駄目親父としっかり娘の珍道中
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第2部
江戸日常編
第36話 新キャラと新展開は突然起こる
太陽の反対、それは月。朝の反対、それは夜。
何が言いたいかと言うと、今現在辺りは月の光が照らす夜になっている。
此処海鳴市某所では住宅街が殆どな為、明かりがついている家屋は殆ど無いと言っても良い。
無論、市街地などはまだまだこれからが本番だぜ、イエィ! ってな具合に明かりが燦々と輝いているのだが。
しかし今回市街地は関係ないのでスルーしておく事にする。
今回は此処市街地にあるとある一軒家の中で起こるとても摩訶不思議な出来事なのだから。
二階建ての中々な出来栄えの家屋。一見するとそれなりに稼いでいる家族が住んでいると思われがちだが、実際にこの家に住んでいる住人は一人、それもまだ若干9歳と言う幼い少女だけである。
その家の中に設けられた電話の待ちうけを確認し、この家の主である少女はふと笑みを浮かべた。
夜も遅い、そろそろ寝た方が良いだろう。そう思い少女は自分の部屋へと戻った。
クルクルと車椅子の車輪が回る音だけが静かな家の中で響く。少女は足が動かない。
原因不明の病に掛かってしまい、4歳の頃からずっと車椅子の生活を余儀なくされているのだ。
両親とも幼い頃に死別しており、実質一人での生活となっている。金銭面では親戚の方が出してくれているので問題はない。
が、やはり少し寂しいと思う面はある。どうせならもっと楽しい日々を送りたい。
毎日がお祭りみたいに賑やかな日々を生きてみたい。
そんな淡い思いを胸に抱きながらも、少女はそれが叶わぬ願いと決め付け、部屋へと戻る。
少女の部屋には多くの本が並べられていた。車椅子生活が多く、人並みの生活が出来ない彼女にとって、本は唯一の娯楽とも言える。その多くは小説が多い。
漫画も好きだがそれだとすぐに読み終わってしまう。
数多くある本の中、ただ一冊だけ異質を放つ本があった。黒の表札に銀色の十字の装飾が施された分厚い本だ。
西洋の聖書を思わせる風貌を放つその本は鎖で厳重に固定されており読む事は出来ない。
少女はその本に余り疑問は持たなかった。自分が生まれた頃にはそれが有ったので大して気にしてないのだ。
今日も夜が更ける。ベットに入り夜を明かそうとしたが、何故かその日はすぐに寝付けず、読みかけの小説を読んでいた。
そんな時だった。例の分厚い本が突如異質な光を放ったのだ。
少女はそれに気づく。疑念を感じその本を凝視すると、突如本が浮かび上がった。
ガタガタと音を鳴らし、回りを固定していた鎖を事もなく引き千切ってしまったのだ。
分厚い表札が開かれ、白紙のページがパラパラと捲られていく。
その本を中心にして、凄まじい閃光が発せられた。その閃光に少女の視界と意識は、光の闇に溶け込んでいくかの様に消え去ってしまった。
***
パタパタ、パタパタ。
サッサッ、サッサッ。
忙しく動き回り、ほうきや埃はたき、果ては雑巾などを手に掃除を行っているは御馴染み万事屋メンバーの四人。
ジュエルシード事件が終結し、江戸に帰って来てから早数日。特に依頼がなく暇な日をダラダラと過ごそうかと計画していた我等が坂田銀時。
が、その計画は彼の娘が計画していた行いにより脆くも崩れ去ってしまっていた。
その計画と言うのが、この掃除である。
「何だってまた源外のジジイんとこ掃除しなきゃなんねぇんだよ!」
