『もしも門が1941年の大日本帝国に開いたら……』
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第三十二話
「高田ッ!?」
爆発四散をした零戦を見ながら坂井はそう叫んだ。その時、炎龍が坂井が乗る零戦に狙いを定めて向かってきた。
「来いッ!!」
坂井は後方の炎龍を見た時、炎龍が口を開いたのを視認すると左旋回に移行した。
「食われりゃしないぞッ!!」
その直後に火炎が坂井が先程までいた空域に通過した。炎龍は坂井機がやられていない事に気付いて改めて坂井機を追おうとした時、後方から爆音が響いた。
「落ちろォッ!!」
後方から西沢機、太田機、隊長の中島機が七.七ミリ機銃弾と二十ミリ機銃弾を放った。
狙ったのは炎龍の翼――特に牙の部分であり、七.七ミリは貫通せずに跳ね返されたが二十ミリは翼の薄い部分に貫通して炎龍の飛行能力を妨げた。
炎龍は空中戦は不利と悟ったのか、そのまま地上へと降り立った。
「炎龍を視認ッ!! 砲撃準備完了ォッ!!」
「撃ェッ!!」
加茂大佐は砲撃開始を指令して砲兵隊が砲撃を開始した。
しかし、一部の砲は撃たなかった。
「撃たないんですか中尉殿?」
「あぁ、一斉射目で外した時の備えだ。俺としては一斉射目で仕留めてほしいがな……」
九二式十サンチ加農砲の班長はそう呟いた。そして砲弾は炎龍の付近に命中した。
「……やったか?」
「煙で見えませんけどね」
チハの後方に隠れている伊丹と樹はそう話している。
「……煙が晴れます」
煙が晴れた時、そこに炎龍はいなかった。
「え、炎龍がいないだとッ!? 奴は何処に……」
「う、上です中尉ッ!!」
水野の言葉に樹と伊丹は上空を見た。いつの間にか討伐隊の上空約三百メートルにいた。
「動け動けッ!! 狙われるぞッ!!」
樹はチハの車長にそう叫び、操縦手が運転をして逃げ始めた。それに続くように他のチハや一式砲戦車等が逃げ始める。
炎龍はそれを逃がさず、一両の一式砲戦車に火炎を放ち乗員は炎に包まれた。
「ぎゃあぁぁぁッ!?」
炎龍は炎に包まれた乗員を口に加えてそのまま噛み砕いた。
「四号車がやられましたッ!!」
「糞ッ!! 誰でも良いから奴の動きを押さえろッ!!」
加茂大佐はそう叫んだ。
「撃ェッ!!」
その時、先程の砲撃に撃たなかった九二式十サンチ加農砲が火を噴いた。
十加が砲撃するのは絶妙のタイミングだった。何故ならこの時、炎龍は一式砲戦車の乗員を捕食していた時だ。
言い方が悪ければ、味方を犠牲にしたのだ。勿論、十加の砲兵や討伐隊の兵士達はそんな事は思ってない。
戦死は覚悟しているのだ。どうこう言う暇はない。
それは兎も角、十加の九五式破甲榴弾は炎龍の右翼の根本を貫通して右翼を吹き飛ばした。
「次弾装填急げッ!!」
十加の砲兵は砲弾を装填していく。その間にも、漸く討伐隊も落ち着きを取り戻してきた。
零戦隊が上空から炎龍に機銃掃射して炎龍が反撃しないようにしている。
「此方も射撃をするぞッ!! 砲兵隊の時間稼ぎだ。撃ちまくれェッ!!」
歩兵達も九九式短小銃や九九式軽機関銃で応戦を開始する。
「中尉ッ!! 自分が手榴弾で……」
「手榴弾で倒せると思っているのかッ!! 機関短銃で牽制するんだッ!!」
水野が陸軍から提供された九九式手榴弾を手に持ち、樹にそう言ってきたが樹は切り捨てた。
そして別の一式砲戦車が炎龍を砲撃して以前に第三偵察隊が攻撃をして吹き飛ばした右腕の傷口に砲弾が命中した。
炎龍は火炎を吐き出して砲撃した一式砲戦車を炎に包ませた。乗員は慌てて逃げ出していく。
「一式の七五ミリじゃあ決定的な打撃は与えられんぞ……」
樹はそう呟く。伊丹は転んだテュカを助けていた。
「伊丹隊長ッ!! 援護射撃だッ!!」
樹はベ式機関短銃を撃ちまくる。伊丹はテュカを背負ってレレイと共にチハの後方に回り込んだ。
「此処にいるんだテュカッ!!」
伊丹はそう言ってベ式機関短銃を握り締めて射撃を始める。チハも五七ミリ戦車砲を撃つが元々対戦車能力を持っていない五七ミリ戦車砲では歯が立たない。
戦車砲弾は虚しく弾かれてしまった。そしてテュカとレレイが言い合っていたが砲銃声で伊丹や樹の耳に入る事はなかった。
「糞ッ!! 陸軍の砲兵は何をしているんだッ!!」
片瀬が思わず愚痴を言ったが、砲兵は何もしていないわけではない。
砲兵隊も射撃をしていたが、炎龍は満身創痍ながらも寸でのところで避けて攻撃していたのだ。
「何か……何か炎龍の注意を引き付ければ……」
負傷した賀茂大佐は炎龍を見ながらそう呟いた。レレイが魔法で攻撃するが炎龍は見向きもしない。
そこへ、チハの後方に隠れていたテュカが出てきた。
「隠れていろテュカッ!!」
伊丹はそう叫ぶが、テュカは精霊魔法を唱えた。
「いけえぇぇぇぇぇぇぇッ!!!」
テュカは渾身の雷撃を召喚したのだ。その雷撃でも炎龍を倒す事は出来ないが、炎龍の注意を雷撃に向けられた。
「今だッ!! 撃ェッ!!」
砲弾を装填した二門の十加と一門の九六式十五糎榴弾砲が九五式破甲榴弾を発射した。
三発の九五式破甲榴弾は炎龍の首元、腹、左翼の根本に命中した。
「やったかッ!?」
左翼の根本は吹き飛び、腹からは大量の血液が飛び散り、首元は抉られていた。
「止めの一発だッ!!」
装填出来た別の十加が砲撃をして抉られていた首元を貫通して首と胴体を切り離した。
炎龍はゆっくり倒れたのである。
後書き
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