子はそう訊ねた。

この状況下で直哉の真意はそれが妥当だろう。

しかし、直哉は首を左右に振ってそれを否定した。

「いや、少し2人に話さなきゃならない事が有ってね」

先程とは違う直哉の真剣な眼差しに理子とアヤメはただならぬ予感を感じた。






「え!? 襲われた!?」

人気のない火山の麓にある滝で理子が叫ぶ。

人に聞かれては不味いと直哉が話す場所をここに移したのだ。

直哉は2人にあの夜の廃校で起きた事を話した。

原作の歴史にない事態が実際に起きてしまった事に、2人も焦りを隠しきれないでいた。

「俺たちを襲った修道士は、自ら刺客と名乗った。という事は、また別の刺客が俺たちの前に現れるかもしれない。勿論、奴らが行うのは闇のデュエル。デュエルでのダメージが肉体へのダメージとなるデスゲーム。闇のデュエルを体験した者として、皆に忠告がある。闇のデュエルは、俺たちの想像を超える痛みが肉体を襲う。」

直哉は未だに身体に残る痛みに表情を歪ませる。

直哉はあの夜から今までずっとその痛みに耐えていた。

徐々に痛みは引いてきたが、普通なら入院してもおかしくない程の激痛が直哉の身体を常時襲っていた。

直哉の現実味を帯びた言葉に、2人は生唾を飲み込んだ。

「2人に聞きたい事が有るんだけど」

滝の音だけが響く空間に、雪鷹の声が介入する。

3人の視線が雪鷹に集中する。

「なんで2人は廃寮に来なかったんだ? まさか、タイタンの事を知らなかったなんて、言わないよな」

雪鷹の鋭い視線が2人に突き刺さる。

その視線に2人は気圧され口籠ってしまう。

「おい! 急に何言ってるんだ」

「どうなんだ?」

直哉の制止を無視し、尚も雪鷹は2人を問い詰める。

そんな雪鷹の雰囲気に戸惑う2人は互いに顔を見合わせた。

「ちょっと来い!」

痺れを切らせた直哉は、2人に詰め寄る雪鷹の制服の襟を掴み、後ろへと引っ張って行く。

「何するんだ」

突然襟を引っ張られ雪鷹は不機嫌そうに直哉に訊ねる。

「お前、どういうつもりだ?」

直哉の言葉に雪鷹は疑問符を浮かべる。

そんな雪鷹を直哉は鋭い眼つきで睨みつけた。

「お前のさっきの言い方、まるで2人を疑っているみたいじゃないか」

そう、さっきの雪鷹の問い方は、傍から見ていた直哉には警察の尋問に見えていたのだ。

理子とアヤメは自分たちと同じ境遇の転生者。

つまりは“仲間”。

そんなな仲間を雪鷹は疑いの眼差しで見た。

直哉にはそれがどうしても許せなかった。

「理子たちは俺たちと同じ転生者なんだぞ? そんな仲間に疑いの眼差しを向けるんじゃねぇ」

相手を凍らしてしまうような冷たい言葉を述べる直哉を、雪鷹は冷やかな眼差しでただ静観していた。

そんな2人のやり取りを離れた所で見ている理子とアヤメが心配そうな面持ちを浮かべている。

その事に気がついた直哉が2人に愛想笑いを送る。

「兎に角、お前が何を考えているのかは分からないが、仲間を疑うような事は2度とするな。タイタンの件は、俺も気になるから訊ねてやる。だからお前は何も訊ねるな」

いいなと直哉は念を押し、2人の許へと戻って行った。

「悪いな、驚かせて。アイツに悪気はないんだ。ただ今のキャラが不良っぽいキャラらしいんだ。だから、許してやってくれないか?」

雪鷹の失礼な態度を直哉は2人に謝罪した。

2人は頭を下げる直哉に慌てながら謝らないでくれと言って雪鷹の無礼を許した。

「それで、さっきの話なんだけど、タイタンの事件の時、なんで2人は来なかったんだ?」

雪鷹とは違い、直哉は優しい口調で2人に訊ねる。

「私たちも知らなかったわけではありません。だからと言って忘れていたわけでもありません。私たちが女子寮を抜け出そうとした時、運悪く鮎川先生に見つかって、注意と説教を受けていたんです」