そう、四人が掃除しているのは万事屋の事務所じゃない。其処は既に粗方掃除を終えている。今行っているのは江戸一番のからくり技師こと、平賀源外の住んでいる工房である。
その工房のありとあらゆる場所を徹底的に大掃除する。それが娘のなのはが計画していた事なのである。
「だって、お父さん言ってたじゃない。フェイトちゃん達はこの転移装置を使って江戸に来るって。だったら少しでも見栄え良くしないと駄目でしょ」
「だからって今日やる必要はねぇだろうが。そんなすぐに奴等だって来ねぇよ」
「分からないじゃない。海鳴市って江戸よりちょっとだけ遠い港町なんでしょ? もしかしたら今日にでも来るかも知れないじゃない」
ジュエルシード事件の記憶を一切失っているなのはには、海鳴市が異世界だと言う事は伏せてある。些細な事で記憶を蘇らせる訳にはいかないからだ。
なので、なのはの中では海鳴市は江戸より少し離れた港町。と言う風に教えてある。
それを教えた途端にこれであったのだから、銀時も若干後悔してしまう筈である。
「でも、なのはちゃんの考えも強ち間違ってないと思いますよ」
床を掃きながら新八は答えた。
「玄関は家の中を見る上で一番最初に見られる場所ですからね。幾ら中を綺麗に取り繕ったって玄関が汚かったら全部台無しですからね」
「あっそう、じゃ最初から台無しじゃねぇか。幾ら綺麗にしたってこんなガラクタの山が玄関じゃ気分も萎えちまうだろうよ」
周囲を見渡しながら銀時が愚痴った。
確かに、この工房内は酷く汚れている上に大量のガラクタが運び込まれている。
源外が弄くる為に持って来た類らしいが、ハッキリ言って邪魔でしかない。
「う~ん、それならこのガラクタも全部処分しなきゃ駄目かなぁ?」
「おいおい、掃除してくれるのは有り難いんだがこのガラクタを捨てるってのは勘弁してくれ。こいつらを捨てられると部品が足りなくなっちまって仕事にならねぇんだ」
人から見ればガラクタの山はゴミでしかない。だが、此処の主である源外から見ればそれは大切な仕事道具である。それをおいそれと捨てられるのは困り者であった。
「銀ちゃん、私お腹減ったアル。そろそろ飯にするヨロシ」
「其処に置いてある袋の中に握り飯があるから勝手に食ってろ。但し全部食うなよ。俺等の分も残しておけよ」
そう言いつつ、再び銀時は掃除に取り掛かった。文句を言いつつも娘の頼みを聞く。何気に銀時も良いパパさんをやってるようだ。
「よし、後はあの転移装置の掃除だけだね」
自分の回りを一通り掃除し終えたなのはは、玄関口の玄関でもある転移装置の掃除に取り掛かった。
流石に30話近くもほったらかしにしてたせいかかなり埃を被ってしまっている。
このままにしてては流石に衛生上良くないし見栄えも悪い。玄関なのだから其処は綺麗にしなければならない。
そう思い、早速一人掃除を執り行った。
まずは装置の内周を布なので綺麗にふき取っていく。
それから装置の外側の埃取り。それが終わった後に外側を布で綺麗に拭き取って終了である。
「おいチビ娘。分かってると思うが変なボタン押すなよ。それはまだ応急修理しかしてねぇから下手に起動すると何が起こるか分かったもんじゃねぇからよぉ」
「は~い」
前回の一件以来この装置を頻繁に使うと言うので源外は面倒臭がりながらもメンテナンスを行っていた。だが、思うようにメンテナンスは進行していない。
何せこの装置を作ったのがかなり昔な上に結構希少なパーツを多々使う為に思うように部品が揃わないケースが多いのだ。
その為、似ているパーツを用いて騙し騙しで使用する分には何ら問題はないのだがそれだといざと言う時にトラブルが生じてしまう。
