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私立アインクラッド学園

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第一部 剣技
  第3話 禁止

 
前書き
そろそろ話を進めようかと思っています。

これから後書きに、「本文後の1コマ」みたいなモノを書くことにしました。

 

 
「お兄ちゃん」

 ふいに、後ろから声をかけられた。この声は…

直葉(スグ)。どうしたんだ?」

 俺の妹、桐ヶ谷直葉。アインクラッド学園、中等部3年。俺はスグと呼んでいる。
 前髪は眉の上で切り揃えていて、後ろ髪は肩につくくらい。キリッとした眉は屈強な戦士を感じさせるので、正直ものすごく羨ましい──本人がきいたら怒りそうだが。

「あのねお兄ちゃん、今高等部1年生は授業中だよね」
「そうだな」
「寝る授業じゃないよね」
「そうですね」
「なんでお兄ちゃんは屋上で寝そべっているのかな」
「寝たいからです」

 ──スグの俺を見る目は完全に冷めていた。

「アスナさんに怒られるよ。怒らせると怖いんでしょ?」
「どんなモンスターよりも可憐で恐ろしいです」
「じゃあ早く教室戻ろうね」

 «実技»の成績が高い高等部生徒は、学園側から«依頼»を受けることがある。もちろん俺も受ける。
 «依頼»というのは、一般の人々から学園を通して来るもので、具体的には«モンスター討伐»とか。王道狩りゲーでいう«クエスト»みたいなモノだ。
 ただ、高校生にやらせるには多少危険なモノもあり──そもそもなんで大人がやらないんだ──その依頼を受ける代わりとして、授業時間関係なくいつでも休める特権が与えられている。──あまり休みすぎると単位落とすこともあるらしいが、まあそれは置いておいて。
 だから(ってわけでもないが)俺は堂々とサボり……じゃなくて休憩をとっているのだ。
 いやいや──と俺が直葉に首を振ったその時。

「キリト君」

 いつのまにか、アスナが屋上に来ていた。

「ええ!? アスナさんまで、サボりですか!?」
「ち、違うわよ直葉ちゃん! わたしは、誰かさんの休憩が長すぎるから呼びにきただけよ……!!」

 彼女がこうして授業中に校内をウロチョロできるのも、依頼を受けているからだ。アスナは俺を軽く睨み、言った。

「君、いつまで休んでるのよ」
「いや、だってさ……昨日、モンスター討伐の依頼、一緒に受けただろ? もう疲れて疲れて……」
「«リザードマンロード10匹討伐»だったら、君がほぼ全員4撃くらいで終わらせちゃったじゃない。そんなに疲れるわけないでしょう」
「いやいやいやいや、連続っていうのは、やっぱ体に来るモンがあるぞ。そういうアスナこそ、なに休んでるんだよ。ほとんど俺がやったのに」
「わたしは休んでなんかないわよ。ただ君を連れ戻しに来ただけだもの」
「先生が連れ戻しに行けって言ったわけじゃないだろ? つまり、アスナだって特権行使してるんじゃないか」
「うっ……そ、それは……」

 アスナが言葉に詰まったところで、スグが言う。

「……ねえ、さっきから依頼とかモンスター討伐とか……なんの話をしてるの? ここの学園は全寮制で、大型連休以外は許可がないと校外に出るの禁止だよね?」

 するとアスナが微笑んで答える。

「そっか……直葉ちゃん、まだ中学生だもんね。えっとね……」

 ──依頼についての説明後。

「えっ、ズルい! あたしも行きたい」
「スグは«剣»の成績が中等部トップだから、来年高等部に進学したら受けられるようになるさ」
「その時は、お兄ちゃんも一緒だからね」
「はいはい」

 適当に返事をすると、スグはニッコリと笑い、屋上の扉を開ける。スグはこちらを見て言った。

「あたし、友達のシリカちゃん待たせてるから、もう行くね」
「シリカちゃん……て、中等部のアイドルって有名の、綾野珪子ちゃん?」

 アスナが尋ねる。──ちなみに俺はシリカと関わったことがあるが、それはまた別の話で。

「そうそう。すっごい可愛いんですよー。目とかパッチリしてて! なんでシリカって呼ばれてるかっていうのは……ま、それはまたいつかお話しします。今はとりあえず行かなくちゃいけないので」

 スグが苦笑いをし、「また今度紹介しますねー」と言葉を残して校舎内に戻っていった。それから数秒間の間を空けてから、アスナが口を開いた。

「キリト君、直葉ちゃんに依頼のこと教えてなかったの? 別に隠すことでもないのに」
「だって、訊かれなかったし……」
「もう……」

 アスナはぷくぅっと頬を膨らませた。
 ──可愛い
 ただでさえ可憐な顔で、こんな表情……。
 依頼を受けているからこそ、二人きりでいられるこの時間。

「キリトくーん? もしもーし」

 アスナが目の前でヒラヒラと手を振った。

「君、この頃よくボーッとするね」
「そ、そう?」
「うん。なにか考えてるの?」
「ものすごく考えてます」
「そ」

 彼女は溜め息を吐くと、少し悲しそうな目をして、俺の顔を覗き込んだ。

「キリト君」
「な、なんでしょう」
「わたしと一緒にいる時は、他のこと考えるの禁止だからね!」

 アスナは俺にデコピンを喰らわせると、屋上を出ていった。

 ──わたしと一緒にいる時は、他のこと考えるの禁止だからね!

 な、なんだそれ。
 俺は、基本的には何も考えてないことが多い。傍にアスナがいる時、考えることっていったら……や、やめよやめよ。なにも考えないのが一番だよ、うん。
 脳内をからっぽにすることに専念していたその時、«ピロリーン♪»というメール着信音が鳴った。

「誰からだ……?」

 右手の人差し指と中指を揃えて、真っ直ぐに振り下ろす。鈴の音のようなサウンド・エフェクトと共に、目の前にメニュー画面があらわれた。
 最近は、携帯電話とか、スマートフォンを使っている者はほとんどいない。
 指先を振るだけでどこでもメニュー画面を呼び出せる、仮想型端末が定番だ。アインクラッド生は、校則で全員それを所持している。
 メールを送ってきたのは、アスナの親友、リズベットこと篠崎里香(しのざきりか)だ。親しい者は彼女を«リズ»と呼ぶ。
 俺は、里香(リズベット)からのメールを開いた。内容は、彼女らしいといえば彼女らしい、素っ気なくシンプルなものだった。
 ──頼まれてた研磨、終わったわよ。放課後、鍛冶室に取りに来なさい。 篠崎里香
 «実技»の中には、«鍛冶»というモノもある。
 リズは鍛冶の腕はトップクラスなので、前に剣を鍛えてもらったこともある。
 最近斬れ味が悪いので、彼女に研磨を頼んでいたのだ。
 ──リズ、授業中にメール送ってるのか。
 結構真面目さんだった気がしたんだけど、俺の性格がうつったのだろうか──あとで謝っておこう。
 俺は苦笑いを浮かべると、屋上の扉を開けた。
 
 

 
後書き
屋上出たその後のアスナさん。

アスナ:ちょっと…あんなこと言っちゃったし、屋上出ちゃったし…。
恥ずかしくて、キリト君とどう接していいかわかんなくなっちゃったよー!!



ここまで読んで下さり、ありがとうございました。


 
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