『もしも門が1941年の大日本帝国に開いたら……』
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第三十三話
「……やったのか?」
それは誰が発したのか分からない。それは討伐隊全員が共通する言葉だからだ。
「………」
伊丹は意を決して首だけの炎龍に近づいた。炎龍は目を見開いたままであるが呼吸や伊丹が近づいても睨みをしなかった。
「……炎龍は死んでいますッ!!」
『ウオオォォォォォォォォーーーッ!!!』
その瞬間、討伐隊は歓声を上げた。勿論、討伐隊に付き添ったダークエルフ達もである。
片瀬など九〇式鉄帽を上に投げていたりする。
「どっと疲れが出たよ」
「それは自分もですよ伊丹大尉」
首だけの炎龍を見ながら樹はそう言った。しかし、樹は辺りを見渡すが誰かがいない。
「大尉、ロゥリィを見ていませんか?」
「ロゥリィ? ロゥリィは……」
「お姉様なら此処よ」
その言葉と共にボロくずのような有り様に成り果てた黒フリルの塊が樹の前に転がってきた。
「ロ、ロゥリィッ!!」
それはロゥリィだった。ロゥリィは全身に傷を浴びており、両腕など皮一枚で繋がっている状況である。
樹は慌ててロゥリィの左腕を元のように付け合わせた。傷口同士がくっつき始めたのだ。
「これは……」
「何にも知らないの貴方?」
白ゴス神官服をまとった女性は樹にそう言った。樹自身も治るとは思ってなかったが、元の形にしようとした本能だったかもしれない。
灰色の髪をたなびかせた女性はボロくずになったロゥリィをフッと鼻で笑った。
「お姉様、主上さんの奥さまになろうってお人が、汚らわしいヒト種なんぞに気安く肌を触れ、触れさせるとは不調法が過ぎまっせんか……」
丁寧な言葉遣いに馴れないのか、自ら舌を噛みそうになって「ちくしょうめェェェェェッ!! だから丁寧な言葉は嫌なんだッ!!」と叫んでいた。
「煩い、あんな女の嫁に誰がなるもんですかッ!!」
「無茶をするなロゥリィッ!! 衛生兵ェッ!!」
ロゥリィは文句を言いながらゆっくりと立ち上がるが、身体は震えておりぎこちない。
両腕の切断面が繋がり、血まみれの手足もどうにか言うことは聞くみたいだ。
ちなみに、他の討伐隊の面々はいきなりの展開に話はついてこれなかったりする。加茂大佐は白ゴス神官服の女性に話そうとしたが、ロゥリィ達が次々と喋るので発言の機会がない。
「主上さんに見初められて嬉しくないんですか?」
「何度も言っているでしょう。わたしぃの主神はエムロイ。死と断罪と狂気、そして戦いの神よぉ」
話が通じないと判断した白ゴス神官服の女性は溜め息を吐いて樹に視線を向けた。
「そこのヒト種のオス。てめぇ、主上さんの妻女になろうってお人を寝取ろうとか考えてんじゃねぇだろうな? もしそうならそのケツに二つ目の割れ目をこさえてやっぞ」
「……よく分からんが、女でそんな言葉は使うな」
樹はよく状況が分からないが一応そう言っておいた。そして伊丹が「質問質問ッ!!」と手を挙げて自己紹介をした。
対する女性はジゼルと名乗った。そしてロゥリィが主上――ハーディを嫌がる理由を聞いた。
「ロゥリィはかなりの強さだ。貴女一人でしたのですか?」
樹はジゼルに聞いたがジゼルはニヤっと笑った。
「そんなわけないだろ。お姉様は強いさ。だがな、人質を取ればどうだ?」
ジゼルはそう言って遥か上空から新生竜二匹が降下してきた。
「それは……」
「オレ独りだと互角。だがこの二頭でお前達を人質に取ればお姉様にだって勝てるんだぜ? 炎龍には劣るとはいえ竜は二匹もいるからな」
その瞬間、加茂大佐はジゼルに見えないように砲兵隊に合図を出した。砲兵隊も気付かれないように動き出す。
その間も伊丹とジゼルが話して新生竜は炎龍から産まれた竜だったり、ヤオがジゼルに怒ってジゼルに斬りかかったりしたりしている。
なお、樹がジゼルに伊丹は炎龍を倒した猛者と言っていたりする。(というより伊丹に任せた)
「ハハハ、ヒト種でも面白い奴がいるもんだな。イタミヨージと……お前は?」
ジゼルは樹に聞いてきた。
「……摂津樹だ」
「イツキとは眷属の契りを交わしたわぁ。この男はイタミと一緒に炎龍を倒した男よぉ。わたしぃは炎龍すら倒す男を伴侶にするというわけぇ」
ちなみにこれはロゥリィのハッタリだ。
「そういう事か……やってくれるじゃねぇかお姉様」
そして新生竜二匹は親の亡骸を見て叫んでいた。
「嬉しいねぇ。こんな奴がヒト種から出てくるとは思わなかったぜ。使徒になった甲斐があるってもんだ」
「このイタミとイツキ、わたしぃを相手にぃ新生竜二頭とあんただけで果たして勝てるぅのかしら? 新生竜は死ぬわよぉ」
「あん?」
そう言ってジゼルは炎龍の亡骸の付近にいる新生竜を見た。
「へ、まだ死んでもいねぇ……」
その時、二門の十加が新生竜に砲撃をした。九五式破甲榴弾は新生竜の腹を貫通して爆発。
この貫通で二頭の新生竜は致命傷を浴びた。そこへ一式砲戦車等の七五ミリ砲も砲撃して新生竜を炎龍と同じように亡骸へと変えたのである。
「な……ッ!?」
一瞬の事にジゼルは唖然としていた。
「こ、此れがイタミヨージの力というのか……」
「(いや違います)」
伊丹は反論しようと思ったがロゥリィが「するな」という表情をしていたので言わなかった。
「ッ!? 大尉、下がって下さいッ!! ロゥリィもッ!!」
その時、一両のチハが砲搭を回転させてジゼルに照準したのだ。樹は二人にそう言ってロゥリィを抱き締めて地面に伏せた。
「ひィッ!?」
チハの五七ミリ戦車砲は九〇式榴弾を発射して九〇式榴弾はジゼルの左三十メートルのところに着弾したが、これは威嚇射撃であった。
「……逃げるが勝ちだぜッ!!」
ジゼルはとても勝ちそうにないと判断して敵前逃亡――所謂逃げたのである。
「良いのか?」
「良いわぁ。懲りずに来るのならぁ、追い返せば良いわぁ。それにぃハーディの妻女にならない理由も出来たしぃ」
「………」
どう反応していいか分からない樹であった。
後書き
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