それを失くす為に源外も努力はしているのだが、それだけではどうにも埋まりそうになく、こうしてメンテナンスの進行が遅れてしまっているのである。
「よし、内周は拭き終ったから、後は外側の埃取りだね」
装置の中から出てきたなのはははたきを手に周辺の埃を取り払う作業に移った。やはり30話近くも放っておいた為に結構埃が溜まっている。少し叩いただけでモワッと埃が立ち込めたのだ。
因みに、30話って時間に換算してどれ位なの? と言う疑問は無しにして貰いたい。私自身も分からないので。
「うわ、このボタンのところ手垢で汚い。此処から掃除しよっと」
見れば、装置の外側から操作するコンソールなのだが、其処が手垢でベタベタに汚れていた。これもまた見られると結構気不味い。
折角遠方から来てくれた友人に嫌な印象を与えない為にも汚れと言う汚れは一層しなければならないのである。
しかし、コンソールと言うからにはあちこちに意味不明なボタンが並べられている。
その手の知識に精通した人間ならばどれがどのボタンか瞬時に理解出来るのだが、生憎その手の事に精通していないなのはがそれを理解出来る筈もなかった。
「あれ、何か変なボタン押しちゃった」
なのはが押したのは他のボタンと掛け離れた位置にある赤いボタンであった。
押し込み式の良くありがちなボタンであり、それを拭いていた際に間違って押し込んでしまったのだ。
突如、やかましいアラート音と共に赤いサイレンが発光を始める。
「おいチビ娘! 一体何を押した!」
「え? 何か赤い大きなボタンだけど」
「馬鹿野郎! それは転移ボタンだろうが! 今すぐその隣の緊急停止ボタンを押せ!」
源外が慌てだす。現在の転移装置は応急処置をしただけなので正直言って転移出来る状態じゃない。下手すると何が起こるか分かった物じゃないのだ。
急ぎ停止させなければならない。下手すると江戸その物が消えてなくなる危険性すらあるのだから。
「え~っと、緊急停止ボタン緊急停止ボタン……これかな?」
そう思いなのはが押し込んだのはすぐ隣にあった同じ大きさの青い押し込みボタンであった。
それを押し込んだ途端、更に喧しいアラート音が鳴り響く。しかも今度は赤いサイレンに加えて青いサイレンまでもが点灯を始める。
「おいぃぃぃ! 何て事してくれたんだチビ娘!」
「え? これ緊急停止ボタンじゃないの?」
「違ぇよ! それは俺が新しく取り付けた逆転移ボタンだよ!」
「逆転移?」
転移装置の弱点と言うのは転移装置同士を連結する事で初めて転移が可能となるのだ。
しかし、今回源外が取り付けたのはそれらをしないで強制的に相手をこちら側に呼び戻す事が出来る逆転移ボタンと言うのを作ったのだ。
これを用いる事で不足の事態に陥った際にも転移した人間を強制的に元の世界に呼び戻す事が可能となったのだ。
しかし、言わずもかなこれもまた試作状態なのでちゃんと機能するかどうか正直言って怪しい所なのだ。それに誰も転移していない状態でそんなボタンを押してしまったのだ。何を持って来るか分かった物じゃない。
「ちょっと、これってヤバイんじゃないんですかぁ?」
「ちょっとじゃねぇよ、こりゃかなりヤバイだろ? だってサイレン鳴りっぱなしだよ。やべぇよ、このままじゃ俺達全員屍人になっちまうよ。目から赤い水垂れ流しちまうよ」
「嫌アル! 私まだ死にたくないアルよぉ!」
流石にやばそうな空気を肌で感じ出した三人も慌てだす。そして、装置を知っている源外に居たっては頭を抱えて泣き叫ぶ始末である。
そして、押した張本人であるなのはは一体何がどうなってるのか分からず、ただただ呆然としているだけであった。