雪鷹とは違う優しい直哉の口調に、2人の困惑と恐れは消え去り、昨夜起きた自分たちの出来事を話しだした。

「そうか、それは災難だったな」

2人の話を聞いて、その状況を思い浮かべた直哉は苦笑いを浮かべる。

「はい・・・・タイタンの声が聞けなくて本当に残念です」

タイタンの声が聴こえなかった事を2人は俯き落胆する。

そんな2人に救済の声が届く。

「あの時の会話なら、録音してあるぞ」

「え?」

突然の事に3人は素っ頓狂な声を上げ、声のした方に視線を向ける。

そこには、レコーダーを持った雪鷹が無表情で3人を見ていた。

「お前、いつの間に・・・・」

用意周到な雪鷹に直哉は呆れたような感心したような感情を抱き、そんな直哉たちに雪鷹はドヤ顔をして見せた。

「聞かせてください!!」

目を輝かせ、頬を赤くさせて興奮する理子とアヤメが雪鷹に懇願しながら迫って行く。

その気迫に雪鷹は気圧され後退さった。

立場が逆転してしまっている。

「あ、あぁ」

2人の気迫に雪鷹は遅れて了承を述べた。

その言葉に、2人の顔に満面の笑みが広がって行った。

「ヤッター!! ありがとうございます!!」

地獄に仏とはこの事を言うのだろうかと、傍から見ていた直哉は心の中でそう呟いた。

歓喜する2人は奪い取るようにして雪鷹の手からレコーダーを取り、その場で直ぐにタイタンの声を聞き始めた。

タイタンの声を聞こえたのか、聞いている2人の顔がニャ~と腑抜けた表情になる。

「と、所で2人は、シンクロと爬虫類以外にデッキは持ってるのか?」

直哉の言葉に理子は首を縦に振り、アヤメは横に振った。

「アヤメは持っていないのか?」

アヤメの答えに雪鷹が訊ねる。

「はい。私は、レプティレス以外のデッキは持っていません。家が、貧しかったので・・・・・・」

そう言ってアヤメの表情に影が差した。

気まずい雰囲気が辺りに漂い出す。

理子と直哉がどうして良いのか分からず戸惑っていると、雪鷹がアヤメに声をかけた。

「じゃ、俺と一緒にデッキ作るか?」

「え?」

その言葉に、影が差していたアヤメの表情に光が射した。

曇天の空の切れ間から、豪雨に撃たれた大地を温かく照らし包む太陽の光の如く、アヤメの表情から不安が一瞬にして消え去った。

「1人で作るより、2人で作った方がデッキの案が出やすいし、俺もデッキの改造をしなくちゃいけないから、一石二鳥だろ?」

雪鷹はそう言ってアヤメに微笑んだ。

その瞬間、アヤメの表情が太陽に照らされたように光り輝きだした。

嬉しさ、その感情一色が今のアヤメを形成していると言っても過言ではない程に、今のアヤメはとても光り輝いていた。

「は、はい!」

吹き抜ける風がアヤメの前髪を揺らす。

その髪に切れ間に見えるアヤメの目に、光り輝く雫を雪鷹は捉えた。

しかし、その事に雪鷹は触れる事はしなかった。

明るい雰囲気を取り戻したアヤメを見て、直哉と理子は安堵した。

そんな時、直哉はある事を思い出した。

「そう言えば、なんで理子は入試でシンクロを使ったんだ?」

ただ不思議に思った、それだけの事なのに、訊ねられた理子の身体がビクッと跳ね上がった。

その様子はまるで、殺姫の事を訊ねられた時のアヤメの様な雰囲気を漂わせていた。

「何か、訳が有るのか?」

理子の雰囲気を感じ取った直哉が理子に訊ねる。

「い、いえ、アヤメさんにみたいな暗い話ではありませんよ」

理子はそう言うが、明らかに挙動がおかしい。

何かを隠していると、直哉は確信した。

しかし、直哉は口元に笑み浮かべ、理子から顔を背けた。

「分かった。もう何も聞かないよ」

「え?」

予想外の言葉に理子は目を見開く。

「理子が聞かれて嫌な事を、必要以上に追求したりはしねぇよ」

そう言って直哉は理子に微笑んで見せた。

「だから、理子が話してくれるまで、俺は待ってる」

その言葉で、辺りを漂っていた暗い雰囲気が一気に消えて行った。

自然と理子の目に涙が溢れてくる。

ここで泣いてしまえば、また直哉たちに心配させてしまうと、理子は流れ出そうな涙を必死に堪えた。

「そろそろ翔が逃げ出す頃かな。それじゃ、行こうぜ」

直哉はPADの液晶パネルを見てそう言った。

空はいつの間にか茜に染まっていて、黒い鴉が鳴き声を上げながら夕日に向かって羽撃いていく。

理子は涙を拭い、満面の笑みを浮かべ直哉の方を振り返った。

「はい!」

その顔は夕日に照らされて赤く染まっていた。

しかし、夕日の所為だけではないと、静観している雪鷹とアヤメは理解していた。




△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼




夕暮れの森。

薄らと闇が目に突き出す不気味な森の中を、直哉たちが疾風の如く駆け抜けて行く。

