戦国異伝
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第百三十二話 越前攻めその七
「これで宜しいでしょうか」
「構わぬ」
信長はそれをよしとした。
「今降った兵を入れてもな」
「足かせになりかねませんな」
「心から降った者でなければな」
相手の家がある限りはというのだ。
「やはり不安が残る、そしてそれ以上に」
「敵の城に多くの兵を入れれば飯を食うと思いまして」
「飯が尽きれば終わりじゃ」
人は餓えれば何も出来ない、それ故にだ。
「だから一乗谷の兵は今は多ければ多い程よい」
「ではそれがしの考えは」
「よい、ここで無闇に殺してもならんしな」
つまりなで斬りだ、城の者を皆殺しにするというものだ。
「無闇に殺すことは己の首も落とすことになる」
「その通りですな、それは」
「世の者は常に見ておるのじゃ」
信長はこのことをよくわかっている、天下の誰もが常に見ているとだ。
だからこそだ、人を無闇に殺すとどうなるかというのだ。
「人から忌まれやがては心が離れ己の首を絞めることになる」
「そして遂にはその首を、ですな」
「そうじゃ、まして朝倉の兵はやがて織田の兵となる」
彼等も越前も織田家に踏み込むつもりだ、それで朝倉の兵はというのだ。
「その者達を無闇に殺してはならん」
「ではそれがしは正しかったですな」
「そうじゃ、よくやったわ」
「有り難きお言葉」
「命は出来る限り奪わぬことじゃ」
信長の政の基の一つとなっている考えだ。
「ではまずは金ヶ崎に入り」
「そうしてですな」
「すぐに一条谷に入ろうぞ」
こう満面の笑みで言うのだった。
「ではよいな」
「はい、さすれば」
「竹千代の兵も入れて十一万の兵で進む」
その中には長宗我部の紫の兵達もいる、まさに威容である。
「朝倉は一条谷で降らせる」
「これでまた一つ国が手に入りますな」
「そしてじゃ」
そのうえでだというのだ。
「公方様のことも色々としておかねばな」
「そうですな、公方様も何かとです」
ここで松永が言ってきたが居並ぶ者達の殆どが彼に対して剣呑な目を向けてそのうえで心の中でつぶやくのだった。
(御主が一番厄介じゃ)
(何時までも殿のお傍におるつもりじゃ)
(何時か除いてやるわ)
(その首よく洗っておれ)
皆今も松永を信用していない、悪弾正として隙あらば、と狙っていた。
しかし松永はその彼等の目をよそに信長に言うのだ。
「動いておられますからな」
「そうじゃ、それをお止めせねばな」
「また朝倉殿の様なことになるかと」
「そろそろ武田等も動くであろう」
織田家にとって最大の驚異である彼等もだというのだ。
「そのことを考えるとな」
「やはりまずは幕府ですな」
「うむ、幕府を何とかする」
ここで明智や細川達幕臣を見る、彼等は皆青い具足に青い陣羽織と織田家の色になっている。袴も兜も脚絆も全て青だ、まさに織田家であった。
その中で細川にこう言ったのである。
「よいな」
「承知しております」
「では金ヶ崎に兵を集め一乗谷に向かう」
こう言ってそうしてだった、信長は金ヶ崎に兵を集めそこから一乗谷まで一気に進むつもりだった、越前での戦はすぐに終わらせるつもりだった。
だが近江で異変が起こっていた、久政が長政と家臣達にこう言ったのだ。
「すぐに兵を起こるぞ!」
「なっ、兵をですか!?」
「何故でしょうか」
「その兵で織田家を討つのじゃ」
こう言うのである。
「朝倉殿を攻める右大臣を征伐するのじゃ」
「あの、父上」
今の当主である長政は呆然としながらも何とか我を保ちつつ父に問うた、久政は彼等の前に仁王立ちになっている。
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