そして、装置の内側から突如閃光が発せられる。白熱の光はその場に居た者達全ての視界を白一色に染め上げていく。
白色の闇が晴れたのはそれから実に数秒が経過した後の事だった。
目の痛みがまだ残るが、皆同じように目を軽く擦り視界を回復させようとする。
何とか見える範囲にまで視界が回復し、現状を確認を行った。
此処は江戸なのか? 何か周囲に変化が現れたのか? それらの確認をし、現状を理解する必要があった。
見れば、その回りは相変わらず源外の工房内だった。外を見ても特に変わった様子は見られない。
一安心であった。
「良かった。どうやら何所も変わった様子はないみたいですよ」
「やれやれ、一事はどうなる事かと本気でビビッチまったぜ」
安心したのか、普段どおりの銀時に戻る。
「ねぇ銀ちゃん」
「どうした、神楽」
「さっきまでこんな子居たっけ?」
神楽が何かを突きながら尋ねる。其処に居たのは一人の少女だった。
茶色のボブカットヘアーをしたなのはと同じ位の年頃の少女が倒れていたのだ。
「あり? 確かにこんなガキさっきまで居なかったなぁ」
「いや、居る訳ないじゃないですか。さっき此処に居たのって僕達万事屋メンバーと源外さんだけですよ」
新八の言う通りだった。さっきまで此処で万事屋の四人が掃除を行い、それを源外が見ている。そんな感じの図式だった筈だ。そして、光が消えると突然床に見知らぬ少女が転がっている。
一体何がどうなっているのだろうか?
「うわぁ、ビックリした。一体何だったんだろう」
「うるせぇよ。元凶が他人行儀に喋んな!」
確かに、原因はなのはである。其処は流石の銀時でも怒りたくなってしまうようだ。
「だって仕方ないじゃない。ボタンなんてどれも同じで分からないんだから」
「携帯電話が使えない老人かてめぇは! 今すぐタイムマシン使って2,30年前位に行って来い! そんで其処で天寿を全うして来い!」
「やだよ、だって2,30年前には不思議魔女っ子とと子ちゃんやってないもん」
すっかり元の万事屋に逆戻りしてしまっていた。くだらない言い争いをしているこの親子。これで仲が良いと言っても恐らく誰も信用しないだろう。
深く溜息を吐きながら新八は転移装置を見る。
「……え?」
ふと、新八は目を見張った。本来空である筈の転移装置の中に誰かが居るのだ。
現状で確認出来るのは四人。その四人が狭い転移装置の中で山積みになって倒れているのが目撃できた。
「おい、あいつら……さっき居たか?」
「いえ、断言できます。あんな人たち居ませんでしたって」
新八も銀時も断言できた。明らかにさっきの装置の誤作動により何かが変わったのだ―――と。
「う~ん……はっ!」
そうこうしていると、床で寝ていた筈の少女が目を覚ます。そして、目の前の変化にいの一番に驚きだすのであった。
「あ、気がついたみたいだね」
「え? えぇ!? 此処何所? そしてあんたら誰?」
至極普通の驚き方をする少女だった。まぁ、目が覚めたら全く見知らぬ世界に居る。何て事になったら驚いても当然と言える。
「えっとね、落ち着いて聞いてね。此処は江戸のかぶき町って言う場所なんだ」
「え、江戸? かぶち町? あんちゃん何言うとるんや。江戸なんて過去の遺物やないか。大江戸タウンの間違いとちゃうんか?」
「いや、そっちの方が僕知らないんだけど」
明らかに話がかみ合わない。そして、さっきの発言からして、どうやら彼女はもしかしたら別世界の人間なのかも知れない。
「どうでも良いけどよぉ、お宅誰?」
