造られた女と創られた力
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log3 行動
深夜の裏路地を一人の少女が歩いていた。浅葱色とグレーを混ぜたような髪色、赤紫のメッシュ。セミロングの髪は下の方は尖っているようにボサボサである。
壊れかけのネオンがバチバチと音を立てる以外は不気味ほど静かな所だった。怪しげな店から、もう使われていないだろう住居まで様々な建物があったが、少女が……高校生程の少女が来る場所ではないだろうことは明白であった。
―――ボロ布を羽織っているという、少女の装いを見るまでは……
「へくしっ!」
少女はくしゃみをした。ボロ布しか着ていなければ当然風邪をひく……普通はそう思うだろう。
……だがくしゃみの原因は、それではないようだ。 なぜなら―――
「この人たちも……知らなかったみたい……」
周りには死体や燃えカスしか残っておらず、少女は返り血を浴びていたから……
くしゃみをしたのは、返り血が鼻についたからだということだった。
■
――翌朝――
「ここにも居ない……ここも居ない……う~ん」
パッと見れば、子供が犬や猫を探しているようにも見える。 が、少女が探しているのは犬猫ではない。 かといって、居ない、と言っているから人を探しているというわけでもない。
「何処に行ったんだろ……ねぇ、”青”ちゃん」
少女は”宝石”を探していたのだ。 宝石に話しかけるものなど、よほどの宝石好きか何かしかいないが、それでも彼女のように―――『友達に話しかけるように』宝石に話しかける人間は珍しいだろう。
道行く人は、ボロ布しか来ていない少女を見ても何も言わず何もせず、ただ通り過ぎていく。この国では捨て子は別段珍しくはないからだ。 だからといって、高校生ぐらいの少女がボロ布のみの格好でいるのを見て不思議に思わないのもおかしいが……。
「別の場所を探すか……」
言い終わった時にはもう少女の姿はなかった。……一人でも空を見上げた者がいたなら、背の高い建物の上を走る少女を見て、驚いたことだろう。
■
「はぁ~、見つかんないな……みんな」
時刻は18時。 夕日も落ちかかり、暗闇の量が多くなってきた。少女は廃墟の入口階段部分に腰掛け、溜息を吐いていた。
「……また……私の、頭の中にある『常識』を、引っ張り出してみるしか……ないかな」
少女の頭の中にはどうやらある程度の『常識』が備わっているようだった。……嫌な顔をしている少女の様子を見るに『常識』を引っ張り出すのはあまり気分のいい行為ではないようだ。
「む……ぐぅ……ぁぁっ……!」
少女は胸を押さえ苦しみだした。時々頭の方にも手を持っていこうとするあたり、頭も痛いのだろうがそれよりは胸の痛みの方が上のようだ。やがて苦しみも収まったらしく、少女は情報を整理し始めた。
「……悪魔……と、堕天使と天使? 堕天使は……味方? 敵? 天使と悪魔は……?」
自問自答―――いや、自問”自問”を繰り返し、少女は別の意味で苦しみ始めた。
「三……竦み……? 領土? ……だめだ、わかんない……」
少女は考えるのをやめ、その場に大の字に寝っ転がった。腰掛けていたのは階段の最上部だった為、頭を打つなんてベタなことは起きなかった。
[ウヒヒィ……久シブリニ、女ノ子食エルゼェ]
代わりに起きたのは化物の登場という頭を打つのと同じくらいベタなことだった。
[ナ!? ……ナンダコノ女!? 悪魔!? 堕天使!? 龍!? 他ニモ訳ワカンネェモンイッパイ感ジルゾ!?]
化物は少女の異質さに気づき、驚愕と困惑の声を上げる。
「……誰なの?」
と、さすがに気づいたらしく、少女は化物の方へ顔を向けた。そして一瞬動きが止まり、後ろに飛び退った。
「お前……”悪魔”!」
[チイィィ! コウナリャ全力デブツカッテ木ッ端微塵ニシテヤル!]
化物はオーラを纏い、背中のブースターらしきものからジェット噴射を行って少女に突貫した。
「……そっか……”悪魔”は……”敵”なんだ……」
何処からか”青い蛇の宝石”を取り出し、左腕の窪みにはめ込んだ。 少女の腕と髪の毛の見た目が変わり、明らかに先程とは何かが違うとわかる。
そして、少女は左手を正面に向け、
「はぁ!」
濃い、青い”水流のようなもの”を猛烈な勢いで放出した。勢いをつけすぎていた化物はこれを避けきれず喰らう。
[ヌオオォォォ!?]
避けようとしたせいで攻撃進路がずれ、”水流のようなもの”の威力もあり、少女にかすりもしなかった。
[グアアァァ……! コノォ、糞ガ――キ!?]
なんの前触れもなく”水流のようなもの”が当たった箇所に嵐の海の色をした炎が上がる。炎は徐々に化物の体を蝕み、
[アア……! ァァァ……!]
跡形もなく焼き尽くした。……あとに残ったのは、少女と燃えカスの灰のみであった。
「みんなの場所はわからない……けれどわかった事がある……」
少女は拳を握り締め、決意したようにつぶやく。
「”悪魔”は敵……私の――私達の敵……!」
side青髪の女
何だあの女は……あの神器も見たことがない……。だが、一つだけ言えることは―――
あの女は……敵にも味方にもなり得る……そして、危険な存在だという事か……
報告しなくてはな……
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