闇がうろつく森の先で、出口の光が4人を導いている。

光に飛び込み、森を抜けた直哉たちの視界と耳にゴツゴツした岸壁と打ち寄せる波の音が飛び込んでくる。

その岩場で、筏に乗り込み海へと繰り出そうとしている翔の姿を発見する。

「翔~!!」

そこへ、十代、隼人、明日香の3人が駆けつけてきた。

やって来た十代たちに驚き、翔は急いで筏を漕ぎだそうとした時、十代が行かせんとばかりに筏に飛び乗った。

すると、筏に飛び乗った所為で、筏はバラバラに壊れてしまった。

乗っていた十代と翔はそのまま海に投げ出されてしまった。

「十代!」

「翔!」

海に落ちた2人を心配し、明日香と隼人が2人の名を叫ぶ。

「た、助けて~!! 僕、泳げないんだよ!」

海に落ちた翔が踠きながら助けを求めて叫んだ。

そんな時、明日香が有る事を思い出した。

「そう言えば、そこって浅かったはず」

「え?」

明日香と言葉に、翔は素っ頓狂な声を上げる。

浅いという言葉を聞いて、改めて翔はその場で立ち上がった。

すると、明日香の言う通り、そこはスネまでしか水位がない程に浅かった。

溺れずに済んで翔はホッと息を吐いた。

その時。

翔の前に水飛沫が飛び散った。

「うわぁ!!」

突然の事に翔は驚いた。

水飛沫が落ち着くと、翔の目の前にずぶ濡れの十代が力強い眼差しで翔を見つめていた。

「アニキ・・・・」

十代の姿を見ると、翔は意気消沈とした表情を浮かべる。

「翔! なんで出て行こうとしたんだよ!」

十代は翔の両肩を掴み訊ねる。

訊ねられた翔は十代から顔を背け、絞り出すように言葉を発した。

「僕じゃ、アニキのパートナーは務まらないよ」

弱弱しく呟いた言葉に、十代が怒鳴った。

「つべこべ言うな! 俺はお前と組んで勝利したいんだ!」

その言葉に、翔は漸く十代の顔を直視した。

その時だった。

「不甲斐ないな、翔」

突然響いた声に全員が声の主に視線を向けた。

その視線の先には、崖の上から翔たちを見下ろす1人の生徒が存在した。

風に靡くブルーの3年生の制服。

青銅色の髪が夕日に照らされて漆黒に見える。

吸い込まれそうな程、淀みの無い瞳が翔を捉える。

不動、その言葉が相応しい程に堂々たるその姿勢は、まさにこの学園の帝王に相応しい。

デュエルアカデミア最強のデュエリスト、カイザー亮。

「お兄さん・・・・」

自身の兄と眼差しに、翔の心が更に淀んで行く。

「逃げるのか?」

容赦なくカイザーの言葉が翔の心を貫く。

「僕は・・・・」

兄の言葉に翔は返す言葉が見つからなかった。

反論の一つもできない弟に、カイザーは落胆した。

「それもいいだろう」

予想外のカイザーの言葉に、十代はカイザーを見た。

そんなカイザーの表情は、無、その言葉が相応しい程に無表情だった。

そのままカイザーは踵を返し去ろうとした。

「ちょっと待てよ!」

去ろうとするカイザーを十代は呼び止めた。

「ん?」

十代の呼びかけにカイザーが振り返る。

そんなカイザーの視線の先には、自分を目視する十代の姿が視界に飛び込んできた。

「アンタの弟、行っちまうぜ?」

兄ならば弟の助けとなれと言いたげな眼差しを浮かべ十代はカイザーにそう言う。

しかし、カイザーは顔色1つ変えることはなかった。

「翔が決めた事だ。それもいいだろう」

そう言って翔に目もくれずカイザーはその場を去ろうとする。

その時だった。

十代の口が弧を描き、不敵な笑みを浮かべた。

「なら、デュエルしようぜ!」

「なに?」

予期せぬ言葉に、カイザーは思わず振り返った。

「俺とアンタのデュエルを、翔へのせめてもの選別にしてやるんだ!」

突拍子もない事を言う十代に明日香たちが止めろと言うが、今の十代は止まりそうにない。

十代の言葉に、カイザーがフッと笑みを浮かべた。

「良いだろう。君とは一度手合わせしたいと思っていたところだ」

そう言いながらカイザーは十代に手を差し伸べた。

「上がって来い。遊城十代」

カイザーの挑発めいた言葉に明日香たちが驚愕した。

カイザーの言葉に、十代の口角がドンドン上に上がって行った。

「ヘヘッ! そう来なくっちゃ!」

十代は嬉々として崖を上って行った。

その姿は宛ら猿と言ったところだろう。

崖を登りきった十代は、カイザーと向かい合った。

互いに強者と認め、眼光がぶつかり合い火花が散る。

「行くぜ!」

その言葉が合図となり、2人が同時にデュエルディスクを展開する。

「「デュエル!!」」

2人の声が重なり、デュエルの火ぶたが切って落とされた。


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「サイバー・エンドでダイレクトアタック!! エターナル・エヴォリューション・バースト!!」