いい加減名前が分からないのでは流石に困る。そう思い銀時は思い切って彼女の名前を尋ねる事にした。
「うわぁ、おっちゃん天然パーマやなぁ、それに死んだ魚みたいな目ぇしとるわぁ。何か辛い事でもあったん? お姉ちゃん何でも聞いたるから遠慮なく言うてみぃ?」
「おい、このガキ一辺締め上げて良いか?」
額に青筋を浮かべながら尋ねる銀時。無論そんな事誰もOKする筈がない。
そんな事したら幼女虐待で確実に捕まるからだ。
「何やおっちゃん、私おっちゃんの事思て言ったんやでぇ!」
「誰がおっちゃんだ誰が! 其処はお兄さんって言うべきだろうがこのクソガキ!」
「誰がクソガキや! 私には八神はやてって言う立派な名前があるんや!」
「俺にだって坂田銀時っつぅ立派な名前があるぞぉゴラァ!」
はやてと名乗る少女と銀時の間で激しく火花を散らせる。とことん銀時は喧嘩を売られる体質のようだ。
そして、それを呆れたように傍観する新八の姿がある。
「ねぇねぇお父さん。こっちで伸びてる四人はどうするの?」
「あぁ、面倒臭ぇから水でもぶっ掛けろ! そうすりゃ目を覚ますだろうよ」
今の銀時はそれどころじゃない。この小生意気な小娘との因縁を断ち切る事が先決だったりするのだ。
「ねぇはやてちゃん。君は何所に住んでたの?」
「私か? 私は海鳴市に住んでたんやでぇ」
「やっぱり、銀さん!」
新八が銀時を見る。それに銀時は頷いた。間違いない。彼女は先ほどの転移装置の事故で逆にこちら側に来てしまったようだ。
今度は自分達とは真逆の事が起こってしまったと言えるのだろう。
「どうでも良いネ。それより早く帰ってレディース4を見るべきネ」
一人、わが道を行く神楽はそっとはやてに向かい手を差し伸ばす。
「え?」
「私はかぶき町の女王神楽アル。立てないなら手を貸してやるアルよ」
「いや、でも私……」
「何時までも地べたに座ってたんじゃ尻が真っ黒になるアル。そんなの女の子として恥ずべき事アルよ」
そんな事を言い、半ば無理やりはやての手を取り強引に引き起こす。神楽の力に負けてはやては起き上がった。フラフラとなりながらも二本の足で地面に立ったのだ。
「え? 嘘、何で!?」
「何言ってんだ。只立っただけじゃねぇか。何そんなにカルチャーショック受けてるんだよ」
「だって、だって私……ずっと車椅子生活してたんやで! それなのに、どうして立てるんや?」
「何?」
はやての言い分に銀時達もまた疑問を感じた。確かに妙な話だったのだ。今まで車椅子生活を余儀なくされていた人間がいきなり立てるようになるなんてそんなSFじみた話がある筈がない。
しかし、見た所はやての両足は別に大怪我をしたとかの類じゃなさそうだ。恐らく病の一種だったのだろう。その病が強制転移の影響か何かで緩和されてこうして歩けるようになった。
そう考えるのが妥当とも思えた。
「う……うぅ……」
そうこうしていると転移装置の中で伸びていた四人も目を覚まし始めた。どうやら水を掛けるまでもなかったようだ。
重なっていた四人が頭を振り、体を起こして行く。そうする事で、四人の全貌が明らかになった。
四人の内三人が女性、まぁ女性とは言うがその内一人は少女の類だったのだが。
そして残る一人は男性だった。見ればその男性の耳は犬の様に尖っており、腰の辺りからは青い色の尻尾が生えている。
何か、こんな類の人間を前に何所かで見た気がする。そんなデジャブを感じていると、四人がこちらを向く。
「い、いかん!」
突如、声をあげるなり四人は慌てて装置の中から飛び出てくる。かなり焦った様子を見せる一同。何をそんなに焦ってるのだろうか?
そう思っている一同の前で、四人は飛び出した後、その場に膝を折り跪きだしたのだ。
「え? 何、何これ?」
全く理解出来ない光景であった。突如四人がまるで【私は貴方の下僕です。どうぞ好きに使ってください】などと言わんばかりにこうして頭を下げて跪いているのだから。
銀時達は勿論、はやてもまた、この状況に戸惑いを感じ始めていた。
「えっと、その……貴方達は一体……」
「我等は、主を守る剣であり、盾に御座います」
新八の問いに一番先頭に立っていた女性は簡潔に述べる。ピンク色のポニーテールの髪型をした綺麗な顔立ちの女性だった。最も、顔を見たのは一瞬だったのだが、しかし体つきは何と言うか、青春真っ盛りな青少年には毒っ気の強い体つきと言える。
魅惑のボディと言えば想像がつくだろうが、多分それだ。
「いやいや、それじゃ分かんねぇって。もっと分かりやすく説明してくれよ」
「闇の書の起動により、我等は召還されました。以降は主の命令通りに、私達は行動致します」
今度は金髪の女性が答えた。体つきは最初のポニーテールに比べると若干控えめだが、それでも魅惑のボディには変わり無い。
「さっぱり訳分かんないアル。お前等何者アルか?」
「我等は騎士。主を守護する騎士。守護騎士、ヴォルケンリッターと覚えて下さい」
最後尾に居た男性がそう述べる。今度は騎士と来ましたか。益々訳が分からなくなり出して来た。
しかも、返答の内容を聞く限りかなり痛々しいのは否めない。もしかして、こいつらそう言った類の趣味をお持ちの輩なのか?
(全員、集合!)
一旦四人から離れると、銀時が手招きでそう告げる。それを見た新八と神楽は勿論、はやてやなのはも同様に集まる。
集まった一同はその場で円陣を組むようにして相談を行う事となった。
(一体何なんですかあの人たち。急に出て来たと思ったら今度は僕達の事を主って言ってますよ?)
(大方あれだろう。下僕プレイって奴? 縛られたいお年頃なんだよ。ドMの集団なんだよ)
先ほどの痛い会話の内容から想像するに、どうやらあの四人は新手のマゾヒストと思われてしまったようだ。
まぁ、銀魂の世界であんな事を言えばそう想像されてもおかしくないのだが。
(マジでかぁ? あんな綺麗な顔しちょるのにそんな趣味持っとるなんて。想像出来へんなぁ)
(見てくれに騙されたら駄目アルよ。最近の若い連中は天使の顔して心で爪を研いでる物アルよ。心の内ではきっと舌なめずりして獲物を探し回ってる筈アル)
(怖いわ~、マジで怖いわ~)
更に誤解の波紋が広がりだしていく。最早、あの四人を騎士と見る者はその輪の中には誰一人として居なかった。只の変態集団。そう思われてしまっているのだから救いがない。
(それでお父さん、どうするの?)
(とりあえず俺が様子を見て来る。お前等は此処から動くな)
会話を一旦打ち切り、銀時が四人の前へと歩み寄る。四人は未だに微動だにしなかった。
放置プレイを堪能しているのか? それとも単に鈍感なだけなのか?
そう思えてしまえる光景でもあったが、何はともあれこいつらが自分達にとって害のない存在かどうか確かめる必要があった。
「あ~、全員顔を上げて欲しい」
軽く咳払いを交えつつ、銀時が命令を発する。それに呼応して四人が顔を上げる。
「俺をご主人様と呼称するのは勝手だ。だがこれだけは言っておく。俺はかなり縛るぞ! その辺のSMパブとは比べ物にならない位雁字搦めに縛っていくから覚悟しておけ! ○○○縛りとか○○○○○プレイとか○○○○とか××××××とか平気な顔してやりまくっていくから、その覚悟があるなら俺についてくる事を許可し―――」
言葉は其処で打ち切られた。何故なら、話している最中の銀時の顔面に向かいその跪いていた四人が一斉に跳び蹴りを放ったのだから。
「誰だ貴様はあああああああ!」
こんな感じの雄叫びと共に。
つづく
後書き
次回【願い事ってのは大概気がついたら叶っている】お楽しみに
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