三つ首の巨大な機械龍、サイバー・エンド・ドラゴンの3つの頭から緑・青・黄色の3色の閃光が放たれ、その光線は十代を直撃した。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


十代 LP0


サイバー・エンドの攻撃をくらい、十代のライフポイントがゼロになった。

その衝撃で十代が後ろに大きく吹き飛んだ。

辺りにデュエル終了のブザーが鳴り響く。

この場に居る全員の予想が的中した。

兄貴分の初めての敗北を目にした翔だが、その目には先程の弱弱しさはなく、強固な意志の炎が灯っていた。

敗北した十代も、倒れたまま大の字になり、夜となって星空を見ながら愉快そうに笑った。

そんな翔を見て、カイザーは頬笑みを浮かべた。

そして、カイザーはある人物に視線を向けた。

「君が、相原雪鷹、だな?」

十代とカイザーのデュエルをカイザーの後ろから観戦していた雪鷹に声をかけた。

その事に全員の視線が2人に集まる。

「はい。そうですけど、なにか?」

そう訊ねる雪鷹。

しかし、雪鷹はカイザーの意図が分かっていた。

「明日香から、君が“サイバー”と名のついたモンスターと、サイバー・エンドに酷似した融合モンスターを使っていたと聞いてね」

雪鷹の予想は的中した。

万丈目たちを葬ったキメラテック・オーバードラゴン。

あれを明日香の前で使用した事を、雪鷹はデュエルを終えたイエロー寮の自室で悔いていた。

今自分が直面している自体が起こるだろうと予想して。

「えぇ、使ってますよ」

その言葉にカイザーの視線が鋭くなる。

「それをどこで手に入れた?」

まるで尋問の様な問いかけに周りの者全員が生唾を呑んだ。

雪鷹を射るような眼差しで見つめるカイザー。

その視線を雪鷹は臆すこと無く直視する。

言葉が消え、波のさざめきと風がこの葉を揺らす音が響き渡る。

2人は一歩も引くこと無く睨みあった。

そして。

「フッ」

2人が不意に笑みを浮かべた。

緊迫した雰囲気が2人の笑みで崩壊していった。

突然笑い出した2人に全員が素っ頓狂な表情を浮かべていた。

「フフッ、面白いな。君は」

「フフッ、それはどうも」

カイザーの笑み、それも目撃した明日香は久しぶりに見たと嬉しそうな表情を浮かべ呟いた。

「いつか、君と戦ってみたい」

「えぇ、俺も貴方と戦いたいです」

2人の視線が交差する。

2人の背後に龍虎が見えるようだ。

そのまま2人は互いに背を向け、それぞれの寮へと戻って行った。

「お、おい! 雪鷹!」

去りゆく雪鷹の後を、直哉たちは急いで追って行った。

「カイザー・・・・・・。アニメで見るより、面白い人だったな」

誰に言うでもなく、雪鷹は微笑みながらそう呟いた。

それはカイザーも同じだった。

ブルー寮に戻りながら、カイザーは雪鷹の事を考えていた。

とても面白い奴だと。

十代に負けず劣らず、愉快なデュエリストだと、カイザーは心の中でそう呟いた。

その時、カイザーの心にある想いが浮かび上がって来た。

長らく忘れていた想い。

勝ちたいと言う勝利への渇望。

その想い気が付き、カイザーはまたも笑みを浮かべた。

Side out


Side ???

月が満ちた夜。

満月を眺めながら私は恍惚の表情を浮かべる。

月はとても美しい。

女性なら誰しもが一度は思う、美しくなりたいと言う願い。

そんなことを思い、私は不意に右手に持つデッキに目をやる。

月の美しさを汚す、禍々しさを感じるデッキ。

そのデッキを見て私は表情を歪ませる。

あぁ、私の想い人よ。

貴方のその優しさが、私を苦しめる。

その優しさを受けることすら私にはおこがましい事。

ならば、いっその事・・・・・・。

「私を殺して下さい」

私の呟きが空に消えて行く。

月が欠けて行く。

そして私を睡魔が襲う。

そろそろ眠らなければ。

私はそう思い手に持つデッキを厳重にデッキケースに封印し、ベットへとその身を沈ませる。

睡魔に誘われ、私はそのまま夢の中へと旅立っていった。

今夜はどんな夢が見れるのでしょうか?

とても楽しみですね。

“直哉さん”。

to be continued

 
 

 
後書き
いかがでしたか?

ちょっと最後はミステリアスっぽく書いて見ました。

最後の視点は一体誰だったんでしょう?

次回もお楽しみにしていてくださいね! 
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